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私、崩壊  作者: 清水幸
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17 それぞれの悪戦苦闘(その2)


 流星は心を入れ替えて仕事している。遅刻することもなくなった。私の手助けなしですべての自分の仕事を成し遂げようと毎日悪戦苦闘している。

 「頼った方がいいときは頼ってもいいんだ。そのための上司なんだから」

 「今までちゃらんぽらんだった分のツケを返してるだけです。大船に乗ったつもりで見守ってて下さい」

 彼はそう言うけど、見てると笹舟か泥舟にしか見えなくてハラハラする。彼のプライドを傷つけるわけにはいかないし、本人の意思を尊重してできるだけ手助けしないことにしている。

 ただ毎晩ホテルで彼に抱かれてるけど、彼が仕事で苦労した日は必ず野獣のように底なしに私を求めてくる。妊活中の私にとってそれは間違いなく歓迎すべきことなので、彼には内緒だけど私がフォローできる程度の失敗を週に何度かしてくれないかなと実は願っている。とはいえ週に何度かで十分だ。毎日だと私の身がもたない。


 県庁は新幹線も停車する主要駅から徒歩たった十分だから、県庁に勤務する職員は基本的に自家用車での通勤は認められていない。正確に言えば、車で通ってきてもいいが県庁敷地内に車を駐めるスペースはないし、近隣の有料駐車場を借りるにしても自腹でね、ということ。

 七月途中から流星に県庁近隣の月極駐車場を借りてもらった。毎日退勤後に私と数時間ホテルで過ごし、そのあと私を自宅まで送ってもらうためにはどうしても車があった方がいい、ということでそういうことになった。ホテル代と駐車場代は私の、ガソリン代は流星の負担。食事するときは交互に全額負担。そんな約束をした。給料の多い私が全額負担してもいいのだけど、それは彼のプライドを傷つけるかもと心配した。

 県庁から徒歩圏内にもそういうホテルはあるが、そこは光夜とよく利用したホテルだった。流星も一度そこに車で入って行こうとした。そのホテルは過去に私が光夜と来たホテルだと知ったら流星は気にするだろうか? それとも気にしないだろうか? 分からなかったが、分からないなら避けた方が無難だろう。

 「ここはちょっと……」

 と私が口を濁すと察してUターンしてくれた。

 言いたいことを言い合っても、お互いへの気遣いは忘れない。私たちはそんな交際を心がけた。

 「いつか私たちが結婚したとしても、今の気持ちを忘れずに過ごすようにしよう」

 私がそう言うと流星はいつも神妙にうなずいてくれた。思えば光夜とはそういう話がまったくできなかった。ひたすら子作りのための行為をしていた。まるで妊娠がすべてのゴールであるかのように。

 確かにギリギリの年齢である私には出産が可能である残り時間は少ない。でもそれに振り回されて、私は光夜とどんな関係を今後築きたいのか、そういう発想がまったくできていなかった。

 若くかつ検査して何の問題もなかった光夜とあれだけ行為して妊娠に至らなかった。妊活相手は流星に変わったが、私はこれからも月のものが来るたびに絶望の淵に叩き落されることだろう。私に必要なものは持久戦に耐えられるだけの心の余裕と毎月の絶望を乗り越える強さだ。

 七月下旬、私は三度目の絶望をこれまでの二度のときにはなかった心の余裕と強さを手にして迎撃しようとしていた。だがせっかく手にしたその強力な武器を使う機会は来なかった。

 生理が来ないまま私は灼熱の八月を迎え、流星と二人で訪問した産婦人科で医師からおめでとうの言葉を掛けられた。


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