15 あのときあなたが私を選んでいたら(その3)
二人が出会ったのは羽海が大学一年、雄大が高校三年のときのこの街の夏祭りで。出会ったその日に羽海は年下だが女扱いに慣れた雄大にお持ち帰りされた。雄大は羽海にとって初めての男だった。
当初はどこにでもいるような普通のカップルだった。ただ、ちょっと口でおだてればお金を出してくれて、性欲処理までさせてくれる羽海は、もともと怠惰な性質だった雄大の怠惰をさらに増長させた。一方、心にもない褒め言葉を平気で口にできる雄大は、優秀な兄弟に挟まれてもともと自己評価の低かった羽海の心を鷲掴みにした。
ある意味、二人は共依存の関係と言えた。雄大はお金や性欲解消という実利を提供する他者の存在を、羽海は精神的充足のため自己を高く評価する他者の存在を必要とした。お互いにとって相手が自身の不足を解消させるもってこいの存在だったのはお互いにとって不幸なことだった。
だって本来その自身の不足は自身の努力により解消すべき問題だったから。すべき努力を放棄し二人とも人間的成長がストップした。
その結果、雄大は定職につかずヒモ同然の生活を送ることとなり、羽海は夫がある身でありながら耳障りのよい薄っぺらな言葉を求めてお金と体を貢ぎ続ける生活を送ることとなった――
最後に、李久から別の件の謝罪を受けた。
「18年前、僕はあなたの釈明を一切聞かず、一方的に別れを告げた。今思えばあなたは羽海に頼まれてあんな主張をしていただけだとしか思えない。僕は馬鹿だ。あのままあなたとの交際を継続させていれば、僕はきっとこんな惨めなことにはなっていなかったのに……」
それを聞いて詩が驚きの声を上げた。
「お父さんと小百合さんって恋人同士だったの!? なんで小百合さんを捨てて、よりによってあんな女を選ぶかな? もう信じられない!」
「でもあのとき李久君が私を選んでいたら、詩ちゃんたちは生まれてなかったんだよ」
私がそう言うと、
「そうだけど、そうだけど……」
詩は悶えるように地団駄を踏んだ。
「それから李久君。あえて昔の呼び方で呼ばせてもらうけど、今の自分を惨めだとあなたに言ってほしくない。不倫した羽海はすべてを失ったけど、あなたのその肩には詩ちゃんたちお子さん三人の人生がかかってる。それを忘れないで!」
「その通りだね。僕は不倫した妻を失っただけだ。かわいい娘たちとこれからも一緒に暮らしていける。全然惨めなんかではなかったよ。僕が幸せだってことに気づかせてくれてありがとう」
私こそありがとう。18年前のトラウマを今ようやく払拭できた。過去は変えられないが、未来なら変えられる。前に進んでいくしかないのは、李久君、私だってきっと同じだ。




