19 浮かれ女の修羅場(その3)
「私ね、実はあんまり椿姫の結婚は心配してないんだよね」
突然桜子がそんなことを言い出した。てっきり進を安心させたくてそんなことを言い出したのかと思ったが、そうではなかった。
「小百合の方がスピード離婚されないか心配で、夜も眠れないくらいだよ。本人は全然気にしてないみたいだけどね」
「私の何が心配なの? 言いがかりはやめて!」
「言いがかりじゃないよ。だってあんたずっと仕事一筋だったから家事まったくできないよね? 特に料理」
確かに今まで家事は桜子におんぶに抱っこだった。桜子が結婚して県外にいた数年間の家事は椿姫と分担していたけど、料理は椿姫の担当だった。
「じゃあ聞くけどさ、あんたご飯炊ける? みそ汁作れる?」
「えっ! そのレベル?」
椿姫も驚いてるが、私は実際そのレベルだった。
「何もそれを今、しかも流星君の前で言わなくてもいいじゃない……」
「妊娠して浮かれてるのはいいけど、結婚したら二人で住むの? 向こうの親と同居するの? どちらにしても結婚する前にある程度家事を覚えないと結婚早々離婚を切り出されてもおかしくないよ」
みんなの前で恥をかかされて腹を立てたが、逆ギレして言い返せば流星をさらにがっかりさせてしまう、と自制できる程度の理性はあった。黙り込んだ私に流星が優しく声をかけた。
「おれも料理得意じゃないんですけど、誰かに料理を作るのは好きなんですよ。主幹さえよければおれに料理を担当させてくれませんか?」
彼が誰かに料理を作るのが好きなんて話は今まで聞いたことがない。たぶん私を傷つけずにこの場を丸く収めるためにとっさについてくれた嘘だ。これ幸いとお願いねと返事するほど、私は図々しい人間でもなかった。職場での流星の仕事ぶりを見て、子作りは上手なのに仕事の方はまだまだねと心の中で侮っていた自分が今猛烈に恥ずかしい。
「教えて」
「なんですか?」
「私に料理を教えて下さい」
「うれしいっす!」
「何が?」
「いつも職場では主幹に叱られてばかりだけど、逆におれから主幹に教えられることがあったなんて!」
「たくさんあるよ。私は仕事しかできないダメな女だから」
「主幹がダメな人じゃないのはおれが一番よく知ってます」
光夜ほどではないが、流星も最近私を喜ばせその気にさせる言葉をかけるのがうまくなった。彼の気遣いのおかげで私も素直な気持ちになれた。
「私もできる限り教えてあげる。その代わり優しくはできないけどね」
「私も進さんの家で暮らし始めるまでなら力になるよ」
桜子と椿姫も協力を申し出た。
「みんなありがとう。よろしくお願いします」
と頭を下げたとき、今日の報告会の本当の目的はこっちだったんじゃないかと今さらだけど気がついた。




