13 ミサンガをつけた二人(その3)
香織がここにしましょうと言って入っていったのは、すごくおいしいけど安いランチでも三千円は取られるフレンチの有名店。香織は慣れた様子でワインまで注文しだした。
「光夜君とよく来たお店なんですか?」
「彼とは一回もないかな」
友達同士で気軽に来れるような価格帯のお店じゃない。家族でしょっちゅう来るお店ということか。どうやら香織の家はお金持ちらしい。
「名前で呼んでいいですか? 私のことも名前呼びでいいので」
「いいですよ」
「小百合さん、こう見えて私悔しいんですよ」
「すいません」
「いや、光夜を盗られたこともだけど、一番悔しいのはアラフォーのおばさんに私は負けたんだなってこと。今日はどんなすごい人が出てくるのかと思ったら、どこから見ても普通の人で二度びっくり」
確かにワインを飲み始めてはいるが、さすがにこんな早くは酔いが回らないだろう。香織さんってこんなストレートに自分の感情をむき出しにする人だったのか。今まで持っていたイメージと違いすぎたので私は内心戸惑っていた。
「何度考えても分からないんですよ。小百合さんは県庁のエリートらしいからお金は持ってるんだろうけど、光夜はお金で釣られるタイプじゃない。そうなるとやっぱりセックスですか? 独身生活が長かった分おつきあいした男性も多かったんですよね。長年の経験に培われた小百合さんの夜のテクニックに光夜は骨抜きにされちゃったんですかね?」
実態を言えば骨抜きにされてるのは私の方なんですけど、そう言ったところで信じてもらえそうにない。それにしてもこの手の話はするなとは言わないけど、せめてもう少し小声でやってくれないだろうか。隣のテーブル席の若いカップルから汚物を見るような視線でさっきから見られてることに、早く気づいてほしい。
そのとき、バイブにしていたスマホが震えだして、ちょっとトイレにと言って席を外した。トイレで確認すると、田所主事からLINEのメッセージが届いていた。
《主幹、今どこにいるんですか?》
今回の香織との面会をセッティングしたのは彼女だが、香織とどこに行ったかをいちいち報告しなければならないのか? ちょっとムッとしたが、彼女は光夜の姉。おとなしく返信しておいた。
〈香織さん馴染みのフレンチのお店。たぶんおいしいんだろうけど、酔っ払った香織さんに絡まれて料理を楽しむどころじゃなくなってる〉
とだけ入力して送信した。トイレを出るときまたスマホが震えだしたが、どうせたいした要件じゃないでしょと決めつけて無視した。




