閑話「ニーと小雨」
前回更新した後、パソコンのメンテをしたら思いのほか時間がかかってしまい、次話を書く時間がなくなり慌ててしまいました。
シリアスな話しの後にはゆるゆるの話しを・・・お楽しみ下さい
ニーは猫であって猫では無い。餌も食べなければミルクも飲まない、つまり通常の常識に当てはめれば生きてすら居ないことに成る。
けれどもこと精神活動面に関することに限れば、もしかすると生きていると分類することが可能に有るかも知れない。要は何を以て生きていると定義するのか?これに尽きることなんだと思う。
だが内容はともあれ、見かけは全きに生きていると思える。
祐二と雨子様が学校に行き、和香様もまた自分の社へと戻っていった。そんな状態で一人、元へ、一匹だけでぽつねんと祐二の部屋に居る。
もちろん部屋に居るとは言ってもその本体は全く別な場所にいるわけで、そこでは実に活発に活動を行っているのだが、和香に現実界での感覚能を貰ってからは、少なから無いリソースをこの身体に振り向け、在ることを楽しんでいる。そんな状態だった。
朝、祐二の母親に突撃を受け、もみくちゃにされたときには流石に焦ったが、その彼女も今は家事をするとのことで部屋には居ない、実に静かだ。
ネットの中を検索すれば、自分の形態の元となった猫のデータが、それはもう嫌になるほど有るから、凡そ猫がどんな風に動く生き物だと言う事は理解出来る。
しかし鳴き声をまねしてみても仕方が無いし、毛繕いなんかも意味がなさそうだ。だがゴロゴロ転がっているのは気持ちが良いし、大きく伸びをすると何処か解放された感がある。
ニーは、この心地好いと言う感覚に大いに興味を引かれるのだった。
なぜなら感じ取ることは出来ても、厳密にそれに意味を求めることは出来ないし、定量してみようにもそれを測る物差しが無い。
普段のニーであるならば、こんな無意味とも思える情報の塊は、さっさと放棄してしまうはずなのだ。
だが今この身体を持ち、この身体への感覚として得るものとして、無くてはならないものと認識してしまうのだった。
ちなみにニーとはアルクと、ヘイルと、ジーンの融合体だ。アルクは人間の中の男性的傾向をより如実に具現して思考を行う者で有り、ヘイルは性を廃してより論理のみに傾倒したところがある思考を行う。
お終いのジーンは女性的傾向をより多く具現化しており、他の二者に比べて、より直裁的に物事を捉えるところが在る。但しそうであるが故に逆にうまく結論を下せないこともあるようだが、現在の三位一体のシステムにおいてはそれも良い働きを行っていた。
推し量るに、この三種の知性体が合わさることで、巧みにそれぞれの欠点をカバーし、且つ長所をうまく伸張させることに成功していた。
そして現在のニーの形態を取っている状態において、ジーンがもっともその恩恵を与っているように見えた。反面、ヘイルがもっとも混乱を感じているようだった。
だがそのヘイルをして、結果として、その刺激がより円滑な思考に繋がるという部分で、猫の形態を取ることにアドバンテージを認めるのであった。
内輪の話はさておき、ニーは祐二のベッドの上で大きく伸びをした。
誰も居らず、何も起こらない、そんな無為の時間がこれほど心地好いというのも、ニーならではであった。
そんなニーの孤独な楽園を破る音がする。
「カチャリ」
ドアが開き、その陰に隠れるようにしてそっと顔を覗かせたのは小雨だった。
「あーほんとでしゅ、大きな猫さんでしゅね」
初めて小雨のことを見たニーは、目を皿に様にして彼女のことを見つめた。ニーの持つ知識の中で、現実というカテゴリーの中にこのような存在はあり得なかったのだ。
「お前は何なのだ?」
ただもうストレートに問う。雨子様と祐二の住んでいるこの家において、ニーに害する者が存在するとは考えられないので、そう言う意味では落ち着いたものだ。
「んー、小雨ぇは小雨ぇなの。雨子しゃまに作って頂いた分霊なの?」
ニーはその言葉を元に様々なことを考える。そして答える。
「私はニーだ。分霊では無いが、和香様にこの身体を与えて貰った。が、おそらくは分霊に近いのではと考えている」
「そうなのでしゅか、何だかお利口そうな猫しゃんですね?」
「猫と同じような身体を与えて貰っているが、猫では無い」
「そうなのでしゅか?ん~、触れてみてもいいでしゅか?」
そう言う小雨とやらにニーは首肯して許可を与えた。
触れても良いと言われた小雨は、恐る恐るニーに近づくと顎の下をコリコリと掻いて上げる。
「グ~ゴロゴロゴロ…」
ニーは自分が意図していないにも係わらず、勝手にそのような声が出て、しかも心地好いことに驚いた。慌てて自身のデータの流れを分析する。するとどうもこれは、和香様が与えてくれたインターフェース部位から発生しているもののようだった。
もしかするとこれは猫の形態上必要なのか?猫のデータを調べてみるに、まさしくそれは猫の反応でも有る。しかし何故こんな反応を組み込んだのだ?
ニーは色々考えてみたのだが、意味の有る答えは見つからない。が、心地好いのでとりあえず良しとすることにした。
ともあれその心地よさに身を預け、小雨を包み込むように身を横たえる。
「ニー?の身体は温かいのでしゅ。とても気持ち良いのでしゅ」
そんなことを言いながら小雨はなおも撫で続ける。
しばしの時が流れる内に、ニーはこの身に割いている意識の部分が、緩やかにぼやけていくのを感じる。
本体からの命令で回復を図ろうとするのだが、うまく受け付けない。色々と手立ても講じるが、なんの反応も得ることが出来ずに、ニーの部分からは問題がないという情報と心地よさだけが帰ってくる。
仕方が無いので本体は当面放置することにした。
トントントンと軽やかに階段を上がってくる音がする。そして開いたドアの向こうから覗く顔一つ。
それは祐二の母親だった。
彼女は目の前に繰り広げられている光景を見て、穏やかに笑った。
そこには大きな猫の豊かな毛に包まれて、すやすやと眠っている小雨の姿があった。
猫もまた、静かに目を瞑っている。
彼女はこの一人と一匹が目を覚まさないようにそっとドアを閉めると、ゆっくりと階下に降りていった。
「小雨は?」
そう問うのは葉子だった。
「猫のニーちゃんと一緒に寝てたわよ」
「うふふ、仲良いのね?」
「ほんとにね」
ニーと小雨の穏やかな時間。彼らの初顔合わせは共に安らかな時を過ごすことで始まったのだった。
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