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天露の神  作者: ライトさん
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温泉の地再び

今回は七瀬のお陰で、とんでもないこと?が起こります。雨子様すら恐れおののくという・・・

 大過なく神社の奥へ辿り着いた僕達はそこで小和香様の迎えを受けた。


「こちらが和香の筆頭分霊の小和香じゃ」


 早速雨子様が小和香様のことを七瀨に紹介していた。小和香様は成りは小さいが壮麗な出で立ちで有る。七瀨は少し気圧されながらも挨拶をしていた。


「初めまして、七瀨と申します。済みません、無理を言って突然私まで参加させて頂いて。」


 七瀨はそう言って頭を下げている。さすがの七瀨もいきなりこれは失礼だと思った様だ。だがそれでも押しかけてくるのが七瀨でも有る。


「いえいえ、和香様からは七瀨様のことも伺っておりまする故、お気になさらずに」


 丁寧に受け答えする小和香様。


「ではこちらへ」


 早速に僕達を以前来た奥へと案内する小和香様。しずしずと音も無く、いつもながらその所作は完璧と言って良いほど美しい。


 どうしてあんな方言丸出しのお姉ちゃん神から、この様に素晴らしい分霊が産まれたのか追求したくなるくらいだった。


 少し歩くうちに、僕達は以前泊まった時の広い方の部屋へと連れて行かれた。


「こちらで暫くお待ち下さいませ」


 そう言うと小和香様はすっと席を立ち、いずことも無く去って行った。

と、それを合図としたかのように小物が現れ、皆にお茶を配していく。


 そのうちの一人がつとユウのことを睨む。そして小首を傾げるのだが、直ぐに納得すると、ユウの分も茶を用意してきた。もしかすると背後で色々と指示があったのかも知れない。


 小物が去り一段落していると、自然部屋の外へと目が向いていく。

濡れ縁を通しその向こうに美しい日本庭園が広がる。ぼちぼちでは有るが木々が色づき始め、日本の秋の始まりを告げていた。


「何とも綺麗なところなのねえ」


 いつの間に濡れ縁まで出たのか、七瀨がため息をつくように言葉を紡いだ。

それに応じて雨子様が言葉を編む。


「これこそが、我らがこの国に住まう訳じゃの」


「それは雨子さん達神様方が、この国を好いている訳と言うことなの?」


「うむそうじゃな、中には酔狂な者どもが他の土地を好むことも有るが、主たる者たちは皆こう言う物を望む」


「それはまた何故なんですか?雨子様達の元々の故郷に似ているとか?」


不思議に思って僕がそう問うと、雨子様はゆっくりと首を横に振った。


「いや、さすがにそうでは無いの。実際我は我らの種族の故郷は知らぬ。一応記憶というか、どんなものであったかというような物は心得て居るが、我としてはそれに特別な思い入れは持っては居らんよ」


 そう話しながら雨子様もまた濡れ縁までやって来、そしてそっと腰を下ろした。


「我らは神の身であるが故、普通に暮らす分には寿命に制限が無い。もっとも我は普通に暮らすこともままならなかった為に命を無くしかけたがの」


 そう言うと雨子様は自嘲するかのように笑った。


「そんな我らであるが故に、単調な世界じゃと直ぐに飽いてしまうのじゃ。また飽きないまでも、時間の流れを感じることを不得手としてしまう。まあ、そうならない為にも変化に富んで居る自然、つまりはこの国の場合であれば四季、が有ることが望ましいのじゃ」


「なんとそんな理由付けがあるのかあ」


「何せ季節の変化が無いような所じゃと、ぼーっとして居ったらどれだけの月日が流れたのか、まったく分からなくなってしまうこともあるからの」


雨子様のその言葉を聞いて僕と七瀨は吹き出してしまった。


「いくら何でもそれはぼーっとし過ぎなんじゃ無いですか?」


「それがそうも言い切れぬよのな。時を無制限に使うことが出来るものの、馬鹿げた事柄でもあるかの」


 成る程、雨子様に言われてみて初めて分かるような、そんな視点だった。


「お待たせ」


そんなことをなんだかんだとわいわい言っているところに和香様がやって来た。


「ん?どないしたん?皆揃って庭見て何かあったん?」


「有ったと言えば有ったような、無かったと言えば無いような?」


「なんやよう分からんこと言うとるな?」


 和香様の言葉が丁度途切れたところで七瀨が挨拶した。


「今日は和香様、この度は突然押しかけてしまい申し訳ありません。温泉に行くなんて聞いたらついつい私もって押しかけちゃいました」


 あれがついついという事なんだろうかと思ったが、ここは沈黙は金という諺を思い出しておくことにした。


「あー七瀨ちゃん、七瀨ちゃんのことも誘わなあかんとは思てたから別にかまへんよ。前回は祐二君とこのご両親も来る予定にしとったから、人数の加減でちょこっとよう誘われへんかってんけど、こちらの対応の準備もしっかり整うたから、これからはもっと多人数でも大丈夫や、ど~んと来いやで?」


 そう言いながら和香様はにこにこしている。


「それでお昼少しまわっとるんやけど、自分らご飯食べたん?」


和香様が時間を考えて気を遣ってくれる。


「食べたというか、無理矢理というか」


 僕がうんざりとした表情でそう言うと、和香様が何事があったのかとばかり聞いてきた。

思うに和香様はなかなかに好奇心旺盛だ。


「なんか余程のことがあったんやね?」


「余程のことも何も…」


 僕はそう言うとここに来る前の喫茶店で有ったことを手短に説明した。

すると途端に和香様の目がきらきらと輝き始める。


「何それ一体?めっちゃ面白いやん?なあなあ今度そこ行く時はうちも呼んでくれへん?絶対行きたいねんで?」


 うっぷ、何だか思い出すだけで胸が焼けてきそうだ。僕はそんな事を思いながら言う。


「その時は七瀬から和香様のこと誘って上げてよな?」


「え?祐二は一緒に行かないの?」


 どうして七瀬はそこでびっくりまなこで僕を見つめるのだろう?


「いやもう僕はあの一回で十分だからね。多分、きっと、おそらく、当分夢に見ることになると思う。だから誘わないでね。因みに雨子様はどうされます?」


 すると雨子様は七瀬にもの凄く申し訳なさそうに言う。


「すまないのあゆみよ。真に言いにくいのじゃが我も今暫くはもうパフェとやらは喰いとう無い」


「ええ~~~~!」


 と言いながら七瀬は憤慨しているが、あの状況を乗り越えて尚、また直ぐにでも食べに行こうかって成れるお前の方が、絶対に変だからな?


 学生の頃、盛夏に友人と食べに入った喫茶店のフラッペ、こいつが脅威でした。

何せ金魚鉢に入って出て来るのですから、推して知るべし。

店を出ることには顔を青くしていましたっけ・・・

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