20 神様光臨(その3)
それから三日後、流星が不思議そうな表情で声をかけてきた。
「どうしたの? なんか拍子抜けしたような顔をしてるよ」
「主幹の今の感想の通りです」
聞けばご両親が私と会いたがっているという。
「相手は妊婦なんだ。ひどいこと言いたいだけなら会わせるわけにはいかない」
と流星が牽制すると、罵倒しないとあっさり約束してくれたそうだ。
罠かもしれないがチャンスかもしれない。私とお腹の子どもの未来のために、私はもちろん会うことにした。
流星のご両親との顔合わせの場所はなぜか流星の自宅ではなかった。街で一番の高級料亭が指定された。高級料亭として有名というだけで今まで利用したことはない。目玉が飛び出るほどの価格設定らしいとは聞いたことがあるけど……
「お代は私が払えということかな?」
「いやお代は気にしなくていいって言ってました」
九月最初の土曜日の正午、私は流星とその料亭の和室で彼のご両親と向き合っていた。流星の製造者というだけあって明るく人のよさそうなご夫婦だった。とても子どもを堕ろせと連呼するような人たちには見えない。私が流星の子を身ごもったせいで優しいご夫婦を鬼に変えてしまったなら申し訳ないとは思うが、何があってもお腹の子を堕ろすつもりはなかった。
子どもを堕ろせと言っているご両親と子どもを堕ろせと言われている私たちの対面。お互い初めからギクシャクしていたがそれは仕方ない。驚いたことにお二人は私が流星の直属の上司だと知っていた。
「八月下旬、その夜も熱帯夜でとても蒸し暑かったのを覚えている。流星が藤川さんと会っていてまだ帰ってきてない時間に、藤川さんと流星の所属する健康福祉部の部長と僕の所属する経営管理部の部長がアポなしでわが家を訪ねてきてね、息子さんの結婚に反対してるそうだが許してやってくれないかと二人で僕らに頭を下げたんだ」
加藤部長が? 行動力のある部長のことだから、私を泣かせたその日のうちに経営管理部長に協力を依頼して行動を起こしたんだろうなと想像した。
「健康福祉部の加藤部長が相手の女性の人間性は僕が保証しますと言い切った。彼女は入庁16年目ですでに主幹兼係長の地位にいる。あなたも長年県職員として奉職してきたのだから、それがどれだけすごいことか分かるでしょう、と。会えば彼女の素晴らしさがさらに分かる。会うだけ会ってやってくれないかとさらに部長に頭を下げられて、さすがに嫌だとは言えなかったよ。今日の顔合わせのセッティングも費用負担を含めて全部加藤部長がやってくれたんだ」
流星が感嘆の声を上げた。
「部長二人を動かすなんて、やっぱり主幹は只者じゃないです!」
「流星君、部長を動かす力なんて私にはないよ。でも真面目に一生懸命頑張ってれば誰かが見ていてくれて、困ったときに助けてくれたりするものなんだ」
「今のセリフ、メモさせて下さい」
流星はスマホを取り出して本当にメモアプリに入力を始めた。彼は新規採用職員研修中の立場。自分の職務に生かせそうなことはなんでもメモしなさいと伝えてある。
「何事にもルーズで私たちがいくら言っても改善しなかった流星が、人の話を聞きながら真面目にメモを取るなんて!」
母上が感嘆のあまり大きな声を出した。メモを取るなんて当たり前の行動をしただけで感動してもらえるなんて、本当に昔からちゃらんぽらんだったんだなと知った。
「それだけじゃない。小学生のとき以来の遅刻癖も改善されてきて、七月からは一回も遅刻がないらしい。それも上司の藤川さんのおかげだと認めるほかないだろう」
父上まで感嘆の声を漏らした。七月からたった二ヶ月遅刻しなかっただけ。本当に遅刻癖が直ったかどうか分からないが、よけいな口出しはしないでおいた。




