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第一話 目覚めは少女と共に

前の話はサブタイトル通り、プロローグとして挟んでいます。

本編はここから始まります。


元々の執筆スタイルが縦書きのため、その形式から私個人が横読みで読みやすいようにポチポチしながら変換投稿しているので、各話ごとに文字数のばらつきが出ますが、ご了承お願いいたします。

 ※※※


 いつからいたのかわからない、暗闇の中。

「――あなたの命と引き替えで、もう一つの世界と繋がることができたわ」


 不意に声が聞こえる。男じゃない、女性の声だ。

 遠い日に耳にした……どこか懐かしさのある、綺麗な声。


「時間が掛かってしまったわ。でも、ようやくあなたを生き返らせることができる」


 生き返らせる? どういう意味だ?


「新しい身体に馴染むまでは大変かも知れないけど、我慢してね。

 あなたが残してくれた記憶の定着と、以前の身体との感覚に

 多少のズレがあるかも知れないけど……大丈夫、時間と共に慣れていくわ」


 以前の身体と新しい身体?

 そういえば、どうしてこんな暗闇にいるんだ?


 疑問、疑問、疑問。


 彼女の言葉を聞くとわからないことが多くて、理解ができない。

 ……いや、少しずつだが理解しつつある。


 俺は死んだんだ。


 なんで死んだのかは思い出せないが、死んだ。

 暗いところへと落ちて、落ちきった。


 まるで寝起きのような感覚。

 夢を見ていたのかどうかも思い出せない、微睡みと覚醒の間。意外と悪い気分では無い。


「あなたに私たちが繋げた新しい世界を案内したいけど、

 私にはもう時間が無いの。……ごめんなさい」


 嫌いな声色、だ。

 理由は今の俺にはわからない。こもった声、それだけなのに気分が悪くなる。


「でも、私たちの夢みたいな話を信じて手伝ってくれたあなたなら、

 きっとこの世界でも生きていける。今度はあなたが自分のためにちゃんと生きて、

 私たちが望んだ世界をその目で見て」


 彼女と話したい、会いたい。思い、想うも、今の俺には手も足も口も目も無い。

 あるのは、徐々に思い出していく言葉。


 そして暗闇の中心に、ぽつりと白い点の輝き。

 それは彼女の声が遠くなるほどに、大きく、暗闇を掻き消すように膨れ上がっていく。


「もうお別れみたい。だから……じゃあね。本当にありがとう――」


 思い出す、彼女の名を。

古月 真白(こづき ましろ)

 その答えが導き出されるのと同時に、視界いっぱいの白い光に包み込まれた。


 ――世界が、始まった。


※※※


 目を開く。

 眩しい光が視界に飛び込み、反射的に腕で目元を覆う。


「あぁ……んぐぅ……!」


 喉を鳴らした拍子に不快な濁った声音と焼けるような喉の渇き。


 痛い……水を飲みたい。いつから俺は、眠っていたんだ……?


 寝返りを打ち、ぼんやりとした焦点を合わせていく。

 見知らぬ白い壁。昼白色の室内灯に照らされた部屋。


 頭を支える枕の感触に俺自身の温もりを帯びた毛布。

 色合いは白で統一しており、全体が無機質。そんな印象を覚えた。


 徐々にはっきりとしていく意識。

 身体は重くてダルいが、動けないほどではない。


 脚を滑らせるようにしてベッドから片足ずつ下ろし、

 ぶらりと宙に垂らす。腕で押し上げるように上半身を起き上がらせると、

 不意にグアングアンとした脳を揺らすような頭痛。


 こめかみを手の平で押さえ、息を深く吐く。

 そして違和感が生じた。


「おかしい……。全部、変だぞ……」


 身体が喉と頭の痛みに慣れ始め、俺は自らの手を見下ろす。

 色白の小さな手。伸びた爪、男とは思えないほっそりとした指。


 首筋と肩をくすぐる長い髪の毛。

 その色合いは焔のごとく赤く染め上げられ、異国というか

 サブカルチャー的というか、何より俺本来の髪色ではない。


 そして足元を見ると、華奢な太ももに未発達な脚。

 つま先は床にすら触れていなかった。


 ……ナンダ、コレ?


 俺の身体に起こっていることについては、薄々と理解してきた。

 さすがにそこまで鈍いつもりはない。


 だからこそ確固たる視覚的な確証が欲しい。

 鏡でも、窓の反射でもいい。

 自分自身の目で今の姿を確認しないと、精神衛生上よろしくない。


 辺りを見渡すも、窓は無い。備え付けの戸棚があるも、

 スチール製で反射は期待薄だ。

 だが、この部屋で唯一外部との繋がりを示す、ピンク色の扉に気が付く。


 この場がどこなのか、どういう状況なのか、全部わからない。

 動く以外に選択肢は無い。とにかく、ここから出れば何かわかるはずだ。


 高めのベッドをお尻から滑るように降り、冷たい床に足裏が着く。

 一瞬身体が傾くが、咄嗟に持ち直す。

 思っていた以上に筋肉が弱いのか、それとも衰えているのか。


 華奢な四肢から、疲労感に似た鈍くて微かな刺激が走る。

 耐えられないほどではないが、歩くこと自体が久しぶりに感じるため、

 俺は生まれたての子鹿のごとくノロノロ、ペタペタと歩みを進め、

 何とか扉のノブを掴んだ。


 身の回りのものが大きい……いや、俺の今の身体が小さい、のか。


「赤ん坊にでもなった気分……

 ただ、ひどい病気とかがある身体じゃなさそうだ」


 昔、伝染病にかかって一週間寝たきりだったことがあるが、

 その時と違って肺や関節に痛みがあるわけでもない。


 単純に俺の身体が、筋力の低下を感じるほどに眠っていたようだ。

 こんな状態で出歩くことに不安もあるが、

 一瞬だけ出るだけなら問題は無い、はず。


 俺がドアノブを掴み、自らの体重を乗せて金属の戸を横へ引いた。

 扉の先は、一言で表すなら廊下。


 病院で目にする若葉色のシートに、柔らかな雰囲気のクリーム色の壁紙。

 転倒防止に取り付けられた、木目が残る長い手すり。


 出た部屋と同じ戸が、いくつも均等に並んでおり、

 それぞれ一室ごとに、三桁の番号が振られていた。


「二〇二号室……俺の部屋は二〇四か」


 正面の部屋番号を見上げ、振り返って出た部屋も確認する。

 俺がいた部屋が二〇四室なら、普通に考えたら

 どこかの建物の二階ってことになるな。


 外の景色を眺めたかったが、この場には窓一つ無い。

 廊下を照らす電灯もまばらに点いているだけで、所々に影ができて薄気味悪い。


「お化けでも出てきそうだ。ケホッ、ケホッ……んなことより、

 トイレでもいいから水を飲みたい……」


 部屋番号が若い方に歩き出す。ペタペタと俺自身の足音が寂しく鳴る。

 ほんの数メートル進むと、脇に上下階へと繋ぐ階段、

 そしてお目当てであるトイレを見つけた。


 階段の行き先に興味が湧くも、とりあえずは体調を整えるのが先だ。

 トイレの出入り口をくぐると、Fの字に分かれた道。


 俺は迷わず手前の個室。青の線で示された男子トイレへと踏み入って、

 洗面台へとヨタヨタと手を付く。


 そして鏡に映った自分自身を見て、思わず頬が引き攣った。


「お、女の子? この()が俺、なのか?

 わけが分からない、どういうことだ、どうなっているんだ?」







お読みしてありがとうございますm(_ _)m


時間設定を忘れていたため、物語の導入に当たる『プロローグ』の投稿タイミングが、私が思っていたのと違う時間でしたので失敗しましたが、とりあえず良い感じに続きを投稿できればと思います。

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