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私、崩壊  作者: 清水幸
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2 ギリギリの女(その2)


 さっき買った分全部飲んでしまったので、店内に戻りさらに三缶追加で買った。別にお酒に強いわけじゃない。ただ飲まずにいられないだけだ。ああ、こういうのを依存症と言うのか?

 「社会人になったという自覚を持ちなさい」

 遅刻を繰り返す三井流星に上司として何度もそう叱責したが、正直言えば彼がうらやましかった。私だって彼みたいにもっと自由に生きたかった。叱られることを恐れず自分の心に正直に生きたかった。誰かの敷いたレールにしがみつく生き方しかできなかった私に、彼を叱責する資格などあるのだろうか? 私はくすんで朽ち果てようとしていて、彼は若くて光り輝いている。正しいのは果たしてどっちだ?

 そのとき松本羽海うみからLINEのメッセージが届いた。羽海は大学時代からの親友。専業主婦として三人の子どもを育てている。長女のうたは今春高校生になった。同じ大学の同級生なのにどうしてこんなに差がついたのだろう?

 次女の雪も今年中学生になった。子どもは二人で終わりかと思ったら、去年の暮れに三女の星奈せいなが生まれた。急にもう一人ほしくなったそうだ。

 どれだけお金と時間をかけて不妊治療しても授からない人も大勢いるのに、急にほしくなって簡単に手に入る人もいる。さらには私みたいにそもそも妊活する相手もいない底辺も。世の中不公平だし理不尽なことこの上ない。知ってたけど――


 《小百合、お願い! 今度の土曜日に急用ができて、また星奈を預けたいんだけどいいかな?》


 羽海から送ってきたLINEはそのお願いだけ。思えば羽海と私の関係も一方的に私のギブばかりでテイクのない関係。そもそも人生でたった一人の恋人まで羽海に取られてしまった。羽海はその人と結婚して子どもを三人作って都合が悪いとき私に子どもを預ける。専業主婦で保育園が利用できないし、一時保育はお金がかかりすぎるからとすぐに私の家に子どもを預けに来る。

 確かに最初の彼氏に振られてから一度も誰かと交際したことがなかったから休日はいつだって暇なんですけどね。たまにやる子守りは楽しい。詩や雪の子守りは喜んでやらしてもらった。

 でも私ももう38歳。他人の子どもの面倒見て喜んでる場合じゃないんですけど! 私だって自分の子どもがほしい! でも今から婚活やって、それがうまくいったとして結婚してから妊活やって、間に合うのか、私?

 しかも今度の土曜日ってあさってなんですけど。私、なめられてるのかな? 一日子どもを預かった見返りといっても、たいして高くもないカフェのランチを一回おごってもらえるくらい。全然割に合ってない。


 〈ごめん。土曜日、デートなんだ。その日だけは無理〉


 嘘言って初めて断ってやった。ざまあみろ! さすがに酔いが回ってきて私の気は大きくなっていた。


 《分かった。今回はこっちでなんとかするよ。それよりデート? 小百合、彼氏ができたんだね。おめでとう! 今度会わせてね!》


 〈会わせてね!〉の一言がプレッシャーになって、せっかく気分よかったのにどん底まで落とされてしまった。

 茶髪同士の若いカップルがコンビニから出てきて、私の前を通りすぎていく。二人ともフリーターだろうか。たいしてお金は稼いでなさそうだけど恋人はできるわけね。

 「おい見ろよ。足元に酒の空き缶が六本も転がってるぜ。いい年して淋しいおばさんだな」

 「しっ! ああいう人に関わったらダメ!」

 私、死んだ方がいいかな――

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