アンリ冒険記
長い雨が降り続いた後でした。
青くすんだ空には小鳥が歌を歌いながら飛んでいます。その声を聞くと地面の穴から小さい蟻の女の子が飛び出してきました。「まあ、雨が止んだわなんて素晴らしい天気!」蟻の女の子は嬉しそうに踊ります。
「雨が降っても、嵐が来てもいつか晴れるわ~♪」
空を飛んでいた小鳥達は蟻の女の子の歌声を聞くと
降りてきて一緒に歌います。
「お日さまはいつもやってくる、ピヨピヨ、
光を連れてやってくる、ピヨピヨ」蟻の女の子と小鳥達は楽しそうに合唱を始めました。
「アンリ!いつまで遊んでいるんだい!」
先程蟻の女の子が出てきた穴から怒鳴り声が発せられました。そうですこの蟻の女の子名前はアンリで
ある森の小さい穴の中でおばあさん蟻と二人で暮らしています。
先程アンリが出てきた穴の中から
また怒った声が聞こえます。
「アンリ、アンリ!!」
その声に驚いた小鳥達が飛び立つと
アンリもやっと気づきました。
「大変!お婆様が呼んでるわ
急いで戻らなきゃ」
アンリは走って出てきた穴に戻って行きました。
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アンリが穴に入って行くと薄明かりの中で年老いた老婆のアリが草を敷き詰めた寝床に横たわっていました。老婆アリはアンリを見るなり大声で怒鳴ります。
「何やってたんだい!お前は。
長雨が止んだら外で遊び回って
そんな暇があるかい?お前はそんな裕福なご身分かえ!」
大声が小さな巣穴にこだまします。
アンリはビクッと肩を動かすとうなだれて言いました。
「お婆様。ごめんなさい。
私ったらつい雨が止んで嬉しくなっちゃって、気付いたら小鳥さんと歌っていたの・・」
老婆アリは心底呆れた顔して
「本当にしょうのない子だよ。
そんなことしたって何の足しにもなりゃしないのに。小鳥と歌を歌って腹が膨れるかい?ええっ。」
また大声を出します。
アンリは不思議そうな顔をしながら言いました。「うーんお腹は膨れないけど、歌っているときは楽しくてお腹が空いていることを忘れちゃうのよね~。だからお腹いっぱいではないけど、いっぱいになっているのかしら。うーん」
老婆アリはイライラした態度で言葉を遮るようにまた大声を出しました。
「馬鹿❗何言っているんだい。
あんたが歌っている間にあたしゃ
飢え死にしてしまうよ❗あんたそれでもいいんかい。」
アンリは慌てて言います。「お婆様それは困るわ。私とても悲しくなるから。せっかく心が春のように温かくなったのに、すぐに冬のように凍えてしまうもの」
老婆アリは片手を上げると言いました。「それじゃあんたはどうしなきゃいけないんだね。」
アンリは少し考えると
「そうね、お婆様に沢山食べて頂いて元気になって貰いたいわ。」
老婆アリはやっと望んだ答えが得られたので、起こしていた身体を横たえると、「それじゃそうしてくれることをあたしゃ願うよ。あんたのせいでこっちは自由に動けないのだからね」と言って背中を向けました。
アンリは大きく頷くと
「そうだわ、私お婆様が
元気になるよう頑張らなくっちゃ」
と言うとクルリと向き直り歩き出しました。
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アンリが出て行くと、黒い人影が老婆アリの前に近づき言いました。
「婆さんも悪い人だな~」
その声老婆アリは振り向きます
姿を見せたのは片方の触覚がない痩せたゴキブリでした。
「なんだい。ゴッキーかい驚かせないでおくれ。なんの用だい。」老婆アリは面倒そうに言います。
ゴッキーと呼ばれたゴキブリは
肩をすくめると言いました。
「婆さんご挨拶だなぁ。雨が止んだから近所のよしみで顔を出してやったのに」
老婆アリは煩そうに言います。
「フンッ!別に頼んでないよ。
あんたなんかまた食べ物でもないかと来ただけだろう。おあいにくさま!ここ最近降り続いた長雨で蓄えておいた食糧はなくなってしまったよ!今アンリがそれで出かけたところさ」
ゴッキーは笑いながら言います。
「いやいや、婆さんが気になって見に来ただけだよ。ところでさっき言ってたけどアンリのせいでって」
老婆アリは興味なさげに言います。
「昔のことさ。それよりあんたもそろそろ行ったほうがいいんじゃないかね。」
ゴッキーは振り返ると言いました。
「まっそれじゃそろそろ行くよ。
ちょっとあの子もまた気になるしね。」というと巣穴からサッと出て行きました。とても素早い動きに
老婆アリは目を丸くしながら言いました。「本当にあいつはまるで風のようだね。いつもいつの間にか来たと思うとあっという間に消えちまう」
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