会議その一
いよいよ敵の本丸に迫ります
「さて今回集まってもろたんは、今まで敵やと思てたニーがそうでは無いと分かったことと、そのニーから新たな敵らしき存在が分かったことを鑑みて、今後の対策を考えておくと言うことからや」
雨子様はそんな風に喋る和香様のことを見て一言。
「のう和香よ、今回のそなたは賢そうに見えるの?」
その言葉に思わず僕は吹き出してしまった。その僕のことを切なそうに見ながら雨子様に文句を言う和香様。
「なあ、雨子ちゃん?なんぼなんでもその言い様は酷いんちゃう?」
「むう、済まぬの。じゃがそのしゃべり方に染まっているそなたも悪いのじゃぞ?」
「でもなあ雨子ちゃん、うちはこのしゃべり方になってから、ようやっとなんか生きているって言うことが、しんどうなくなってるねん。そやからもう止めるつもりあらへんで?」
「なるほどの、まあ我もそなたのそのしゃべり方は嫌いでは無い故、良いのでは無いか?」
雨子様がそう言うと和香様があんぐり口を開ける。
「そう言うんやったらさっきのディスリはなんやのん?」
「なんぞそのディスリとか言う言葉は?」
雨子様はそう言いながら僕の方を振り向く。
「えっとですね」
うろ覚えだった僕は慌てて携帯で意味を調べてみる。
「ディスリつまりディスルことですね…、相手のことを否定したり侮辱したりすることですね。雨子様が和香様を侮辱しようとするはずは無いので、今回のは否定という意味かな?」
「なるほどの、そう言うことじゃったか…、安心するが良い和香よ。我にはそなたをディスルとやらする思いは全くないが故」
雨子様はそう言いながらもなんとも神妙な顔をしている。さてはこの表情は実は笑いを堪えている?
和香様も何となくその辺のことは心得ているようなのだが、どうやら諦めたようだった。
「まあええは、雨子ちゃんが言葉にしているままの意味やと言うことにしておくは。さてそう言ったことはさておき、今回の相手のことを今少しニーに説明して貰いたいねんけど、ええかなニー?」
そう言って呼ばれたニーは部屋の隅から中央へと優雅に移動を行った。大型のキジ猫としての体を貰った当初こそ、その動きににはぎごちなさがあったが、今ではすっかり滑らかになり、猫独特の優美さを誇っている。
きらきらと光る美しいその毛並みと相まって、母さんでは無いけれども思わずしがみ付き、モフモフしてみたいと思うのはもう人の性なのかも知れない。
「はい、私から説明させて頂きます。まず最初に位置的な説明を行います。中国は北京市、紫禁城の中心的役割を示す太和殿かその場所となるのですが、この建物は実は一般的に知られているものとは異なり、地下三階まで存在します。残念ながらこれはネット上に現存するあらゆる資料には記載されていないことであり、私にとっても大きな驚きを持って知り得た場所でした」
「ほう、なんとも因縁がありそうな場所じゃな…」
雨子様がそう言いながら目を細めている。
「そして問題の物なのですが、その奥深くに安置されている黄金の五爪竜が、今回の対象物となります」
「黄金の五爪竜とな、正に中国皇帝そのものの象徴では無いか?」
「はい、仰る通りです、かつての共産党と国民党の戦いの折、多くの宝物は南京を経て、台湾へと移送されたのですが、この黄金の五爪竜については出入り口に対してその体が大きすぎ、また重すぎたことから移送を諦めざるを得なかったものと推察されます」
「なんとまあ、そないなもんがあの城に眠っとったんやねえ」
「その竜の像の巨大さを考えるに、おそらく紫禁城が建立された一千四百年代には、既に内部に安置されていたものと考えられます」
「うわぁ、付喪神生成の条件をもろ満たしてそうやな?」
「まさにそうじゃな、しかも通常のものより遙かに人の邪念を蓄えやすそうなところじゃの」
「まさに雨子ちゃんの言う通りやね、なんや背筋に震えが来るわ」
そう言いながら和香様は震える体を自ら抱きしめている。
「私がその存在に気が付いたのは、その竜が居る部屋に接続されたテレビカメラからなのですが…」
「なんでそないなところにテレビカメラが付いとるんやろね?」
「その周辺の回路から考えるに、おそらくは人間の代表と会話する為の通話装置の一部かと思われます」
「なんやて?そしたらもう既に人間の側も付喪神のことを意思あるものとして知っとると言うことやね?」
「はい、しかしどうやらそれだけでは無いようです」
「と言うと?」
雨子様が渋い表情をしながらニーに聞く。
「かの存在にこちらの存在を感づかれた後、ネット上での国境閉鎖を為されてしまったのですが、そう成る以前の様々な通信データの多くが、私の中に残されていたのでその内容を分析しました」
「何じゃと?それはまた偉いものがあったもんじゃの?もしかしてニーよ、そなたは世界中の通信を捉えて居るのかや?」
「はい」
その返事を聞いた神様二柱は驚いて目を見開いた。
「何じゃと?」
「なんやて?」
その様から彼女らの気分を害したのかと思ったニーが慌てて補足する。
「こ、これは私が何か意思を持って行って居るのでは無く、何と言うか無意識かで行われることで、これが私達の発生条件ともなって居るので致し方の無いことなのです」
「なるほどの、そう言うことなのかや。なら納得じゃ」
そう言いながら雨子様は表情を和らげた。和香様の方はと言えば体の力を抜いて後ろにのけぞり、でれんとしている。
「これ和香、しゃんとせぇ」
叱責された和香様はのろのろと体を起こす。まあでも和香様の気持ちも分からないでは無い、和香様も雨子様も座る場所として僕のベッドを選択しているのだけれど、柔らかな布団というのは一旦横になってしまうと、起き上がるのにどうしても意思の力が余分に必要になってしまう。
「あかん、眠とうなる」
そう言う和香様のおつむを雨子様が軽くポカリとする。
「あん、叩かんでもええやんか?」
僕は思わず吹き出してしまう。
「和香様達は本当に仲が良いんですね?」
すると
「そうやねん」
と言いながら嬉しそうにする和香様と、
「我はこやつの目付に過ぎん」
と言って渋い顔をする雨子様の二つの表情に別れた。
一体どちらの言うことが本当なのだろうと、交互に見ていると、和香様が雨子様の脇にそっと突きを入れる。
「わっ!」
そう言うとのけぞり後ろに転げる雨子様。更にそこに追撃を掛けて脇腹をくすぐりに行く和香様。
「くわはははは」
真剣な会合に似合わぬ笑い声が辺りに響く。
「や、やめい和香。そなたそのように悪戯ばかりするから目付として我を付けられるのじゃ大概にせい」
そう言いながら仏頂面をする雨子様なのだけれども、目が笑っている。
そのこと自体がこの二柱の仲の良さをしっかり表していると言って良いだろう。
二人ともそうやってわいわいやったものだからフウフウ言いながら息を修めている。
「祐二君、あのお方達はいつもああなのかな?」
ニーが首を回すこと無くそっと小声で聞いてくる。
「何となくでは有りますが、そんな感じではありますね。多分に雨子様は和香様に引きずられているようにも思いますが。和香様が僕たちにとても良くして下さるので長い付き合いのようにも見えますが、実際のところまだ数度くらいしかお会いしていないのですよ」
「そうなのか?」
そう言うニーの髭がもそりと動く。
「ええそうなんです、でもあの方は人の懐に入り込まれるのがとてもお上手みたいです。母さんや葉子ねえなんてもう昔からの親友のようにしていますから」
「なるほどな、あのお方が私に、ここで学べとこの体を与えて下さった意味が、何となくでは有るが、分かってきたように思うよ」
「そうですか…」
生憎と僕にはニーの心の内はなかなか推し量りようが無い、でもそんな僕でもニーのその言葉の端々に、面白がっていると感じさせるものが、幾つもあることを感じさせていた。
いつものお願いですが
楽しんで頂けたら☆またはいいねで応援してやって下さい
作者は大いに喜びます




