11 ギリギリ女の誕生日(その3)
羽海は子どもたちを預けにしょっちゅう私の家に来ていたが、私は羽海の家を知らなかった。昔からの住宅街にある白い一軒家に住んでいると詩が教えてくれた。自宅近所に小さな公園があり、詩はそこで待っていた。土曜日だから私服。白い長袖シャツに細いジーンズ。かわいい系ではないが、熱心にバスケットボールをやってると言うだけあってスタイルはいい。今日の青空によく似合うと思った。
私服なのに、なぜか大きなスクールバッグを大事そうに手に持っている。今日の相談と何か関係あるのだろうか?
ここで話していて家族に見られたくないと言うから、とりあえず車に乗せた。
「すいません。小百合さん、デート中だったんですね。三日前に光夜先生と恋人同士だと聞いても正直ピンと来なかったですけど、実際お二人でデートしてるのを目の当たりにすると、私が好きだった光夜先生は小百合さんのものだったんだなって今さらながらちょっとショックを受けました」
年の差がありすぎてどう見てもお似合いのカップルには見えないから、話に聞いたくらいでは信じられなかったということか。まあ、私自身、ときどきこれは夢じゃないのかって不安になることがあるから、第三者から本気にされなくても仕方ないかなって気はしている。
「聞いてほしい音声データがあるから屋内の静かな場所で話したい」
と詩が言うので、私の家に行くことにした。初め、光夜は学校に向かおうとしていたけど、
「部外者の私が校舎に立ち入って、あとで問題にならないの?」
と疑問を口にしたら、それもそうですねということになって、そういうことになった。
こういうときに限って、桜子も椿姫も自宅にいた。突然連れて帰ってきた若い男と女子高生を見て、二人とも何事かと怪訝な顔をしていた。椿姫など大騒ぎして、イケメンが来た! と連呼している。
「桜子さん、椿姫さん、お久しぶりです。小さい頃よくこのうちに預けられていた松本詩です」
詩にそう挨拶されて、二人は思い出したようだった。
「詩ちゃんは分かったけど、隣の若い男性は?」
「詩ちゃんの通う高校の担任の先生。詩ちゃんが悩みがあると言うから、三人でうちで話すことになってね……」
私がそう答えると、桜子が心底呆れたようなため息をついた。
「誕生日に出かけるって言うから当然デートだと思ったら、詩ちゃんの悩み相談? まだヤリモク男に遊ばれてる方がマシだよ。今日で39歳、子どもがほしいならギリギリの年齢のくせに、あんた何を考えてるの?」
「今日って小百合さんの誕生日だったんですか!?」
それは質問というより悲鳴に近かった。
「すいません。私、今日が小百合さんの誕生日だったなんて知らなくて、先生とのデートを邪魔するようなことをしてしまって……」
「先生とのデート!?」
桜子と椿姫の声がきれいにハモっていたが、とりあえずそっちは後回し。
「詩ちゃん、気にしなくていいよ。学校の教師がプライベートより受け持ちの生徒の問題を優先するのは当然だと思ってるから」




