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美少女名探偵☆雪獅子炎華 (8)メビウスの輪

作者: 夢穂六沙

   ☆1☆


フナミ、

「スゴいスゴ~いっ! 鯛平たいへい大漁じゃないっ! タイヘイがこんなに凄い海釣り名人だなんて! 船美ふなみ全然、知らなかったですわ!」

 タイヘイ、

「今度は真鯛をゲットだぜ! フナミ! 今日から俺の事は、釣りキチガイ・タイヘイ! って呼んでくれ! おっと、勘違いするなよ! ガイは英語のガイ! だからな! きのうゲーム『海のヌシの釣りデー』で特訓した甲斐があったぜ!」

 ワカメナ、

鰹矢かつおや君っ! 糸、糸、引いてる引いてるの! ほらっ、竿を引っ張って引っ張って、ああっ! 糸が切れ切れなの、残念残念なの」

 カツオヤ、

「わ、若芽奈わかめなさんが、ぼ、僕のことを、急かすから糸が切れちゃったんだよ。あと少し、だったのに、うう」

 タイヘイ、

「カツオヤ! 勝負を諦めるのはまだ早いぜ! 大海原のチーム別、海釣り勝負は、まだまだ、これからだぜ! あっちの船に乗った、チーム青スカーフも、それほど釣れてないようだしなっ!」

 フナミ、

「タイヘイの言うとおりよ、カツオヤ君! 諦めちゃ駄目ですわ。その首に赤いスカーフを巻いた時から、わたくしたちは一蓮托生! チーム赤スカーフの一員として、もっと頑張ってくださいましっ!」

 カツオヤ、

「フ、フナミさんが、そ、そう言うなら、も、もう少し頑張ってみようかな……」

 フナミ、

「あっ! フナミにも超大物が掛かったみたいですわ! すっ、凄い引きですわ! ふんぬ~っ!」

 カツオヤ、

「って、僕の話、全然、聞いてないんだねっ!」

 ワカメナ、

「フナミちゃん! ユックリユックリなの! 焦って引っ張ったらダメダメなの! ほらっ、お魚さんが浮いてきたの! フナミちゃん、頑張って頑張って、あと少し少しなの!」

 フナミ、

「やった~っ! 大物ゲットですわ! タイヘイにあやかれたみたいですわ! ますます、やった~っ、ですわ!」

 カツオヤ、

「くっ! ぼ、僕の方は、ま、また逃げられた。魚にもフナミさんにも……な、なんてことだ。や、やっぱり、こんな所に来るんじゃなかった。ぼ、僕は普通の合コンが、したかった、のに。な、何で海釣り合コンなんかを……、で、でも、フ、フナミさんと合コンが出来るのは捨てがたいし、う、上手く行けば、ぎゃ、逆玉だし……じゃ、邪魔者が、一人、いるけど……」

 タイヘイ「なんか言ったかカツオヤ! 青い空に白い雲、どこまでも続くエメラルド・グリーンの海! 沖縄のキラキラ光る太陽の下で独り言なんてナシだぜっ!」

 カツオヤ、

「ギクッ! そ、そうだね、タ、タイヘイ、き、気を取り直して針に餌を付けるとするかな~、ふ、ふん、ふ~ん。と、ところでタイヘイ、こ、この合コンに参加するという事は、き、君は今、誰とも、お、お付き合いしていない、という事なのかな?」

 タイヘイ、

「おうっ! その通りだぜカツオヤ、俺は今! フリーだぜ!」

 カツオヤ、

「ふ、ふ~ん、そ、そうなんだ。くっ、やはり……なんとか、しなくちゃ……逆玉計画が……」

 フナミ、

「何を言っているのかしら? カツオヤ君?」

 カツオヤ、

「い、いや、何でもないですぞ、フナミさん」

 フナミ、

「ですぞ!?」

 カツオヤ、

「あ、いや、フ、フナミさんのお父上は、あ、相変わらず、お元気なのですか?」

 フナミ、

「パパの話はやめて! フナミは海運王の娘じゃなくて、ただの恋する乙女なのですわ!」

 カツオヤ、

「おと、め……って年か? 大学二年生にもなって……」

 フナミ、

「今、不穏な発言が聞こえましたような? 聞こえませんでしたような?」

 カツオヤ、

「や、オート・メールというシステムを大学二年になって、ようやく完成したって事だよ。とある一定の状況で自動的にメールを送って、任意の相手をこっそり呼び出す事が可能になる。こ、恋する、おと、め? にも、利用価値があるんじゃない、かなあ?」

 ワカメナ、

「フ、フナミちゃんは恋する乙女なんだよ! 誰が何と何と言おうと!」

 フナミ、

「フナミの乙女心を分かってくださるのはワカメナだけですわ。私の為にタイヘイから身を引いてくださった事にも、本当に感謝してますわ!」

 タイヘイ、

「それは違うぜフナミ! 確かに俺とワカメナは付き合っていた。だが、性格の不一致は仕様がないぜ! 俺もワカメナもお互いに納得して別れたんだ! 幸い、俺はワカメナには指一本触れていないぜ! お互い清い身体のまま別れて良かったぜ!」

 ワカメナ、

「思い出に一度ぐらいぐらいは、よかったのにのに……」

 フナミ、

「何が、よかったのにのに、なのですかワカメナ?」

 ワカメナ、

「地獄耳?!」

 フナミ、

「地獄?何??」

 ワカメナ、

「えっと、じ、地獄のような、だ、大学の研究が上手くいって、よ、よかったのにのに~、って事なのなの!」

 フナミ、

「何だ、そうですの。確か、ワカメナの研究は繊維の研究でしたわよね」

 ワカメナ、

「そうなのなの! パンツの研究なの!」

 フナミ、タイヘイ、カツオヤ、

「「「パンツう~っ!?」」」

 ワカメナ、

「ご、誤解しないで欲しいの! 下着のなかでも一番消耗が激しいといわれるパンツを少しでも長持ちさせるために形状記憶タイプの繊維を研究しているの、形状記憶が上手くいけば、いくら洗っても決して伸びない、元のパンツの形状を維持出来る超ウルトラ形状記憶パンツの完成なのなの!!!」

 フナミ、

「そ、そう……ですの、け、形状記憶パンツ……す、素晴らしい研究ですわねぇ……ぜ、是非、頑張って研究をなさってくださいまし! そして、タイヘイの事は、このフナミに全て任せてくださいまし! タイヘイをゲットしなければ、海運王の娘の名がすたりますわ!」

 ワカメナ、

「ど、泥棒猫……」

 フナミ、

「なっ! 泥棒猫とは! わっ私の事ですのワカメナ!」

 ワカメナ、

「ちっ、違うの違うの! あたしたちの釣った超大物の魚を、ほ、ほら見て、額に雪の結晶みたいな模様のある黒猫が狙って狙っているの……」

 フナミ、

「あら、本当ですわ、あの漆黒のドレスを着たベリーキュートで可愛い女の子の飼猫みたいですわね。ゴスロリ少女と黒泥棒猫なんて、なかなか素敵な組み合わせですわ!」

 超大物の魚に見とれてはいたが、我輩は黒泥棒猫などでは断然ない! 

 このフナミいい度胸である(怒)!


     ☆2☆


 十月の下旬だというのに、沖縄の海は暑かった。

 この辺野古周辺の海は日本唯一のジュゴンの生息地である。

 同時に貴重なサンゴ礁の生息地でもある。

 その煌めくような、息を飲む美しさは、まさに神々に愛された海、神域といってよい。

 今、その海の周囲を見やると、新たな軍事基地の建設に反対する人々が、ボートに乗って抗議の声をあげている。

 普天間基地からの移設という理由で始まった工事ではあるが、完成間近な今でも普天間基地の閉鎖はおろか、軍隊の移動もまったく行われず、実質的な基地の増設に他ならない。

 そんな馬鹿げた状況に、日々、市民が辺野古周辺に詰めかけ、軍事基地増設反対の抗議活動を地道に続けているのである。

 その抗議活動をするボートに向かって機動隊の機動艇が真横から体当たりする。

 ボートは木っ端微塵に粉砕されるが、機動艇はそんな些事など、気にもとめずに悠々と過ぎ去って行く。

 ボートから投げ出された人々が、その破片に捕まり、生息吐息で助けを求めるが、機動艇は完全に無視している。

 機動艇は速度を増して、抗議する別のボートに体当たりを繰り返し、次々に撃沈してゆく。

 ボートから投げ出された人々の中には、大量に出血して海を赤い血で染める者もいる。

 辺野古の浜辺へと目を転じれば、機動隊員が抗議の為に集まった人々に対して、次々とジュラルミンの盾をかざして突進する。

 盾が当たるだけでも、機動隊員が全体重を掛けているため、枯れ葉のように抗議する人々は吹き飛ばされてしまう。

 機動隊員の中には盾で容赦なく抗議する人々を殴りつけて背骨をへし折る隊員もいる。

 その人は全身不随で一生を車椅子で過ごさなければならない。

 機動隊員は女子供、老人に対しても情け容赦なく鬼のように襲いかかる。

 非力な老女の腕を背中にねじり上げ地面に叩きつける。

 妊婦に襲いかかった機動隊員は妊婦のお腹を地面に叩き付ける。

 妊婦は破水し流産はまぬがれない。

 老女が涙を流しながら救急車を呼ぶよう懇願するが老女の頭をジュラルミンの盾でスイカ割りでもするように機動隊員は何度も何度も叩きつける。

 機動隊員は盾を使う限りは何をやっても正当防衛になるのだ。

 こうして辺野古周辺では、今日もまた新たな軍事基地建設に抗議する羊のように弱い人々と、自公党の命令に犬のように従う血も涙も無い悪鬼のような機動隊員による血で血を洗う一方的な凄まじい暴力の嵐が吹き荒れている。

 抗議する人々のほとんどが半身不随に陥るので、完全なマン・ハント、人間狩りである。

 機動隊員という名を騙る悪魔どもによる一方的な蹂躙といったほうが適当か? 血も涙も無い自公党の命令に従う政府に忠実な駄犬の話はこれぐらいにしよう。

 さて、我輩と炎華は豪華クルーザーにより都会の喧騒を逃れた快適なクルージングを楽しむために、わざわざ遠い沖縄くんだりまで来たのであるが、全てはこの男のために、すべてが台無しになってしまうのである。

 その男は釣り船の船体から顔を出しては、ゲロゲロとゲロを吐いている。

 船酔いするぐらいなら船に乗るな、である。

 その男が青い顔をしながら炎華と我輩に顔を向ける。

「ず、うぷ、ずまなうぷ、ほのかうぷ、くん。うぷうぷ」

 もはや人語を話すことも出来ない駄目男、鬼頭警部の言葉を我輩が翻訳する。

 鬼頭警部『すまない炎華くん、せっかくの豪華クルージングが、こんなしょぼい釣り船に変わってしまって』

 炎華が冷ややかな口調で、

「クルーザーの持ち主が航行中に機動艇と衝突して大破したのだから仕方がないわね。でも、釣り船というものが、こんなに楽しいものだと分かったのだから、それだけでも沖縄に来た甲斐があったわ。それと、釣りをしていると、少しだけ殺人犯の気持ちを理解することが出来るわね」

『なっ、なぜに殺人犯? 一体どういう意味なのかね?』

「あら、釣りというのは魚の命をもてあそぶゲームでしょう。生かすも殺すも釣り人次第。命を意のままに操るという事が出来るのは、神様になったような気がして結構楽しいものよ。きっと、殺人犯も、人を殺すことで神様にでもなった気がするんじゃないかしら」

『やはり、こんなしょぼい釣り船に君を連れて来た事を、ワシは少し後悔しているのだ。しかし、釣り人と殺人犯は全然違うのだ。釣り人は魚と真剣勝負をしているのだ。魚との知恵比べはチート可能なテレビゲームとはわけが違うのだ。彼らはお互いに大自然の中で力の限り戦うのだ。それに、釣り人は勝負が終われば魚をちゃんとリリースするのだ。無益な殺生はしないのだ』

 炎華が遠い目をする。

「それは人にとって都合のいい解釈ね。命を弄んでいる事に変わりはないわ。むしろ、釣った魚を殺して食べたほうが、よっぽど健全よね」

『炎華くんは頑固なのだ』

 炎華が白々しく、

「吐きながら話しても、何を話しているのか、よくわからないわね。あら、嵐が近づいているわね。向こうの空は雲が掛かって真っ暗よ」

 見ると紫色の雷光を纏った真っ黒な暗雲が、瞬く間に輝く青空を覆っていく。

 海の天気は変わりやすい、すぐに雨がポツポツと降りだす。

 ワカメナ「大変大変なの! 大っきなお魚さんが掛かったの! あたしじゃ、とても釣れそうにないの! タイヘイ君、あたしのかわりに釣って欲しいの!」

 タイヘイ「よっしゃまかせとけ! 釣り竿を俺に貸しな!」

 タイヘイがワカメナから釣り竿を引き継いで超大物の魚釣りに熱中する。

 フナミ「頑張って! タイヘイ!」

 フナミはタイヘイの背後に回り応援する。

 二人の様子をカツオヤは冷ややかに見据える。

 まだ雨はそれほど降っていない。

 が、我輩は素早く船内へ走る。

 途中、魚を入れる生簀があるのだが、不思議な事に、我輩が先ほど狙った、もとい、先ほど見とれた超大物の魚が姿を消していた。

 誰かがリリースしたのだろうか? それはともかく、濡れ鼠、いや濡れ猫はゴメンなのである。


     ☆3☆


 我輩が一番乗りかと思いきや、意外にも先客が一人ある。

 先程、右舷で釣りをしていたワカメナという女子大生である。

 広い船内の革張りの長椅子にチョコンと座る姿は小学生にしか見えない。

 我輩を見て声を掛けてくる。

「猫ちゃんも、雨が嫌い嫌い、なの? あたしも、雨は嫌い嫌い……なの……雨は、とても、嫌い嫌い……」

「ナ~ウ」

 我輩は同意する。

 ワカメナが相好を崩す。

 我輩を撫でようとすると、もう一人の女子大生フナミが入ってくる。

「やだも~、せっかく調子が出てきたと思ったのに、最低の雨だわ! もう外は土砂降りよ!」

 ワカメナがバッグからタオルを取り出し、

「フナミちゃん、タオルがあるの、これで拭いて拭いてなの」

 フナミがタオルを受け取り、

「用意がいいわねワカメナ、ありがと」

 フナミが濡れた頭をタオルでワシワシと拭いていると、炎華が船内に入ってくる。

 後ろには船長に肩を借りて、どうにか辿り着いた、といった風情の鬼頭警部がいる。

 我輩は炎華めがけて駆け出す。

 炎華が長椅子に座ると同時にその膝に軽やかに乗る。

 炎華が我輩を撫でながら、

「ユキニャンは雨に濡れるのが嫌いなのよね」

「ウニャン!」

 我が意を得たりである。

 炎華が我輩を見つめ、

「ところでユキニャンも見たかしら? 生簀の超大物の魚がいなくなっていたわよ。まさかユキニャンが食べたんじゃないわよね」

「ニャニャ、ナッ!」

『まさかっ』

 と我輩は全否定する。

「冗談よ」

 と炎華がニッコリ笑う。

「ウナ~ウ」

 笑えない冗談である。

 そうこうしている内に、さらに大学生の一人が飛び込んで来る。

 たしか、カツオヤとかいう男である。

 濡れそぼった長髪をかきあげながら、

「タイヘイにも船内に戻るように言ったんだけど、超大物が掛かっているからって、釣り上げるまで残るって、言っていたよ」

 フナミがワカメナを一瞥し、

「たしか……ワカメナが釣ろうとしていた超大物よね。途中でタイヘイと交替したのよね」

 ワカメナが首肯し、

「そうなのなの、私じゃ、と、とても無理だから、タイヘイ君に、お願いお願いしたの。タイヘイ君は優しいから快く引き受けてくれたの」

 カツオヤが皮肉げに、

「こんな土砂降りのなかタイヘイの奴もよくやるもんだ。もしかして、ワカメナさんにまだ未練があるのかな?」

 カツオヤのいい加減な発言にフナミが怒髪天を突き、

「未練などあるはずがありませんわ! タイヘイはチーム赤スカーフの為に頑張っているのであってワカメナの為に釣っているのではありませんわ!」チーム赤スカーフ。確かに三人とも赤いスカーフを首に巻いている。フナミが独演を続け「だからワカメナに未練なんてあるはずがありませんわ! もし他に理由があるとしたら、それは、あくまで、この私の為に違いありませんわ! 絶対にですわ!」

 フナミの根拠の無い自信に船内の誰もが呆れ返りながら、誰も反発する事なく微妙な空気が過ぎ去る。

 が、突然の閃光と轟音に誰もが息を飲む。

 神鳴りである。

 その後も数度、船の間近で雷鳴が鳴り響く。

 突然、船長が立ち上がり、

「い、いかん! こんな嵐の中で釣りを続けたら……」

 落雷の危険がある。

 誰もがそう気付いて立ち上がる。

 フナミが第一声を上げる。

「タイヘイを連れ戻さなきゃ! ですわ! 落雷したら大変ですわ!」

 フナミを筆頭に、船長とカツオヤが続く。

 カツオヤがボソリとつぶやく。

「タイヘイがまだ釣りたいと言っても、無理矢理にでも引っ張ってこないとな……」

 最後にワカメナが続き、

「た、大変大変なの! 落雷落雷なの!」

 へっぴり腰で付いて行く。

 炎華が微笑し、

「面白くなってきたわね。ユキニャン、私たちも行きましょうか」

「ウナーーーウッ!」

 我輩が拒否するも、炎華は容赦なく我輩を抱きあげて船外に飛び出す。

 外は一寸先も見えないほどの激しい豪雨である。

 突然、悲鳴があがる。

 フナミの声だ。

 我輩と炎華がフナミの悲鳴のあがった場所まで近づくと、雨のけぶる中、船上に倒れているタイヘイと、それを囲む四人の姿が辛うじて見え、船長の叫び声が耳に響く、

「クソっ! スカーフが首に食い込んで取れねえっ!」

 我輩が近づいて見ると、タイヘイの首のスカーフは、まるで万力で絞められたように、深く首に巻きついている。

 タイヘイの顔は青黒く変色し呼吸を求めるかのように口を大きく開けている。

 が、その舌はダラリと垂れ下がり、見開いた瞳はピクリとも動かない。

 炎華が冷酷に診断を下す。

「あきらかにこれは窒息死の症状だわ。首に巻かれた、いえ、絞められたスカーフが原因ね」

 ワカメナが割り込み、

「どいてどいてなの! スカーフを切って切って取るの取るの!」

 ワカメナが裁縫用の携帯型ハサミでタイヘイの首に巻き付いているスカーフを切り取るとデッキの端っこに投げ捨てる。

 間髪いれずにカツオヤがタイヘイの横にひざまずき、

「まだ間に合うかもしれない!」

 そう言い、救命措置を始める。

 心臓マッサージを繰り返す。

 が、無情にもタイヘイが蘇生することはなかった。

 フナミが泣きながらタイヘイの死体に抱きつこうとするが、炎華が一喝する。

「これ以上死体に触れては駄目よ! 現場保存の法則を知らないの! 遺体に手を触れても、ちょっとでも動かしても駄目よ。あなたたちも無駄に動きまわらないで!」

 少女とは思えない威厳のある物言いに、一瞬、フナミが呆けたような表情をするが、一転、夜叉のような顔付きに変じ、

「あ、あなたは何様のつもりですの! ガ、ガキのくせに、お、大きな口を叩くんじゃ」

「待ちたまえなのだ、諸君! 彼女の言う通りなのだ! 誰もこの場から動いてはいかんのだ!」

 鬼頭警部の雷鳴に負けないほどの腹に響く銅鑼声に一同が驚いて見返す。

 どうやら船酔いは治まったらしい。

「失礼、ワシは警視庁の鬼頭警部という者なのだ」

 言いながら警察手帳を広げて見せ、

 「そして、この少女はワシの盟友で雪獅子炎華くんといい……」

 うんぬん、炎華の説明を始める。

 さて、

 我輩は飼い猫である。

 名前は、

 ユキニャン。

 探偵であるゴスロリ少女、雪獅子炎華の相棒を務め、探偵の真似事をしている猫探偵である。


     ☆4☆


「とはいえ、この雨なのだ。仕方がないから全員、いったん船内に戻るのだ。ただし、遺体はそのままにしておくのだ」

 鬼頭警部の意見に従い一人また一人と船内に戻る。

 が、フナミだけはタイヘイのそばを離れようとしない。

 鬼頭警部が、

「さあ、君も早く戻るのだ」

「……」

 フナミは無言だ。

 炎華が鬼頭警部に船内に戻るよう目配せする。

 鬼頭警部が嘆息し、

「では炎華くん、この人のことは君に任せるのだ。全員、戻り次第、聞き取り調査を行うのだ」

 炎華が頷く。

 雨脚は酷くなる一方だ。

 さすがに身体が冷えてくる。

 フナミが小刻みに震えている。

 寒さのせいだけではない。

 炎華が腕を振り上げるとフナミの頬をピシャリと叩く。

 唖然とするフナミ。

「な」

「いつまでもメソメソするのは止めなさい。そんな事を続ければ犯人の思うツボよ。あなたが悲しめば悲しむほど、犯人は喜ぶのだから。さあ、立ち上がりなさい。犯人は必ず私が見つけてあげるわ」

 冷たい雨が炎華の全身を打つ。

 フリルをあしらった黒いドレスも、レースで飾った黒い手袋も、黒いタイツもぐしょ濡れだ。

 にもかかわらず、炎華の瞳には一点の曇りもない。

 炎華の表情には、真犯人を捕まえるという、絶対の自信に満ちあふれている。

 フナミが瞳をこらし、

「あ、あなたは一体……?」

 炎華が凛とした透き通るような声で、

「鬼頭警部の話を聞いていないのかしら? 私は雪獅子炎華……探偵よ」


     ☆5☆


「全員、船内に戻ったから、早速、取り調べを始めるのだ」

 炎華と我輩、フナミは船長から渡されたタオルで頭や身体をぬぐいながら鬼頭警部のやり取りを見守る。

「まず最初に……ワカメナさん」

 突然の指名にワカメナがドギマギしながら、

「ひゃ、ひゃいっ! な、何でしょうかなの!」

「被害者が絞殺されたと思われる時間に、あなたはどこにいたのですかな?」

 ワカメナが瞳をパチクリしながら、

「あ、あたしは雨が嫌い嫌いなの。だから……雨が降ってきたら、すぐに船内に戻ったなの」

 寒いのだろうか? ワカメナはずっと両手をポケットに突っ込んだままだ。

 委細構わず、鬼頭警部は手帳にメモしつつ、

「ほほ~う、するとこういう事ですな、あなたは被害者を絞殺する機会が無かった。と、言いたいわけですな」

 ワカメナが首を縦に振り振り、

「そ、その通りなのなの。あたしがタイヘイ君を殺すなんて、そ、そんな事、ありえないありえないなの」

 鬼頭警部が目を転じ、

「分かりました。では次に、フナミさん、あなたが船内に戻ったのは、いつ頃ですかな?」

 フナミはまだ青ざめている。

 が、瞳の奥には強い意志が感じられる。

「フナミはワカメナの次に戻りましたわ。言っておきますが、その時タイヘイはまだ生きてましたわ。そう、生きていましたわ……」

 フナミが涙をこらえ、

「タイヘイもすぐに戻ると思ってフナミは……フナミは船内に戻りましたの……あの時、フナミがその場に残っていれば、こんな事には、ならずに済んだかも、しれない、のに……」

 最後は嗚咽に変わる。

 鬼頭警部が恐縮しながら、

「わ、分かりました。どうやらフナミさんも被害者を絞殺する機会はないようですな。では、最後にカツオヤ君。君はどうですか? 被害者と最後に会ったのは君なのだ?」

 カツオヤが飛び上がらんばかりに、

「待ってください警部さん! まるで僕が犯人みたいじゃないですか! 確かに、僕は最後にタイヘイに会ってから船内に戻って来ましたよ。でも、タイヘイは確かに生きていたんです。タイヘイは確かに大物を釣るって言ってたんです。間違いありません!」

 鬼頭警部が柔らかな物腰で、

「何もあなたを犯人扱いする気はないのですよ、カツオヤ君。ただ、最後に被害者に会ったのが、あなたで間違いない事を確認したかっただけなんです」

 カツオヤが食いつくように、

「せ、船長はどうなんですか?」

 鬼頭警部が、そう言われれば船長もいたな、程度の軽い顔付きで船長を見ながら、

「そういえば、どうでしたかな、船長?」

 船長が低い、落ち着いた声で、

「操舵室と客室はドア一枚を隔てて繋がってましてな。ぶっちゃけワシにもアリバイはありゃせんよ」

 鬼頭警部が肩をすくめ、

「まあ、どのみち船長には動機がありませんからな。船長は除外するのだ」

 カツオヤが猛烈に抗議するが、鬼頭警部は抗議をあっさり却下し、

「質問を変えるのだ。皆さんは今日どうして釣りにこられたのかな? かなり個性的な面々ばかりのようですが?」

 ワカメナが質問に答える、

「みんな大学は違うけど、合コンで知り合ったなの。何度か合コンして、普通の合コンは飽き飽きしてきたなの。それで、たまには変わった事がやりたいって、みんなで相談して、今日は釣りで勝負する合コンになったなの」

 鬼頭警部の瞳がキラリと光り、

「すると別の船にも四人、関係者がいる。という事ですな」

 ワカメナがうなずく、

「そうなのそうなの。あたしたちは赤スカーフチームなの。別の船に乗って釣った量を競うのは青スカーフチームなの。あいにく嵐で別の船は見えないの」

 鬼頭警部がタイヘイについて質問する。

「被害者は釣りが上手だったのかね?」

 ワカメナが大きく首を縦に振り、

「魚をいっぱい釣って釣っていたの。上手だったの」

 鬼頭警部が瞳を細め、

「ふむふむ、では対戦相手の青スカーフチームの誰かが釣り勝負に負けまいとして、ポイントゲッターの被害者を絞殺した可能性も無きにしも非ずですな」

 炎華が冷ややかに、

「その可能性はゼロね。嵐の中、船を近づけるなんて不可能よ。自殺行為だわ」

 鬼頭警部が頭をかきながら、

「う、うむ。あくまで可能性の一つなのだ。ワシも荒唐無稽すぎると思うのだ。では次に、被害者が何故、殺されねばならなかったか? 犯人の動機は何か? なのだ。まず、被害者を恨んでいる者がこの中にいるだろうか? といっても素直に被害者が憎い! と言うはずもないはずなのだが」

 真っ先にフナミが口を開く、瞳は怒りに燃えている。

「ワカメナには動機がありますわ! ワカメナは、つい最近までタイヘイと付き合っていたわ。でも、性格の不一致からタイヘイはワカメナをフッて、その事をワカメナは恨んでるはずですわ!」

「ひ、酷いの酷いのフナミちゃん! あたしは恨んでなんかないの! それよりカツオヤ君!」

 ワカメナがヒステリックに叫ぶ。

「あ、あなたこそ、タイヘイ君とフナミちゃんの仲を引き裂こうと虎視眈々虎視眈々だったの!」

 カツオヤが怒りの形相凄まじく、

「ぼ、僕がいつ二人の仲を裂こうとしたんだ!? 言いがかりもいいところだよ! な、何か証拠でもあるのかい!」

 フナミが矛先をカツオヤに転じ、

「アリバイの無いあなたが一番怪しいですわ! しかも、フナミの事をそんな目で見ていたなんて……汚らわしいにも程がありますわ!」

 カツオヤが毒気を抜かれたように、

「け、汚らわしいだって! 世間知らずの女はこれだから困るんだよ! ぼ、僕はビル・ゲイツにも認められた天才プログラマーなんだぞ!」

 フナミが反論する。

「ただの頭でっかちが大きな口を叩くもんじゃないですわ! きっとその頭の中で完全犯罪のプログラムでも考えていたに違いありませんわ!」

 ワカメナが涙目で訴える、

「ああ~! もう! 二人とも止めて止めてなの! 喧嘩は駄目駄目なの!」

 その後、数十分に渡って二人の罵り合いが続いたが、鬼頭警部も炎華も口を挟まなかった。

 炎華が我輩に呟く。

「ショックから立ち直るためには、何でもいいから発散する事が大切よね、ユキニャン」

「ウニャン!」

 我輩は元気よく同意する。


     ☆6☆


「フニャ~アッフッ」

 我輩は長いアクビをする。ようやく不毛な争いにケリがつき、今度は炎華による尋問が始まる。

 炎華の透き通るような綺麗な美声が船内に響く。

「赤いスカーフを用意したのは誰かしら?」

 即座にフナミが答える。

「確か、ワカメナですわ。赤いスカーフも青いスカーフも、どちらも用意していたはずですわ」

 ワカメナが震える声で、

「そ、そうなの。た、確かに確かに、あたしが用意したスカーフなの……」

 カツオヤが意地悪く、

「タイヘイの首にスカーフを巻いたのも……確か、ワカメナじゃなかったかな? タイヘイの奴、苦しそうにしていたけど、絡まったか、何かして、そのせいで窒息したんじゃないのか?」

 ワカメナが抗議する。

「そ、そんな事ないなの! 確かに、ちょっとキツく締めたけど、タイヘイ君は『前の彼女のご奉仕だから、これでいいよ』って、笑って言ったの。とってもとっても素敵な笑顔だったの。でも、あれがタイヘイ君の最後の笑顔笑顔になったの」

 落ち込むワカメナを励ますように炎華が、

「あなたは今でもタイヘイを愛しているというわけね」

 と唐突に言い出す。

 ワカメナが真っ赤に頬を染めながら、

「そ、それと事件と、ど、どう関係関係があるのなの!?」

 炎華が小さな胸を反らし、

「大ありよ。事件を解く鍵は、そこにあるのだから」

 フナミが割り込む、

「その事は先程、散々、話し合いましたわ! ワカメナはタイヘイに対して、未練など少しもないはずですわ! そうでしょうワカメナ?」

 ワカメナが首肯し、

「そ、そう……なの、未練未練なんて、あるはず……ないなの……」

 炎華が猫のように瞳を細め、夢見るような歌うような口調で、

「本当に、そうなのかしら?」

 と疑問を口にする。ワカメナは怒ったように、

「本当本当にそう! なの……!」

 と最後の抵抗を試みる。

 炎華の吸い込まれそうな澄んだ瞳が、心の奥底を見透かすように、ワカメナの瞳に注がれる。

「あなたの言ってる事、それは、全部……嘘ね。あなたはタイヘイを今でも愛しているわ。あなたは永遠にタイヘイを愛する、と誓ったはずだわ」

 ワカメナが憤慨し、

「な、なんでそうなるのか! さっぱりさっぱり、分からない分からないなのっ!」

 炎華が澄んだ声で、

「それをこれから証明するわ」


     ☆7☆


 炎華の推理が始まる。

「釣りをしている時にワカメナの声が聞こえたわ。ワカメナは下着の型崩れがしない研究を大学で行っているのよね。スーツやシャツなどで使われている、形状記憶に関する衣類の研究をね。それは、洗濯をしたあとに縮むのを防いだり、激しく動いた後に服が伸びるのを防ぐ研究よね。その研究を応用すれば、例えば、乾いている状態では広がっていても、濡れた途端に縮む、そんなスカーフも作れるのではない? つまり、ワカメナは水に濡れた途端に十分の一に縮む。そんな、強力な形状記憶型のスカーフを作って、釣り勝負の前に、タイヘイの首に自分自身の手でキツメに巻きつけたのよ。勿論、嵐が来てスカーフが水に濡れるのも承知の上でね。それだけじゃないわ、より確実に殺すために、タイヘイが雨に濡れるよう、ワカメナは釣った魚の中から超大物の魚を取り出しておいて、それを自分の釣り針に仕掛けておいた。嵐が来るとワカメナは超大物の魚が掛かったフリをして、自分では大物を釣れないとタイヘイに泣きついたのよ。自然な形で超大物の魚釣りをタイヘイに代わってもらったわけね。その理由はね、タイヘイが釣りに熱中して、嵐の中でも釣りを続けるように仕向けたのよ。ワカメナの思惑は当たったわ。タイヘイは嵐の中、釣りに熱中して、その為にスカーフは濡れて、形状記憶の作用でスカーフは自然に縮まり、ついにタイヘイは声も上げる事も出来ずに窒息死したのよ」

 フナミが鬼の形相で、

「ワカメナ! やっぱりあなたでしたのねっ!」

 フナミがワカメナに躍り掛るのを鬼頭警部が羽交い締めにして止どめる。

 散々悪態をついたあと、フナミは諦めたように床に崩れ落ちる。

 ワカメナが青ざめながら、

「ほ、炎華ちゃんの言ってる事は、全部全部、た、ただの推理推理なの、しょ、証拠が、無い無いなの」

 フナミがハッとしたように、

「証拠ならデッキに残ってますわ! あの時、ワカメナが切り取ったスカーフを投げ捨てたのをフナミは確かに見ましたわ!」

 フナミが顔をあげると、鬼のように目を光らせながらデッキへ走り出す。

 即座に戻ると、一同の中心に赤いスカーフを叩きつける。

 ワカメナが不安そうに、

「ほ、本当に形状記憶型のスカーフなら、乾いた時に、大きく大きく広がるはずなの……」

 一同がジリジリとスカーフを見守るなか、炎華が大きくため息をつく。

「いくら待っても無駄よ。それは、ただのスカーフなのだから」

 一同が唖然とする中、鬼頭警部が困惑気味に問いかける、

「ど、どういう事かね炎華くん。さっき君は、これが形状記憶型のスカーフで、水に濡れて縮んだ為にタイヘイくんは窒息死した。と、確かに言ったはずなのだ」

 炎華が冷ややかに、

「そうよ。でもね、ワカメナはちょっとした手品を使ったのよ」

「「「手品?」」」 

 と一同が口を揃える。

「そう、手品よ。ワカメナはハサミを持った手の中に、普通のスカーフを隠し持っていたのよ。そして、タイヘイの首に巻き付いたスカーフを切り取ったあと、素早く二つのスカーフを入れ替え、デッキに捨てた。当然、デッキに捨てたのは普通のスカーフ、というわけよ」

 鬼頭警部が困ったように、

「そ、それでは、唯一の証拠はその後、海の中にでも投げ捨てられた。という事なのだ」

 炎華が首肯し、

「そう、普通の犯罪者なら証拠隠滅を図ったでしょうね……」

 鬼頭警部の言葉を継ぐ。

 カツオヤが憮然とした表情でつぶやく。

「証拠が無いんじゃ、全部、その少女探偵の想像って事になるな」

 フナミが呻くように、

「例え、どこに捨てようと! 必ず探し出してみせますわ! 海運王の娘の名は伊達ではありませんわ!」

 炎華がフナミを制し、

「その必要は無いわ」

 再び一同が唖然とする。

 炎華がワカメナを見据え、

「私はワカメナがタイヘイをまだ愛している。と、それを証明する。と、言ったはずよ。続きを始めましょうか」

 炎華の透き通るように綺麗な美声が、我輩の耳に快く響く。

 この場に相応しくない、あまりに場違いな天使の歌声である。

「ワカメナがタイヘイの首にスカーフをキツく締めたにもかかわらず、タイヘイは笑ってそれを許した。ワカメナは大物が自分では釣れない、とタイヘイに助けを求めた。その時もタイヘイは快く釣りを代わってくれたわ。別れてもタイヘイの優しさは何一つ、決して変わる事はなかった。ワカメナがタイヘイを殺した理由は一つよ。他の誰にもタイヘイを渡したくない。それだけよ。そんなワカメナがタイヘイと繋がりのある最後の品、唯一の品であるスカーフを、一番最後の思い出の品を、海に捨てる、という事は決してないわ。タイヘイを今でも愛しているワカメナは、タイヘイから切り取ったスカーフを身体のどこかに必ず隠しているはずよ。例えば、決して手を出さないポケットの中とかにね」

 ワカメナの大きな瞳から大粒の涙が流れる。

「好き……なの、今も……好き、なの。渡したく、なかったの……誰にも、誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも……」

 声が嗚咽に変わる。

 そして、ワカメナがポケットから切れたスカーフを取り出す。

 すでに乾いているそのスカーフは大きく広がりながら床に滑り落ちる。

 そのスカーフに炎華が水を垂らすと、みるみるうちに縮まり……。


     ☆8☆


 夜の闇の中にポッカリと月が浮かぶ。

 雲間から見え隠れする月のおぼろげな青白い光が、冴え冴えと漆黒の海を照らす。

 我輩と炎華は海岸の砂浜を歩きながら寄せては返す波と戯れる。

 こんな夜に言葉はいらない。

 が、炎華がぽつりと一言漏らす。

「人の心の光は太陽より眩しく。人の心の闇は海の底より暗い。あの人は永遠に死者を追いかけ続けるのよ。メビウスの輪の上を駆けめぐるように、永遠に死者を愛し続けるのよ」

 炎華が軽やかに駆け足で走る。

 我輩も音もなく砂を蹴った。


     ☆完☆

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