14 私、崩壊(その2)
有紗の両親はともに五十歳くらいか。病室に入るなり土下座して謝罪された。私への謝罪はもういいので娘さんの心のケアをしてあげてくださいと伝えて出ていってもらった。私も自分の子どもがほしいけど、生まれてくる子が誰かを傷つけ加害者になるというリスクもあるんだなと知った。私と未来の夫はそうならないように心のきれいな人に育てていくことができるだろうか? 余談だがその後有紗の両親とは慰謝料500万円、及び今回の件にかかる入院費と通院費の全額を先方が負担するという条件で示談した。
次に流星に病室に入ってもらった。桜子と椿姫には席を外してもらった。いきなり頭を下げられた。
「おれが大声を出したせいで、有紗のやつ発作的に主幹の背中を押してしまったんだと思います。もっと慎重に近づくべきでした」
「君は有紗さんを知ってたの?」
「元カノでした。いや彼女だって思ってたのはおれだけで、向こうはおれのことなんてなんとも思ってなかったってあとで知らされましたけどね」
この瞬間、今までのいろいろな疑問が解消された。
「学生時代に婚約者と親友の彼女で二股かけてたのがバレて親友に絶交されたって光夜君に聞いていたけど、その親友って君のことだったんだね」
「おれ今まで二人好きになって、二人とも光夜に盗られちまったってことですね。昨日香織さんから、光夜の今カノと会うはずだったけど、たぶん有紗が自分に成りすまして今カノをどこかに連れてった、フレンチのレストランにいるらしいけど心当たりあるかって連絡を受けて、よくおれがおごらされた店かと思ったら大正解でした。でも、まさか光夜の今カノが藤川主幹だったなんて思いませんでしたけどね」
「三井君、そこに座って」
いつまでも頭を下げて立ち続ける流星を、さっきまで桜子が座っていたパイプ椅子に座らせた。
「確かに私の恋人というのは光夜君だった。でも光夜君の前に君に来てもらったのは訳がある。私と光夜君は私が妊娠したら結婚すると約束していた。この二ヶ月間、私は君が絶交するほど大嫌いな光夜君にさんざん抱かれてきた。君は何年でも私を待ってくれると言ってくれたけど、それを知った今でも気持ちは変わらないかな?」
「主幹、光夜と別れるんですか?」
「私はもう若くないしね、今さら映画みたいなドラマチックな恋をしたいわけじゃないんだ。仕事が終わってうちに帰ると、優しい夫がいて、笑顔の子どもたちがいて、穏やかだけど幸せな日々。私が望むのはそういう家庭。今でも光夜君を愛してるけど、彼と結婚できても私の望むものは手に入らないってことが今回のことで分かった。いつか浮気されるんじゃないかって不安を抱えたまま、まして自分の命を危険にさらしてまで今の恋を続けたいとは思わない。私は小物で臆病者だから、彼の恋人や奥さんになる器じゃないって知った。もし君がまだ私を待ってくれているなら、私はこれから君を好きになりたい」




