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初めまして、イリスです。

 白衣を着た栗色のボサボサ髪の男が1年2組の教室に入ってくる。その後ろには亜麻色の長い髪を腰上まで降ろした女子生徒が続いて入ってきた。白衣の男が口を開いた。


「お~い、ホームルームを始めるから席に着きなさい。」


 なんとなくダルそうな雰囲気を出しながら、学生たちに席に着くように促した。 白衣の男はこの1年2組の担任である、マイケル・ベネットである。魔剣士学園で研究者として(つと)める傍ら、こうしてクラスの担任をしているのである。


 学生たちは知らない女子生徒を見て「誰だろう、転校生?」とか、「あの子かわいくね?」とか話しながらそれぞれの席に着いた。


 この中でただ一人事情を知っている生徒であるクラウディア・ミラーは、今まで話していたグループを解散すると、落ち着いた様子で自分の席に着いた。彼女の隣には新しく席が追加されており、空席になっている。


「それじゃあ、今日は転入生がいるので、自己紹介をしてもらいます。そういうことだから、よろしく頼むよ、イリスさん。」


 白衣の教師、マイケルがイリスに自己紹介をするように促した。それを聞いたイリスが少し前に出る。


「みなさん、初めまして。わたしはイリス・オルティスと言います。この魔剣士学園に転入することになりました。これからよろしくお願いします。」


 イリスがそう自己紹介をして頭を下げると、1年2組のクラスメイト達から歓迎の拍手が送られた。マイケルはその様子を見ると、イリスに席を指示する。


「じゃあイリスさん、クラウディアさんの隣に席を用意しておいたから、そこに座ってくれるかな。明日からホームルームが始まるときにはあの席に座ってね。」

「はい、わかりました。」


 イリスはそう返事をすると、マイケルに指示された自分の席に座った。


「それじゃあ、今日の伝達事項はこれだけだからね。このまま時間になったら『魔法学』の授業に入るから。そういうことだから、授業の準備、よろしく頼むよ。」


 マイケルはそう言うと、教卓のところにある椅子に、いかにも疲れました!と宣言したような様子でどっかりと座り込んだ。マイケルは(くま)を作って眠たそうな目をしている。


 ホームルームが終わったので、学生は自身の周りにいる学生とおしゃべりを始めた。イリスとクラウディアも例外ではない。クラウディアがイリスに話しかけた。


「そういえば、転入してきたって言っていたけど、イリスは教科書とかノートとかって持っているのかしら?」

「持って、ないわね。講義を受けるのだから、そういうのも必要よね。忘れていたわ。」


 クラウディアは少々呆れ気味な表情でイリスの机に自分の机をくっつけた。


「教科書はこうして見せてあげられるけど、ノートはどうにもならないわ。一冊あげるから、これ以降は自分で何とかしなさいよ?」


 イリスは申し訳なさそうに眉を八の字に曲げた。


「ありがとう、クラウディア。大切に使うわ。」

「べっ、別にあなたのためにノートを持ってきていたわけじゃないんだからね!私のノートが無くなりそうだったから、たまたま一冊余計に持っていたのよ?決して昨日イリスの持ち物を見てノートを持ってなさそうだったから、ノートを余計に持ってきたわけじゃないんだからね!?分かったかしら!」


 クラウディアはイリスのお礼に照れたのか、早口で謎の弁明をした。もはや、イリスがノートを持ってなさそうだったから余計に持ってきた、と正直に話しているのも同然だ。


 クラウディアの恥ずかしがり屋なところを知っている、クラウディアと仲が良い学生やクラスの学生は生暖かい目でクラウディアのことを見守っている。


 クラウディアは自分に視線が集中していることに気が付いたのか、少し顔を赤くして前を向いて両手で顔を隠してしまった。




 授業が始まる時間になると、マイケルはだるそうに立ち上がって、ホームルームの時と同じように席を立っていた学生たちを座らせた。


「じゃあ、今日は前回の続きからやるから。教科書も前回の続きのページを開いてね。」


 マイケルが担当している授業は『魔法学』である。マイケルは担任や教師としては頼りなく見えるが、魔法の研究者としては随一の腕を持っている。32歳という若さで重要な論文を数本提出していて、学会からも将来を有望視されている稀代の研究者なのである。


 マイケルがホームルームや授業中に眠たそうなのは、時間を忘れて研究に熱中して、気が付いたら夜遅くまで研究をしてしまうからである。


「前回は、魔法の種類について勉強したね。」マイケルが教卓に手をつく。「魔法には3種類あって、通常魔法、詠唱魔法、使陣(しじん)魔法の3種類だったね。覚えていますか?」


 マイケルが右手を手のひらを上にして顔の横に持ってくると、マイケルの手に、手のひらサイズの炎の球が現れた。


「例えば、今みたいに頭の中のイメージを直接具現化するのが通常魔法だね。この魔法のメリットは即自的に使うことができるところ。デメリットは魔力量が多い人は制御が難しいところだね。しっかり頭の中でイメージしておかないと、暴発することがあるから、魔力量が多い人は気を付けてね。」


 マイケルは教壇の上を右に左にゆっくりと歩きながら説明する。


「それじゃあ、二つ目。『一陣の風よ、彼の者を起こしたまえ』風殴(ふうおう)


 マイケルがそう詠唱すると、前から2番目の席で机に突っ伏して寝ていた男子学生の頭に、風のかたまりがクリーンヒットして椅子ごと後ろにひっくり返った。男子学生は後頭部を痛そうに押さえながら、椅子を直して席に着いた。目が覚めただろうか。マイケルはその学生をちらりと見ると話を続けた。


「今みたいに詠唱をするのが詠唱魔法。まあ、これは名前の通りだね。詠唱をするメリットはイメージがより具体的になるから、魔力量が多い人でも制御がしやすくなるところかな。デメリットはもちろん詠唱の時間を必要とするところだね。とっさの場面では使えないから、詠唱魔法をメインに使う人は注意してね。」


 イリスは何事もなかったかのように講義を続けるマイケルを見て、絶対に寝ないように気を付けようと心に誓うのだった。


 マイケルは白衣のポケットからペンダントのようなものを取り出して使陣魔法の説明を始める。


「君たちの席からだと見えないと思うけど、このペンダントには光を出すための魔法陣が描かれているんだ。魔力を流すとペンダントが光るんだね。」


 マイケルはそう言ってペンダントを掲げるとペンダントが光った。


「こんな感じで魔法陣を使って発動させる魔法のことを、使陣魔法と言うよ。」


 マイケルは白衣のポケットにペンダントを戻した。


「それじゃあ、今日は魔力がどのようにして現実世界に影響を及ぼしているのかを講義で話していこうか。」


 こんな調子でイリスの初授業が進んでいくのだった。

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