14 私、崩壊(その4)
光夜はジャージ姿ではなかった。今日は学校には行かないようだ。普通にカジュアルなコーデ。ジャージを着てもサマになるくらいだから普通の格好ならなおさらだ。流星と並んで立つとアイドルと付き人くらいの格差を感じる。
自分を呼びにきたのが絶交してるはずの流星で、その上自分と一緒に流星まで病室に入ってきたのを見て、光夜はすべてを悟ったようだった。流星も見ている。結論から伝え、短時間で話を終わりにしようと決めた。お互いのためにもその方がいいだろう。
光夜との会話も謝罪から始まった。
「僕の過去の不始末のせいで何も悪くない小百合さんを危険な目に遭わせてしまいました。申し訳ありませんでした」
頭を下げる光夜をずっと見ていた。もうすぐ恋人ではなくなる男を。私と結婚するかもしれなかった男を。私を妊娠させようと毎日何時間も私を抱き続けた男を。高齢処女だった私に性の快楽を教えてくれた男を――
「光夜君を責めるつもりはないから謝らないでほしい。君に悪気がないのは分かってる。ただやってることがいちいち危なっかしすぎる。有紗さんの心がここまで病んだのは君が彼女の想いを去年からずっと放置していたせいだろうし、先日君のクラスの生徒の詩ちゃんを車に乗せて、男女二人っきりで街なかを走っていたのも教師としての君の立場を危うくしかねない行動だったと思う。私は今でも君を愛してるけど、君と一緒にいてこれからもずっと幸せでいられるというイメージが持てない。いつも君の浮気を心配しながら愛を貫けるほど私の心は強くないんだ。愛のためなら命も惜しくないと思えるほど若くもないんだ。短いあいだだったけど君に愛されて私は幸せだった。でももう無理、心が折れた。私の方からお願いしてつきあってもらったのに、本当にごめんなさい……」
私から別れを告げられたことは光夜にとってどれほどの打撃だったのだろう? 光夜は頭を下げたままで表情を確認できないからよく分からない。
「小百合さんこそ謝らないで下さい。あなたの命を危険にさらしてしまったのは全部僕の責任です。香織さんと有紗、二人の女性の問題を解決しないままあなたとの交際を始めたのはあまりに無責任でした。これからすぐにでも二人と話し合っていくつもりです。僕の未熟さのためにあなたにさんざん嫌な思いをさせてしまいました。あなたは謝るなと言うけど、謝罪の言葉以外何も浮かびません」
君が未熟なら私は卑怯だ。本来なら光夜と別れてから流星に交際を申し込むのが筋だ。卑怯な私は光夜と別れてから流星に交際を申し込んで拒絶されることを恐れ、先に流星に交際を申し込んで了解を得たあと光夜に別れ話を切り出した。流星に交際を申し込んで断られたら、光夜との交際を何食わぬ顔で継続させるつもりだった。浮気や不倫が大嫌いだったくせに、ほんの短い時間だったとはいえ、私がやっていたことは少なくとも二股交際そのものだ。




