プロローグ 生け贄
閲覧ありがとうございます。
素人のライトノベル程度と思って、お読みしていただければ幸いです。
また、ざっくりプロットと遅筆ですので、設定面の拙さや更新頻度の遅さは事前に謝っておきます。
申し訳ないです。
俺が考える最強のヒーローは、強く優しくカッコ良く。
弱気を助け悪をくじき、誰からも慕われ、困難に打ち勝ち、
世界の危機だって解決する、そんな夢みたいな英雄だ。
……まあ実際、そんな奴はいない。笑っちまうよな。
駅の改札を抜け、並ぶビルのあいだ。
人波に任せて俺は歩く。
いつも通り、向かうべき場所へと。
何度も繰り返したこの瞬間。
歩き慣れた道。覚えきれぬ通り過ぎていく誰か。
踏みしめるアスファルトを見下ろしてはガムや鳩の糞を踏まないように注意し、
ふと空を見上げては雲を数え、雨は降りそうにないなと決めつけて前を見る。
通販で買った安いワイヤレスイヤホンのボリュームを一つ上げて、
リュックの重みで凝った肩を回す。
クソみたいな世の中だ。
これも何度考えたことか。
いや、昨日は退屈な人生だったような気がする。
このあいだは電車に乗るのが面倒くさいで、もっと前はダルいとかだったか?
……まあ、どうでもいいか。思案したとこで意味が無い、
アホみたいな振り返りは悪い癖だ。目の前のことに意識を向けよう。
『あと、どれくらいで着くかしら?』
安いイヤホン越しでも分かる、透明感のある綺麗な声。
この声でごはん三杯はいける。
朝の目覚ましにしたいくらいに好きな声だが、
面と向かってこのことを彼女に言ったことはない。
そう言うガラじゃない、ってのもあるが、シンプルに小っ恥ずかしい。
キモいとか言われて嫌われたくない。
……この声で罵倒されるのも、ある意味では悪くはないが……却下だ。
「すぐだよ、すぐ」
『ならいいのだけれども。追っ手はいないわよね?』
「それらしいのは確認していない。
そもそも、このあいだ潜り込んでいたのは全部片付けたはずだ。
奴らもそうすぐに動きはしないだろ」
『私たちの計画はもうすぐ大詰め。
私たちの活動に探りが入っていたのはこの前の件でわかっているし、
敵対組織の大がかりな妨害が入ってもおかしくはないわ』
「証拠が出揃えるまで、お上は下手には動けない。
相手側も前回の一件があるんだ。上手く立ち回らないと、
また大事な指を無くすことになる」
『相変わらずあなたは甘いわね。
私たちの計画が達成した暁には、この世界が一変するというのに。
私が相手役なら、攻勢は緩めた時が命取り。間髪入れずに刺すわ」
「そうか、気を付けるよ。にしても、奴らもやつらで、いつも通り、
俺たちがただの道化だとレッテルを貼ってくれれば助かるんだがな」
『集団で得体の知れない行動を起こすのは、いつだって怖いものよ』
「俺たちがやろうとしているのは、現代的な認識、
もとい現実的な考えなら鼻で笑って一蹴するような計画だ。
普通なら動向を探ったところで、『ゲームか漫画か何かの、オタクの話だった』
で終わりだ。探りを入れている連中も、死んだあいつも酔狂だよ」
『あら? 私たちメンバーの中で、
もっともその旧世界的認識でいたあなたがそんなことを
言い切るなんて、非常に面白いわね』
「あんなものを目にしたら、百八十度考えだって変わる。
生きてきた二十数年、全ての常識をひっくり返されたんだからな」
『そこまでわかっているなら、答えは明快。
可能性がゼロではないなら、意識する要素の一つだわ』
「……オーケイ。油断せずにいくよ」
『ふふっ、よろしい』
通話越しの彼女は機嫌良く、鈴を転がすように笑う。
飽きの来ない美声だ。本当、いつまでも聞いていたい。
声を堪能し、つられるように気分良くうんうんと思わず頷く。
人混みが落ち着いた通りへと入り、俺は雑談の調子で彼女に
今日の予定を尋ねようとしたその拍子。
――何者かに強く押し飛ばされたような不快な衝撃。
同時に全身を包み込む熱風。肌を突き刺さる鋭利な異物。
背筋が一瞬で強張る。
固い地面に転がり、受け身を取った手の平に熱が帯びた。
「っ!?」
な、何が起こった!?
今まで体験したことが無い異常事態。
姿勢を低くしたまま、後頭部を両手で覆うようにして頭を守り、身を丸める。
ズキズキと痛みが走る。
大気を揺らす衝撃は視界を揺らすも、イヤホンが耳栓代わりになったので、
何とか意識を保つことができた。
わずかに顔を持ち上げ、辺りを見回す。
煙――白煙と黒煙が入り交じる。
爆発だ。どこで起こったのかわからないが、たぶん通り過ぎた
雑居ビルで爆発が起こったみたいだ。
「クソッ、クソッ……!」
状況を把握しようと頭が冷静さを取り戻すほど、
身体に焼けるような痛みが湧き上がる。
周囲の人間は血を流し倒れている。
爆発の衝撃から逃れた数人は混乱し、悲鳴を上げ、逃げ惑う。
爆発の原因はなんだ? 事故かテロか?
いや、今はそんなことどうだっていい。まずはここを離れなければ。
カシャカシャと割れた窓から飛び散った破片を洋服越しに感じながら、
膝を着いてゆっくりと立ち上が……れない。だから赤子のように這う。
ドロッとした液が額を伝い、そのまま片方の瞼に乗る。
指の腹で拭うとそれは俺自身の血。
不吉な結末が脳裏に走るも、本能的な衝動が腕と足を動かした。
「最悪だ、最悪だ。クソがよ……」
鏡が無いから怪我の具合はわからないが、酷くなる前にどうにかしないと。
離れないと、逃げないと。
意識は徐々に明瞭に。
だが不思議と身体は重くビリビリと筋に痺れを覚え、目頭が熱い。
それでも何が何でも逃げないと。
這う、這う、前へと這う。
どこまで進んだ? どこまで逃げられた? 誰か、助けてくれ……。
視界に不規則な闇が覆う。
目を見開くと、灰色の地面を見つめていた。
気を失っていた? 痛みは無いが、ぼんやりとする。
「あー……あー……」
起きないと。起きないとダメだ。だけど、身体が動かない。
気が付けば思いに反して止まっていた。
怖くは無いが視界が滲む。
手足の動かし方は忘れてしまったが、生きるために逃げないと。
……無意識の内に地面に突っ伏していた。
何も考えられなくなってきた。
だから何か考えないと。
難しいことが思い浮かばない。
考えることができない。
ただ俺は、暗闇へと落ちていく。
おちて……おち……て。
最後までお読みいただき、ありがとうございますm(_ _)m
正直、久々の投稿のため事前段階で30分ぐらい書いたり消したりしながら右往左往しています。
一応ストックはあるので、順次投稿、続きを執筆していきたいと考えています。
私自身の他作品と同様に、新人賞に投げるように執筆している面もあるので、頑張ってゴール地点までは持っていきたい限りです。