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転入交渉

 バラバラに砕けた応魔石を見て、校長は驚愕で目を見開きながら独りごちた。


「また、応魔石が…砕けた…!?」


 校長や侍女が驚いたのは、応魔石は計測可能な魔力量を超えると割れてしまうからだ。つまり、イリスは応魔石では測ることができないほど強大な魔力量を持つ、ということである。


 この世界では一般的に、魔力量は女性の方が多いのだが、それでも応魔石は緑色から黄色の間くらいまでしか変化しない。魔剣士学園には学園の性質上、黄色や橙色まで光が変化する学生が現れることがあるが、応魔石が割れることは今年までなかったのである。


 それを見たオーウェンは、したり顔でデボラ校長に尋ねる。


「校長、これでイリスに魔法の才能があることがわかりましたよね?」


 デボラ校長は居住まいを正して応える。


「ええ。ええ、そうですね。彼女には魔法の才能が有ります。ですが、魔法の才能があるだけでは魔剣士としてやってはいけません。」デボラ校長はイリスの方を向く。「剣術には明るいのですか?」

「いえ、おそらくやったことはない…と思います。」


 イリスは幾分かあいまいな返答をする。消えてしまった故郷の記憶の中に、剣術を習った記憶もあるかもしれないからだ。


 デボラ校長は茶色の瞳をオーウェンに向けて尋ねる。


「剣術をやったことが無い、というのなら魔剣士学園に転入させるには無理があるのではないですか?」


 オーウェンはひるむことなく、デボラ校長の意見への反論を述べる。


「そうかもしれません。しかし、上級生には魔法の研究を主にしている学生もいるかと思います。」


 デボラ校長は、確かに、という表情で口を手で隠すようにして、二人から目線を外して考える。しばらくすると、デボラ校長はこう提案した。


「オーウェンの言う通りではありますが、全くの剣の素人を転入させるのでは入学試験を受けている者たちに示しが付きません。なので、転入試験を行うことにしましょう。事情が事情ですから。」

「なるほど。転入試験、ですか。」


 オーウェンが考え込むような顔をする。


「私の侍女のミアと模擬戦をして、合格と判断すればこの学園に入学することを許可しましょう。イリス、それでよろしいですか?」


 デボラ校長はイリスの方を見て尋ねる。


「ええ、構いません。そもそも無理を言っているのはこちらですから。それでも私に不利益が無いようにしていただけるのであるならばそれ以上は望みません。」


 オーウェンが切り出す。


「ならば、こうしましょう。イリスはまだ剣術を習ったことがありません。なので、俺が明日から五日間、彼女に簡単な剣術を教えます。試験はそのあとにしませんか?」


 オーウェンの提案に、デボラ校長はうなずきながら答える。


「あなたが剣術を教えるのにはいささか問題がありますが、今回はそうはいっていられません。良いでしょう。そのようにしましょう。」

「寛容なご決断をありがとうございます。」


 オーウェンが頭を下げた。イリスもそれに(なら)って、ありがとうございます、と頭を下げる。


「それでは、試験は六日後にしましょう。楽しみにしていますよ、イリス。」


 デボラ校長はそれまでキュッと引き締めていた口角をわずかに上げた。それを見たイリスも口角を挙げながらデボラ校長にこたえる。


「はい、五日間頑張って剣術を磨いて見せます。」



 失礼します、と校長に頭を下げて二人は退出する。その二人を見送ったデボラ校長は、まるで独り言のように机の後ろにある窓の外の景色を見ながらつぶやいた。


「イレギュラーが学年に二人…。何かのめぐりあわせかしら?これから何が起こるのやら…。」


 デボラ校長は困ったような、嬉しそうな、どちらともいえない表情で窓の外をしばらく眺めていた。


 * * *


 学校を後にしたイリスとオーウェンは、イリスの訓練用の鎧と服を買いに行った。イリスは上半身と腰回りを守る皮の鎧をオーウェンに買ってもらった。今はその帰り道。


「なんか面倒なことになっちゃってごめんな、イリス。」

「いえ、気にしていないわ。むしろ、例外として扱ってくれることに感謝しなきゃいけないわ。」


 イリスは首を振りながら答える。それを見たオーウェンは腕をぐるぐる回しながら言った。


「確かにそうかもしれないな。でも、イリスがちゃんと転入できるように、俺がきっちりと剣の技を教えるから心配しないでくれよ!」

「明日からよろしくね、オーウェン。」

「おう、任せとけって!」オーウェンはこぶしを握って応える。「明日からは、朝になったら俺が迎えに来るから、それまでに鎧に着替えといてくれよ。」


 オーウェンは少しいたずらっぽくニヤッとすると、「今日みたいに昼まで寝てちゃだめだぞ!」とイリスをからかった。

 イリスは少し顔を赤らめた後、「当然よ!」と鼻を鳴らしながら応えた。

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