1 3人と47人と0人(その3)
昼休みに、姉の桜子からLINEが届いた。桜子は私より二つ年上の40歳。年相応の整った顔立ち。髪型はお団子ヘアー。いかにも上品な奥様という見た目だが、実はバツイチで現在お一人様生活満喫中。
以前、五年ほど結婚して家を出ていたが、離婚して出戻り。産んだ子どもは元旦那の石橋進さんの家で育てられている。離婚したときに二千万円のお金を手に入れたので現在は趣味中心の悠々自適の生活を送っている。
《椿姫に18号からコンタクトあり。思い出の場所に行こうと誘って、今日の夕方会う約束をした模様》
椿姫と書いてツバキと読ませる。二つ年下の妹。顔は小さいのに胸は大きい。髪はショートの金髪。地味な姉や私と違って、見た目も性格も派手で男好きする印象。
私たちは三姉妹で、私が大学生のとき両親が相次いで亡くなってから、広い家に三人で暮らしている。
椿姫は高校生の頃からビッチだった。私が体調を崩して高校を早退した日、私が帰ってきてるとは知らず、男を連れ込んで隣の部屋でイチャイチャし始めたときは殺意を覚えた。何度も〈イッちゃう!〉などと絶叫していたっけ。
〈アフリカのサバンナにでもイッちゃってライオンに食われてしまえ!〉
と吐き気をこらえながら呪い続けていたのは今でもトラウマになっている。
〈18号? おととし結婚したんじゃなかったっけ?〉
《知ってる。だからこっちにも考えがある》
椿姫の元カレは何十人もいるから、私と桜子は番号で識別している。1号から25号までいる。ただしその25人は私たちが把握してる人数であって、椿姫の元カレの実数ではない。
最近、桜子が椿姫に詰問していた。
「結局、あんたって今までセックスした男は何人いるの? 50人はいそうだけど」
「人をヤリマンみたいに言わないで! 47人だよ」
忠臣蔵かよと心の中で突っ込んだ。桜子が呆れたようにため息をつく。
「50人と47人の差なんて誤差だよ」
「そういう桜ねえは何人としたの? 進さんを含めて」
椿姫は桜子を〈桜ねえ〉と呼び、私を〈百合ねえ〉と呼ぶ。私の名前は百合ではなく、小百合なんですけどね。
「三人だけど」
「40年も生きてきて知ってる男の数が今までにたった三人? 少なくない?」
「それくらいが普通なの!」
「じゃあ百合ねえは何人?」
絶対に話を振ってくると思った。姉も妹も私が未経験だということを知らない。
「お姉ちゃんと同じかな……」
本当は0人だけど、桜子に言わせれば三人差は誤差だそうだからそう答えても許されるのではと考えた。
本人の言うとおり、椿姫はヤリマンではなかった。ただ恋人がいないとき少し優しくされると簡単に股を開いてしまうだけだ。そういう女をサセ子と言うらしい。だから椿姫にとっては元カレでも、相手から見れば椿姫はただのセフレだった。
今までの人生で合計47人の男にセフレ扱いされていた女。そんな椿姫の過去を知った上で妹と結婚してくれる奇特な男なんてさすがにいないだろう。