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天露の神  作者: ライトさん
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和香様のツボ

お風呂の回で有ります

 七瀨を交えて女三人、わいわいと談笑に興じること暫し、頃合いかと思ったのか和香様が提案してきた。


「そろそろお腹もこなれたんと違う?お風呂行く?」


 言うまでも無くこの問いは七瀬に向けられたものだろう。


「いくいく!」


 七瀨の表情を見ていると、嬉しさここに極まれりと言った感じだ。

彼女らは話の流れでわいわいとお喋りを続けながら、風呂のある方へと移動していく。後に残されたのは僕とユウ。


「お前は風呂に行かないのか?」


 するとユウは少し考え込みながらぽつりと言う。


「僕は一応僕って言っているから、男の子だと思うんです。だから女性と一緒に行くのはいかがなものかなって…」


 何とも殊勝なことを言っている。しかしユウの場合の性別って言うのは色づけみたいなもので有って、僕って言う話し方そのものには、余り関わらないのじゃ無いのかなあ?


「七瀨の家ではどうしてるんだ?」


「一応家では主に入れて貰っています、でも僕は別に入らなくて良いって言っているんですよ?」


 ユウなユウなりにささやかな抵抗は試みているらしい。だが七瀬がそんな事気にしていないのなら、別に拘らなくても良いのにね?


「なら一緒に行ってくれば良いのに?」


「でもここだと他にも女性が、しかも相手は神様ですよ?いくら何でも憚ってしまいますよ…」


「う~~ん、大丈夫だと思うけれどもなあ。なら僕と一緒に来るかい?」


 するとユウは実に嬉しそうに大きくかぶりを振った。


「お供させて頂きます!」


 と言うことなので僕はユウを引き連れて男性と書いてある暖簾をくぐり、脱衣所に入って湯着に着替えた。


 当たり前の事ながらユウに脱ぐ物も無ければ着る物も無い。ある意味常時素っ裸なのだが、こんな奴が風呂に入る入らないで何を遠慮しているんだろう…。


 洗い場に入った僕は綺麗に体を洗い、ついでにユウのことも丸っと洗い上げてやった。その後肩にユウを載せてふらりと露天風呂に向かう。


 当然のことながら行った先の露天風呂には、湯着をまとった先ほどの女性三人組が、わいわいと仲むつまじくお喋りをしている。


「へっ?」とは気の抜けたようになっているユウ。


「ここって中は一緒なんですか?」


 するとその言葉を聞きつけた和香様が、こちらに来いと手招きしながら返事を返してくる。


「そうやで~、誰にも説明されへんかったん?」


「はい…」


「そら可哀想やなあ、祐二君、ちゃんと説明したらなあかんで?」


 僕は苦笑しながら返答した。


「はあ、でも説明するも何も、実物見る方が早いかと思いまして。それに…」


僕の言葉の語尾を引き継いで和香様が問うてくる。


「それに…なんやのん?」


「だってその方が面白いでしょ?」


 一瞬、何のことか分からないと言った表情だった和香様が、僅かな時間の後合点がいったのか、初めて見るような笑い声を上げつつ笑い始めた。


「キャハハハハハ!」


 そして風呂の水面を手でばしばし叩くものだから、そこいら中に湯しぶきが飛びまくる。


「わっ!和香様…」


「…これ、和香…止めぬか?」


 その被害はもろ他のメンバーに!仕方なしに僕を含めた面々は、出来るだけ和香様から遠ざかって避難することに。


 暫く笑い転げた後和香様は、はぁはぁ言いながら草臥れきっていた。


「あかん…笑いすぎてしもうた…」


その和香様の所に歩み寄る雨子様。


「てぃっ!」


「あいた!何すんのん雨子ちゃん?」


「何するも何も無いものじゃ。この惨状を見てみるが良い」


 そう言われて和香様が周りを見ると、全員頭からずぶ濡れで、更には、いつの間に巻き込まれたのかユウが俯せになってぷかぷか浮いている。


 それを見つけた七瀨が、慌ててユウのことを助け上げる。


「あー、儚くなってしまうかと思いました」


そう言うユウは何ともげっそりとした感じだった。


「なるほどや、ごめんしてやみんな。そやけど祐二君も悪いねんで、あないに面白いこといきなりゆうんやから…」


 更にその先もぶつぶつとぼやいているのだが、雨子様に睨まれるとぐっとこらえて言葉を飲み込んだ。


 その様子を見ながら雨子様が事の次第を問うてくる。僕としては、隠すことなど何も無いのでありのままを分かりやすく説明する。


「なるほどの、所謂和香の笑いのツボに填まったと言うことなのじゃな?」


「そうかも知れません」


 僕としてはそんなにおかしなことを言った覚えも無いので、そうとしか言い様が無かった。

そんな僕のことを和香様が少し恨めしそうに見ている。


「え~~、祐二君としてはそんな感じやったん?うちとしては些細なことをあんな風に楽しくおかしく持ってこれる祐二君の才能に、畏怖すら感じてしまうんうやけどな」


 ともあれ、一頻りの騒ぎが収まって、皆でやれやれとばかりにのんびりと湯につかった。

と、そこで初めて七瀨と目が合う。とたんに七瀨が真っ赤になる。


「うわわわわわ!」


 すると雨子様がうんざりとした感じで七瀨のことを見る。


「またここにも妙なものが湧き居ったぞ?」


「そんなこと言ったってぇ~」


 七瀬はそう言いながら雨子様の後ろに隠れようとする。


「のうあゆみ、そなた別に生まれたままの姿でここに居る訳でも無かろうに?」


「う、生まれたまま?裸?」


 七瀬はどうやらうろが来ているようで言っていることの要領を得ない。


「しっかりせぬか?ちゃんと着る物を着ておるであろうが?」


「そうなんだけど、そうなんだけどお風呂というとなんか違わない?」


 雨子様が呆れかえって七瀬のことを見つめる。


「あゆみよ、海に行った時はもっと布が少なかったでは無いか?」


 どうやら雨子様は水着と湯着を比べているらしい。そして七瀬の頭にも雨子様のその言葉がようやっとのこと染み込んできたらしい。


「そ、そう言えばそうね」


 だがそうは言っても雨子様の後ろに隠れたままだった。そしてその様子を和香様が興味津々と言った感じで見つめている。


 そんなこんなでワーワーやっていると、ユウがひっそりと口を挟んできた。


「あのう?もしかして僕も何か着た方が良いのでしょうか?」


 その台詞を聞いて顔を見合わせる和香様と雨子様、僕と七瀬、そしてユウを除いた全員。それはもう皆笑い転げて温泉の水面が沸き立ったことは言うまでも無いだろう。


 その波立った水面が静かになり、皆の笑い声が訊かれなくなった頃には、すっかり逆上せ上がった四人と一匹が出来上がっていたのだった。

お風呂の回では有りましたが、皆様ご期待のポロリに類いするようなものは何もありませんでした。

合掌

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