16 それなら私の夢も叶えて(その2)
「今思えば光夜君と私の関係は全然対等じゃなかった。嫌われたらどうしようとか、浮気されても許すしかないかとか、そんなふうに悩んでばかりいた。三年以内に私が妊娠したら結婚するというのが彼との交際のルール。だから生理になるたびに絶望した。有紗さんの件がなくても光夜君との交際は遅かれ早かれどこかでダメになっていたと思う」
「おれは主幹と何でも言い合える対等な関係を築きたいです」
「ありがとう。今心から、君との子どもを産みたいなって思えたよ。逆に子どもができなかったらって思うと、胸が本当に苦しくなる」
「さっきも言ったけど、子どもができなくてもおれは主幹のそばにいたいです。おれ、女の人を好きになったのが主幹で二人目だから愛とか恋とかたぶんまだよく分かってないけど、子どもができなくて傷ついてる人を見捨てるような男にはなりたくないです」
「流星君、勢いだけで言った言葉だとしてもすごくうれしいよ」
「勢いだけじゃないです。おれのこれからの人生のすべてを主幹に捧げると誓います」
我慢できなくなって自分から流星にキスした。病室と違って時間を気にする必要もないし、誰かに見られることを気にする必要もなかった。流星も私を求めてきた。心置きなくお互いの唇を堪能し合ったあと、私の言いたいことを彼の方から言ってくれた。
「違う場所で少し休んでいきますか?」
「うん。君はしたいことを何でもすればいいし、してほしいことは何でもしてあげる」
何も心配しなかった。生理なら入院中に終わっている。それから一時間もしないうちに、海辺に建つラブホテルの海がよく見える部屋で私たちは結ばれていた。初めて私の裸を見たとき、初めて私の敏感な場所に触れたとき、初めて一つになったとき、彼は「夢みたいです」とか「夢が叶ってうれしいです」などといちいち口にしては、私を喜ばせた。
「それなら私の夢も叶えて」とせがむと「全力を尽くします」と答え、その答え通りの行動をしてくれた。私も積極的に、光夜にはしたかったけどできなかったことを流星にはしてあげた。流星も喜んでくれたようでよかった。
三時間ほど部屋で過ごし、スマホをチェックすると桜子からメッセージが届いていた。
《退院祝いに椿姫とご馳走を用意したよ。彼氏の車でうちまで送ってもらうんだよね。食事は彼氏の分も用意してるから、夕食一緒にどうですかって聞いてみて》
スマホの画面を見せて聞いてみた。
「私の家族が君と話したいって。まだ心の準備がというなら無理は言わないよ」
「心の準備なら今できました」
ひとしきり笑い合ったあと、〈彼氏も食べてくってよ〉と桜子に返信して、私たちはホテルをあとにした。
そういえば、光夜と別れて流星とつきあい始めたことを、まだ桜子と椿姫には言ってなかった。
二週間前の私の誕生日には光夜を恋人として紹介したばかりなのに、いきなり流星を連れ帰ったら驚くに違いない。
もっとも一番驚いてるのは私自身だ。あさっての月曜日、職場でどんな顔して部下の流星と接すればいいのだろう? そのことの打ち合わせも流星としなければいけないな、と彼の車の中で海に沈む夕日を見ながら考えていた。




