12 あなたに恥じない人生を(その2)
「去年の暮れに星奈ちゃんが生まれたよね。次女の雪ちゃんが生まれてから12年も経ってるのに。倦怠期なんて無縁の仲良し夫婦なんだなって勝手に思い込んでた」
「星奈は私なんかよりずっと過酷な運命を背負って生まれてきた子。いつか自分が生まれてきた経緯を知ったら、あの子は自殺するかもしれない」
「まさかあの子の父親も雄大という男?」
「違います。でももちろんお父さんの血も引いていません。そうなったきっかけは二年前、父が母のお金の使い込みにようやく気づいたことでした。ただ父は母の不倫までは気づかず、母が買い物依存症だったと思い込んで、当分のあいだ家計の管理は父がやることになりました」
そこまで説明してから、詩はふたたびボイスレコーダーを再生した。
〈――というわけで、雄大にお金を援助できなくなっちゃった〉
申し訳なさそうな羽海の声。申し訳ないと思う相手が違うんじゃないの? というツッコミはもはや何の意味もなさない。李久は羽海にとって寄生する宿主にすぎない。情はあっても愛はない。いや情さえなかったのかもしれない。
《月に手取りで35万も稼いでるんだから、10万くらい羽海に好きに使わしてくれたっていいじゃねえか!》
〈ほんと、しみったれたケチくさい男だよ。あんなキモい男でも金目当てだって割り切って結婚してやったのに、その金さえ自由にならないんじゃ結婚した意味がないじゃん! こうなったら学生だったときみたいにパパ活やって稼いで雄大に援助しようか?〉
《その年でパパ活は厳しいかもな。それにパパ活相手から性病もらったせいで当時の彼氏に浮気がバレて振られたのを忘れるな》
〈あいつにもさんざん貢がせたよね。ブランド物のバッグや財布を何個も買わせて〉
《換金して何度もおれたち二人で海外旅行に行ったもんだよな。さんざん貢いであいつが羽海からもらえたものは性病だけか。とにかく不特定多数の男を相手するパパ活はそういうリスクがある。リスクに対するリターンもたいして大きくない。あんまりお勧めできねえな》
〈じゃあどうすればいいの? 私は雄大の力になりたいんだよ〉
《おれの知り合いに大金持ちの男がいる。その男は女に興味はないし、面倒だから子育てもしたくないが、自分の子孫は残したいそうだ。羽海、悪いがその男の子どもを生んで育ててくれないか》
〈いくらもらえるの?〉
《妊娠するまでの行為の報酬が500万、出産後にDNA鑑定して親子関係が証明されたら1500万、命名権が200万、養育費込みで面会一回につき100万》
〈すごい! 私がその人の子どもを産めたら、雄大は一生安泰じゃん!〉
《羽海、やってくれるか?》
〈もちろん! 前から言ってるよね。私は旦那の妻である前に、雄大の女なんだ!〉
《ありがとよ。本当に恩に着るぜ。それにしてもやっぱりおれは天才だな》
〈なんで?〉
《托卵で自分の子どもを他人の男に育てさせた男は星の数ほどいるだろうが、托卵をビジネスにしたのは世界でおれが初めてなんじゃねえか?》
〈世界で初めて? かっこいい! 雄大の言うとおりにしてあげるから、私の気がすむまで抱いて!〉
《任せとけ!》
〈ああん!〉




