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天露の神  作者: ライトさん
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密かな戦い

のんびりほんわかの回が続く中に時折緊張回が…温泉入浴の合間に世界の行く末に関わることが…

 食べて騒いで、気が付いたらいつの間にか眠ってしまったのだけれども、ふと人の気配を感じて目を覚ました。

見ると濡れ縁で腰掛け、和香様と雨子様が二人揃って静かに話し込んでいる。


 まだ少し寝惚けている頭のまま、なんだろうとそちらの方を見つめていると、雨子様が気が付いて手招きしてきた。


 僕はもそもそと布団の中から起き上がると、雨子様達の方へと向かった。

すると雨子様が苦笑をしながら小さな声で僕に言う。


「祐二よ、こちらに来て万歳するのじゃ」


 何が何やらである。だが言われるままに雨子様の側に寄って万歳をしていると、するりと寝間着の帯を解かれた後、寝乱れた様を直されきゅっと締め直されてしまった。


「まあこういうところは普通の男のおのこよの」


 見ると和香様がその様子を興味津々で見守っている、そして一言。


「雨子ちゃん、祐二君に甘々(あまあま)やなあ」


「なっ…」


思わず大きな声で反論しかけた雨子様は、さっと宛がわれた和香様の指で何も言えず仕舞いだった


「美代ちゃんが起きてまうで?」


「むぅ」


 そう言う雨子様は何だか不満そうだった。


「まあ良いは、して、和香よ、先ほどの話の続きなのじゃが…」


 そう話し始めた雨子様と和香様のスイッチは既に切り替わっていた。


「そうやね、早急に詰めなあかんことやね」


 僕は真剣な様子のこの二柱の間に、割り込んで良いのかどうか分からなかったのだけれども、駄目元で訊いてみることにした。


「何かあったのですか?」


「まあ祐二は最初から関わっていたこと故、話してやっても良いじゃろう」


 そう言うと雨子様は座っている位置を少し横にずれ、ポンポンと床面を叩いた。

言われるがままにそこに腰掛けると、ズリズリと和香様がひっつこうとしてくる。間髪入れずに雨子様が和香様のおつむをポカリ。


「何をやっとるのじゃ和香は?」


 和香様はと言うと頭を掻きながら苦笑している。


「そやかてうちが祐二君にひっついていられる時ってあんまり無いやん?」


「ひっつかなくても良いでは無いか?と言うかその必要は無い!」


「いややわあ、雨子ちゃんのいけずまんたこりん」


その台詞を聞いた雨子様は柳眉を上げた。


「じゃからそのまんたこりんと言うのは何なのじゃ?」


「そやから前もゆうたやん、うちんとこの境内に来とった人らが、わいわい話してはる中で聞いたんよ。なんや面白いからお気に入りやねん」


 雨子様は、大きな大きなため息をついた。


「まあ良いは、祐二よこちらに参ってから何か気になることは無いのかえ?」


 雨子様がいきなり僕にそう問いかけてくる。僕は沖天に浮かぶまん丸なお月様を見つめながら思案した。


「う~ん、そう言えばニーを見掛けないなあ」


 僕がそう言うと雨子様と和香様が顔を見合わせた。


「のう、こやつはそう言う奴なのじゃ」


「ほんまやねえ、答えを出すのに必要な物もなしにいきなり答えを出してくるんやねぇ」


「じゃろう?こう言うのを直感力に優れると人らは言うらしいのじゃが、その実体が何であるのかはまったく計り知れぬの」


「いっぺん色々設問作って調べてみたら面白いのとちゃう?」


「むう、確かにの。じゃがその設問はどう言う物を念頭に考えて居るのじゃ?」


「そうやね、うちやったら…」


 おいおい、僕はまったく置いてけぼりだった。僕を間において、身を乗り出して二人でわいわい会話しているんだから、何だか悪戯の一つもしたくなる。


 そこで僕は二柱の会話しているところに自分の頭をぬっと突き出した。


「「?」」


 そこまでやって彼女らは初めて僕もいたことに思い当たった?ちょっと酷いよね?


「すまんすまん」


「ごめんしてや祐二君、ついついな、そやかて君が悪いねんで?ただの人間言うには君面白すぎるねん」


「まあさておき、祐二が言うニーが居らんと言うことは正解じゃの」


「そやね」


 そこまで言うと二柱はこれまでに無いほど真剣な表情になった。


「ニーはの、現在いまは敵からの攻撃に二十四時間対応して居る」


 僕は驚いて言った。


「敵…もがぁ」


 声が大きくなりかけたところを先ほどの雨子様の時と同じように、和香様に口元を押さえられる。そこで気を静めて抑えた声でもう一度問うた。


「敵からの攻撃ですか?」


「うむ、そうなのじゃ、今のところは攻撃とは言ってもこちらの張っている障壁に対して、侵入を試みているに過ぎないと言った状況なのじゃがな」


「それってもしかしてネットの世界の話とかですか?」


「うん、そうやねん。ニーが言うのには、連中西側諸国の金融関連や、基地、軍事情報なんかの情報を片っ端から盗もうとしているらしいんよ」


「そんな事になったら大変じゃ無いですか?」


「うむ、そなたの言う通りなのじゃ。そのようなことになれば世界の覇権を握られ兼ねん」


「勿論世界のそう言った情報を抱えているところも、ちゃんと自分らで防衛手段を講じてはおるんよ。そやけど連中が今使うて来てる手段に対しては、ほとんど無力って言ってもええかもしれへん」


「じゃあそれを今ニーが防いでるって言う訳なんですね?」


「まさにそう言うことなのじゃ」


 話を聞くにことは本当に重大だった。


「言っても今はまだ彼奴らも隠遁を旨にしておるから、然程目立った手は打ってきて居らんが、徐々に痺れを切らしつつ有るようなのじゃ」


 雨子様のその表情がことの重大さを如実に表しているように思える。


「それでニーは今どんな感じで防衛を行っているのですか?」


「うむ、丁度今そのことを和香と話おうて居ったところなのじゃ」


 と、そこへ小者がやって来て皆に茶を配る。低い温度で淹れられたのか、苦みはほとんど感じられず、馥郁とした香りと、爽やかで有りながらもとろりとした甘みが口いっぱいに広がる、素晴らしい物だった。


 僕達はともに湯飲みを持ち上げ、一時その茶を楽しんだ。


「今のところニーはね、まだ半分くらいの余裕は有るゆうてるねん。そやけど相手さんはどんどに色々な装置を追加して、攻撃力を積み増しているらしいねん」


「それでニーは大丈夫なのですか?」


「うむ、今のところはな。それにニー自身も世界中からあちこち使える機材をちょろまかしてきて防衛力を強化し取るし、参加のAIどもの計算力を流用して居るそうじゃ」


「それなら大丈夫なのかな?」


 ところがそこで雨子様達の顔色が曇った。


「それがじゃな、機器の流用などの面では良かったのじゃ。世間一般の者達にとっては今行われて居ることなど、ほとんど理解のしようも無いことじゃからな。じゃがの、エネルギーの消費についてはそうも行かないのじゃ」


「あ…」


「気が付いたかや?ニーがその能力を使用すればするほど、当たり前のことながら使用するエネルギーはうなぎ登りになっていきおる。しかしそうで無くとも今の世はエネルギー不足が叫ばれて居るじゃろう?今はまだ色々と力を分散使用することでごまかせては居るのじゃが…」


「その内ごまかせなくなってくるって訳ですね?」


 僕のその言葉を聞いた雨子様ははぁ~ッと大きなため息をついた。

 

「うむ、まさにその通りなのじゃ。敵方の攻勢が強まれば、力の分散使用も出来なくなる。そう成ればエネルギーが過大に消費されて居ることなど、あっと言う間に露見するであろう?そう成ったら世間の人間どもはどうすると思う?」


 僕は陰鬱な気分になりながら雨子様の問いに答えた。


「おそらくはその原因となっていることが何なのであるか調べ始めるでしょうね。各コンピューターをネットから切り離したり、それぞれのAIを停止させたり、場合によっては一部地域におけるネットの切断もあるかな?不用意なことをすればニーの要求する能力を使えなくなったり、或いは電力不足で発電所が過負荷になって止まったり。考えるだけで恐ろしいですね?」


「のう、和香よ。こういうやつなのじゃ」


「ほんまやねえ…」


 和香様は囁くようにして呟きながら僕のことをじっと見る。何々?これは一体どう言う状況?


「思うにうちらはまだまだ人の世界の有り様について理解が不十分と言うことやね。そやから考える能力があっても、こうやって具体的な答えをはじき出すことが出来へん。まだまだ勉強させてもらわなあかんなあ」


「まったくじゃの」


「それで祐二君、君になんかええ案は無い?」


 和香様が真剣な目をして僕にそう問うてきた。ええ~?僕がそれを考えるのですか?僕は背後に掛かる責任の重さを考えながら、しかし考えない訳にはいかないことにも気が付きつつあるのだった。

現実面に近しいことを書く時には、一応色々と調べてはいるのですが、それでも時には齟齬があることも。そう言う場合にはお話の中のこととご理解下さい

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