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私、崩壊  作者: 清水幸
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エピローグⅡ(その1)


 翌年四月一日、長女和泉が誕生。DNA鑑定の結果、父親は無事流星と分かり、その年の八月、私たちはようやく結婚式を挙げた。四月生まれだから三月に生まれた子より一学年下になると思ったらならなかった。四月一日生まれまでが上の学年で、四月二日生まれからが下の学年になるそうだ。高齢出産だからなるべく早く子どもが学校に入学して卒業して社会に出てほしいと願っていたから願ったり叶ったりだった。

 その翌年三月次女咲彩誕生、またその翌年三月三女仁美誕生。その三年間、私はほとんど妊娠していた。その年でよく頑張ったねと流星の両親にも感心されたが、産める限り何人でも産みたいという夢を叶えるためだからまったく苦にはならなかった。むしろ頑張ったのは流星だと思う。アラフォーの私を三回も妊娠させ、妊娠中もよく私を支えてくれた。本当に感謝している。


 月日は流れ、私は55歳になっていた。とっくに閉経し、閉経の前後五年間と言われる更年期もそろそろ終わろうとしていた。私は産休と育休で計五年間仕事を休んだが順調に昇進を重ね、48歳になる年に課長となり、昨年四月には三つの課を束ねる局長となっていた。

 流星は来月の二月で39歳になる。もともと童顔だったこともあり、実年齢よりは確実に若く見える。私は年相応の外見だから、知らない人が私たちを見れば親子にしか見えないだろう。

 私が局長になったとき流星も主査に昇進した。昇進速度は平均より少し遅め。相変わらず私が県庁勤めなのに対して、流星は最初の三年間だけ県庁でそれからはずっと出先機関勤め。直接勤務する姿を見られないから流星の上司や同僚に勤務の様子を聞くと、必ず頑張ってますよという回答が返ってくる。優秀だと言ってくれた者は一人もいない。つまりそれが彼の評価なのだ。おそらく彼は定年までに課長になることもできないだろう。家事の苦手な私に代わって積極的に家事を担当してくれる彼にはいつも感謝の気持ちを伝えている。職場での役職はだいぶ差がついてしまったが、それを家庭に持ち込むことはしない。

 夫婦の営みもまだ週二回ほどある。白髪の目立ってきた髪を黒く染め、高い化粧品を使い、ときどきスポーツジムにも通い、セクシーな下着も身に着け、17歳年下の流星から女として見てもらうための努力はしているが、限界も感じている。閉経した頃、私に気づかれないようにしてくれるなら浮気してもいいよと提案したら激怒された。

 「あなたはおれを馬鹿にしてるのか? 年の差は初めから分かってること。あなたがおれのために若く見せようと努力してることも知ってる。おれはあなたを愛してるから浮気しない。あなたもおれを愛してるなら二度とそんなくだらない提案をしないで、もっとおれの喜ぶ提案をしてほしい」

 直後に夫婦二人きりの旅行を提案して、娘たちも楽しんでくればと言ってくれたので、三泊四日で北海道の温泉地に二人で行ってきた。妊活に励んだ婚前と新婚時代のように彼は何度も何度も激しく私を抱いた。彼の愛を再確認することができて私も幸せだった。

 私たちと娘三人の関係も良好だ。長女の和泉は高一、曲がったことの嫌いなしっかり者。次女の咲彩は中三、地味で物静かなタイプ。三女の仁美は中二、少しわがままだけどみんなに好かれる人気者。

 ところが、昨年の和泉の高校入学以来、流星はずっとピリピリしている。入学式で和泉の担任が光夜だと知ったときはお祝いの場なのに激昂した。

 「だってこんな偶然あるわけないじゃないですか! 入学生の中にうちの子の名前を見つけたとき、絶対あいつわざと自分のクラスに入れたんですよ。あなたをおれに取られた仕返しをするためにね」

 「まさか。あれから何年経ってると思ってるの?」

 「何年経ったってあいつの本性は鬼畜です。クラスの生徒の保護者に過去のあいつの悪行を言いふらしてやりたいくらいですよ」

 「それはやめて!」

 私に一喝されて流星は不満そうに口をつぐんだ。あいつをかばうなんて、もしかしてあなたはまだあいつのことを……。などと口にするほど夫が愚かではなかったことは救いだったが、入学式の最中ずっと怒りで体を震わせていた。入学生呼名の場面で、

 「三井和泉!」

 と彼に呼名されたときは、

 「娘の名前が汚れる……」

 と独り言をつぶやいていた。

 入学式後に教室で親子そろって担任の話を聞いた。

 「たくさん失敗をしながら成長していってほしい」

 という光夜の話を私はうなずきながら聞いたが、隣に立つ流星は、

 「取り返しのつかない失敗もあるけどな」

 などとぶつぶつ言いながら、ずっと光夜をにらみつけていた。

 帰宅後、流星に怒りをぶつけたのは私ではなく今日の主役の和泉だった。

 「お父さん、今日の態度は何なの? 娘の晴れ舞台を台無しにしてうれしかった?」

 「そういうわけじゃ……」

 夜、娘たちが自室に向かったあと私も一言苦言を呈した。

 「かつて私が彼と恋人同士だったといっても、今の私は彼に対してこれっぽっちの未練も持ってない。君もそろそろ過去の恨みに囚われるのをやめなきゃいけないんじゃないの? 正直言って今日の君の振る舞いにはがっかりした。少なくとも三人の娘を持ち、娘たちの人生に責任を持つ父親の態度ではなかったよ」

 「すいません……」

 素直に謝ったが、本心からの謝罪でないことは明らかだった。ただこれ以上追及しても夫婦間に溝を作るだけで何も得るものがなさそうだったから、それ以上の追及はあきらめざるを得なかった。


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