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エピローグⅡ(その8)
気を失って次に目を覚ましたとき、私は寝室のベッドの上にいた。全部夢だったのかと本気で胸を撫で下ろした。首もとに手をやるとペンダントも変わらずそこにあった。私は悪い夢を見ていただけだ。ペンダントも婚姻届も捨てて夫と娘たちのために残りの人生を捧げようと改めて誓った。
寝室を出るとばったり和泉と出くわした。
「おばさん、ようやく起きたんだ?」
「おばさんって親に対して――」
「浮気女をお母さんだなんて呼ぶわけないじゃん」
とだけ言って和泉は二階に上がっていった。
「あ、それから、土下座してたせいで額からまだ血が出てるよ。汚いから早く拭いてね」
額に触れてみると確かに手に血がついていた。夢なんかではなかった。全部現実だった。一番好きな相手とは結婚できないものなのだと悲劇のヒロインを気取っていた私はなんて傲慢だったのだろう。
私が許される日は来るのだろうか? 再び私を家族の一員だと認めてもらえる日は来るのだろうか? これから始まる終わりの見えない贖罪の日々を想像すると、気が遠くなる思いがした。
【完】




