エピローグⅡ(その4)
流星が何か答える前に後部座席の娘たちが騒ぎ出した。
「高校生の娘がいても恋人同士でいたいってラブラブだね!」と仁美。
「クラスメートの親が不倫したとか離婚したとかたまに聞くけど、うちの両親に限ってはそういう話とは無縁なようでホッとした」と咲彩。
「不倫はともかく離婚は分からないよ。お父さん、光夜先生をずっと目の敵にして突っかかってばかりで本当にみっともないしね。そんなこと続けてたら、いつか本当にお母さんに離婚されちゃうんじゃないの?」と和泉。
流星は相変わらず黙秘。光夜に関することを追及されると必ず貝のように沈黙するが、流星の沈黙が不気味すぎて私の方が黙っていられない。
「離婚なんて絶対にしないから。和泉、お父さんに謝って!」
和泉は私の要求に嘲笑で返した。
「お母さん、私が何も知らないと思ってるの? お母さんとお父さんは職場結婚といっても、上司と部下の関係だったんでしょ? お母さんは産休と育休で五年もブランクがあったのに、同期で一番の出世頭。それなのにお父さんの昇進は同期の中でも遅い方。そのことでお父さんはお母さんに強いコンプレックスを持ってて、ずっとその怒りをぶつける相手を探してた。そこに都合よく現れたのが光夜先生だった。お父さん、私の推理が間違ってるなら言い訳してみれば?」
流星は全部聞こえてるはずだがまだ無言。無表情でハンドルを握っている。流星が私にコンプレックスを持ってるかどうかは知らないが、あなたはすごい人だとはしょっちゅう言われる。
私は必ずこう答える。私がすごいとしたらそれは君が私を支えてくれたおかげだ。あのとき光夜と別れようとしていた私を君が拾ってくれなければ、仕事でもプライベートでも私は輝いていられなかった。君はギリギリの年齢だった私をママにしてくれた。そのことはいくら感謝しても感謝しきれるものじゃない。和泉が生まれたとき、もし可能なら二人目もと願ったら咲彩が生まれた。咲彩が生まれたとき、ダメ元でもう一人と思ったら仁美が生まれた。私は、私の願いを叶えてくれた君と子どもたちのために残りの人生を捧げると誓った。もし君と結ばれないまま時間切れになり子どもを持てない人生を送っていたらと想像するとゾッとする。子どもを産めなかった私はきっと無気力になって、後悔ばかりしてる人間になっていたと思う。今の私が輝いて見えるとしたら、それは全部君のおかげだ。本当にありがとう!
相変わらず流星は無言。でも自分の昇進が遅れてることを実の娘にあげつらわれて内心はらわたが煮えくり返る思いだろう。結婚前も結婚後も彼は優しかった。肉体的な暴力はもちろん言葉の暴力だって一回もなかった。浮気されることはなかったし、夜も一人で飲みに行くこともなく仕事が終わればまっすぐうちに帰ってきた。家事も育児も率先して取り組んでくれた。新婚当初より多少頻度は減ったが、夫婦の営みも普通にある。容姿の衰えが目立ってきた私の体を見て、きれいだと言ってくれる。一回り以上年上のこんなおばさんなのに本当に大切にしてくれた。出世が多少遅れていたって、彼以上の夫など存在しないと心から断言できる。




