11 ギリギリ女の誕生日(その4)
そこで光夜が桜子と椿姫に頭を下げた。
「小百合さんのお姉さんと妹さんですよね。お話はかねがね伺ってます。小百合さんと交際させていただいてる村瀬光夜と申します。詩さんの件が済んだらまたご挨拶させていただきますので」
「ええと、あなた何歳なの?」
「22歳です」
「17歳差!? 淫行じゃん!」
と椿姫が目を丸くしている。
「違うよ。淫行は相手が18歳未満の場合で……」
真面目に答えてる途中で馬鹿らしくなってやめた。一方、桜子は光夜の方に食ってかかる。
「22歳の高校教師!? あなた騙されてるんじゃないの!」
光夜が騙されてるなら私が騙してることになるんですけど! 今までずっと私がヤリモク男にたぶらかされてるって決めつけてたくせに、光夜の年齢と職業を聞いた途端私の方が悪いことになるのか? 恋愛経験のほとんどない私に男を騙すスキルなんてあるわけないのに……
「私は誰も騙してない。そんな言い方されるんなら、お姉ちゃんとはもう絶交する」
「ごめん……」
私は桜子を無視して、光夜と詩を二階の自分の部屋に案内した。
「懐かしい! 全然変わってない」
今日初めて詩の笑顔を見た。深刻な悩みがあるようだけど、少しでも気分が晴れたなら私もうれしい。
ただ、詩がいなければ今からここで光夜に抱いてもらうのにと思ってしまったのは事実。処女を失って体が汚れたとは思わないけど、心はかなり汚れてしまったようだ。
部屋は和室。畳の上に座布団を敷いて、詩と向き合うように私と光夜が並んで座る。
「詩さん、さっそくだけど、悩みの方は話せるかな」
「はい。実は母が不倫しています。相手の名前は西雄大。うちの近所のアパートで一人暮らししてる無職の男です」
てっきり学校生活のことかと思ってた。もしかしたらいじめかも、と。いかにも活発そうな詩がいじめを受けるタイプには見えないが、世の中には嫉妬からいじめが始まるケースもあるらしいのでもしかしたら、なんて考えていた。
「羽海が? 信じられない……」
「小百合さんは母とのつきあいが長いんですよね。本当に信じられませんか?」
そう言われると、羽海は当時の彼氏に浮気がバレて私に弁護を頼んできたのだった。その浮気の弁護がなぜか当時の私の彼氏の李久に聞かれて、私は李久に軽蔑されて振られたのだった。そしてなぜか李久は羽海とつきあうようになり、二人は結婚し詩が生まれた――
「羽海が不倫してるというのは本当なの?」
「事実です。しかも不倫相手とは私が生まれる前からの関係です。でもそれはいいんです。七夕になると決まって学校で短冊を書くんですけど、ママが早く死にますようにって毎年書いてたくらい私はあの人が嫌いだったので。母の浮気の証拠を集めて父に突きつけて離婚してもらって、もちろん私は父についていこうって、ずっとその日が来るのを楽しみにしてました」
私もそうだけど、光夜もなんと答えていいか分からず無言。
「でもそれが無理だと分かったんです。父は離婚したら私を捨てるでしょう。そうすると私は今の家を離れて母と、もしかしたら不倫相手とも暮らさなければいけなくなる。優しい父や仲良しの雪と離れて、あんな汚らしい連中に囲まれて暮らさなければならないなんて、死んだ方がマシです」
「羽海と李久君が離婚したとして、どうして李久君が詩ちゃんを捨てるって分かるの?」
詩は一瞬迷う素振りを見せたが、すぐに気を取り直し一気に言い切った。
「それは私がお父さんの子どもではないからです」




