13 ミサンガをつけた二人(その4)
私が戻ると、香織は顔を真っ赤にしながら、
「小百合さん、次行こ次!」
と大きな声で誘ってきた。私がいないあいだにワインの瓶は空になっていた。隣のテーブルの若いカップルはたくさんお金のかかるお店に食べに来た挙げ句せっかくの雰囲気をぶち壊しにされて本気で怒っている様子。次の店に行くかどうかは別にしてこの店からは早く出た方がよさそうだ。
「香織さん、じゃあ私お会計済ませて来ますね」
「小百合さん、ごちそうさまです!」
当然のように私のおごりということにされている。香織はにこにこ笑ってるだけ。香織は光夜が私を選んだことを信じられないと思ってるようだけど、一時期でも光夜があなたを婚約者としていたことの方が私には信じられない。
たった一回のランチで請求額は三万円を超えた。うち二万は香織が一人で飲み干したワインの代金。酔っ払う前から全然私に敬意を払おうとしない香織に言ったところで機嫌よくお金を出してはくれないだろう。納得いかないが私の自腹で全部支払った。
次の店も決まっているらしく、ついてこいと言わんばかりにすたすた歩いていく。酔っ払ってるにしてはしっかりした足取りだと思ったが、道を間違えたと言って引き返してきた。車の往来の激しい道でガードレールもない。信号が赤で横断歩道の前で並んで立ち止まる。
「光夜は盗られちゃったし、もう死んじゃおうかなあ」
なんて言ってる。きっともっといい出会いがありますよと私が言うと火に油な気がして、どう慰めていいか分からない。
大丈夫だろうかと思ってるうちに、後ろで誰かが大声を出した。
「主幹、アリサから離れて下さい!」
主幹? 私のこと? そう思って振り返ると走ってくる流星が見えた。流星がなんでここに? アリサって誰? 私の頭の中は〈?〉だらけだった。
「小百合さん、お別れです」
香織がそんなことを言い出した。右の方から大型トラックが迫る。
「香織さん、死ぬとかお別れとか軽々しく言わないで!」
「何言ってるんですか。私は死にませんよ」
香織はすべてを笑い飛ばすかのような吹っ切れた表情。それを見てホッとしたが、
「死ぬのはあなたです」
香織に後ろから思い切り背中を押され、私は道路に突き出された。耳をつんざくクラクションの音。大型トラックが私の視界全体を覆って目の前まで迫っていた――




