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天露の神  作者: ライトさん
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閑話「夕飯時」

今回は小雨甘甘回で有ります

 ニーが吉村家にやってきてから、早二週間が過ぎようとしていた。

今ではすっかり家族の一員となり、その風景に溶け込んでいる。


 ただやっぱり猫なので、何かを見ていたり、言葉を伝えたりは出来るのだけれども、小雨のように何かを行うと言う事は出来無くて、常に傍観者の位置づけなのだった。


 夕方の忙しい時間、もうまもなく出かけていた者達が家に帰ってくる、吉村家を支える主婦は大忙しで夕飯の準備をしていた。


「小雨ちゃん、箸を配膳しておいてくれる?」


「はーいでしゅ」


声を掛けられた小雨は、よほど嬉しかったのか元気よく返事をした後、ニコニコしながら用を足そうと走り回る。

 そうやって積極的にお手伝いをしてくれるので、ダイニングには小雨専用の小さな脚立まで用意して貰っていた。


 脚立って何故と思われる向きも有るかも知れないので説明しておくと、 小雨がダイニングテーブルの上に影響力を発揮しようとすると、圧倒的に背丈が足りていないのだった。


「んしょんしょ」


 そう言って小さな脚立を必要な箇所まで運ぶと、それを使って各所に箸を配膳していく。本当はもっと色々なものを運ぶこともしてみたいのだが、1度やってみて大失敗してしまったので、今はこれで良しとしている。


 その時は煮魚の皿を運んでいたのだが、脚立を上がる時に足下を気にし過ぎたせいでうっかり皿を傾けてしまい、皿の中味が全て無くなってしまったのだ。


 床の上に無残に飛散する煮魚。とても美味しそうな料理だっただけに、小雨自身も大好きだった料理だけにショックは大きく、大泣きをしてしまうのだった。


 その時は皆が寄り集まって小雨のことを慰めたのだが、そうやって皆に大切にされたこと自体が、余計に小雨にとってその至らなさ思い知らせることとなり、更に更に大泣きすることに繋がったのだ。


 ここまで大泣きする小雨をどうやって慰めるのか?優しいものが揃っている吉村家の面々ですら困惑してしまったのだが、最終的には彼女の主人である葉子がその役を買って出ることになった。


 彼女は丁度赤ちゃんに乳を飲ませているときなのだったが、泣きじゃくる小雨の手を引くとリビングのソファーに一緒に腰掛け、静かに慰めるのだった。


「ほら小雨、そんなに泣いていたら目が解けてしまうわよ?皆あなたが一生懸命にお手伝いをしていることは知っているの、だから誰も責めたりはしないわ」


 だが小雨はなおをも泣きながら言う。


「んっく、それは小雨ぇも知っているでしゅ、でも一生懸命にやっているのにこんな失敗してしまう自分が許せないのでしゅ」


「それはいくら何でも自分に厳しすぎるのじゃ無いかしら?皆が皆そんなに自分に厳しい世の中なんて私はいやだなあ」


「でも、でも、小雨ぇはお姉しゃんなんでしゅ、だから一杯頑張らないといけないんでしゅ」


 ここに来て葉子は本当は何故小雨が泣いて居るのかと言うことについて理解したのだった。


「あらあら、小雨はこの子のお姉ちゃんとして頑張ってくれたのね?嬉しいわ、ありがとう。でもだったら小雨、余計にもう泣き止まないと…」


「なんででしゅか?いっく…」


「だってね、さっきも言ったけど、誰だって失敗することは有るじゃ無い?でもそんな時に誰もその失敗を許さないなんて言う世の中だったら、もの凄く嫌な世の中だって思わない?」


「思うでしゅ…」


「私はね世の中がそんなものじゃ無いってことをこの子にも見せて上げたいし」


そう言うと葉子は乳を飲んでいる最中の美代に微笑みかけた。


「そのことを小雨がこの子に見せて欲しいって思うの」


「小雨ぇがでしゅか?」


「そう、小雨がよ?」


「んっく、なら小雨ぇは何時までも泣いていては駄目なのでしゅね?」


「ん~~~、でもちょっとくらいは泣いても良いのよ?」


 そう言われた小雨は何だか嬉しくなってにへらと笑ってしまう。


「あ、笑ってくれたのね?小雨は笑っているところが一番好きだなあ」


「えへへへ、ご主人しゃまは優しいでしゅ」


「あら、皆小雨のこと心配しているのよ?」


 そう言われた小雨ははっとなって周囲を見渡した。すると皆おおっぴらにではないがそっと小雨のことを見守って心配顔になっている。


「ほんとでしゅ!」


 小雨はそのことに気がついて、何だか胸の中が暖かなもので一杯になっていくのを感じていた。

 小雨は手の甲でげしげしと涙を拭くと皆の方に向いてぴょこんと頭を下げた。


「皆、ありがとうでしゅ」


 小雨はきちんと挨拶も出来るし、お礼も言える良い子なのだった。

ただ、乱暴に顔をげしげししたので、顔中涙やら洟やらで大変な事になっている。


「あらあら小雨、大変な事になっているわね」


 葉子はそう言いながら小雨のことを招き寄せる。そして柔らかなガーゼを出すとその顔を優しく丁寧に拭って上げるのだった。


「ほら綺麗になった」


そう言うと葉子は小雨のことを優しく撫でながら、そっと片手で抱きしめて上げた。


「ご主人しゃま…」


 嬉しくなった小雨は葉子にしがみついて甘えてしまった。

するとそれまで乳を飲んでいた美代が、乳首から口を離し、不思議そうな顔で小雨のことを見つめている、そしてにっこりと微笑んだ。


「あらあら、美代は小雨のことが好きなんだって…」


「そうなんでしゅか?小雨ぇは嬉しいでしゅ」


「うふふ、小雨はね、美代のお姉さんなの、だから小雨も私の娘なのよ?大好きよ小雨」


 その言葉を聞いて一時呆然とした後、理解の雫が心の中に落ち、馴染み、染み込んだ後再び目から涙の溢れる小雨。


「あらあら、丸で名前のように涙を降らせるのね?」


 そう言いながら苦笑する葉子。

幸い小雨はこの後直ぐに泣き止んだのだけれど、この時小雨は自分が本当にこの家の家族なんだと実感したのだった。


 そんなことが有って小雨は、今まで以上に色々頑張ろうとしつつも、色々な事についてしっかり物事を考えるようにも成っていた。


 雨子様曰く


「失敗は人を育てる、いや育たねばならぬ。だが適うなら、周りの者もその手助けをしてやることじゃ」


 そろそろ皆が帰ってくる。少しでも早く支度をしようと小雨は頑張るのだった。


まだまだここのシステムが良く分かっていない筆者です(^^ゞ

もしお気に入りの回が有りましたなら、いいねも合わせて応援下さると

それこそ小雨のようにくるくる回って喜びます。

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