10 赤鬼と一角獣(その4)
〈あなたが助手席に女子高生を乗せてるのを見ました。話がしたいのでいつもの時間に県庁裏の公園のベンチで待っていてください〉
光夜にLINEでそう送った。本当はそのあとに〈どうせ騙すなら最後まで騙し通してほしかった〉と書いてあったのだけど、その部分は直前に消去して送信した。すぐに誤解ですと返信が来た。これから私が光夜の車に乗って食事する店に行くにせよ、ホテルに直行するにせよ、その前にケリをつける必要があると信じた。
県庁の執務室に戻るなり、驚いた顔の流星が飛んできた。
「主幹、何があったんですか!」
「な、何もないけど……」
「目の辺りが真っ赤じゃないですか? 彼氏にモラハラでもされて泣いてたんですか? もしそうなら、おれからそいつにびしっと言ってやってもいいですよ」
「本当に大丈夫だから……」
気持ちはありがたいが、ありがた迷惑そのものだ。ただ今の私に流星のテンションに正面から対抗する気力はなかった。
公園といっても県庁も含めて徳川家康が築城したお城の跡地。お堀に囲まれた敷地は広大な面積を誇る。
指定した県庁裏手のベンチに光夜は座っていた。車は近くの駐車場に駐めたようだ。
光夜は車を運転していたときと同じ黒のジャージ姿。ただし隣にはブレザー姿の女子高生。彼女はのんきに大きなソフトクリームをなめている。六月らしく蒸し暑い一日だったから、本当においしそうだ。しかも私にはけして真似できない無邪気で屈託のない笑顔を満面に浮かべながら。
堂々と二人並んでベンチに座ってるのを見たら、また涙が流れてきた。これはあれか。私が光夜の前に現れたら、
〈この子とつきあうことにしたので、あなたとは別れることにしました。今まで楽しい時間をありがとうございました〉
と死刑宣告でもするつもりなのか? それならいっそ本当に殺してくれたらいいのに。光夜と出会う前の恋のときめきを知らなかった時代に戻りたい。
「あの男で間違いないですか?」
田所主事の問いかけに無言でうなずいた。向こうの二人はまだこっちの存在に気づいていない。実際の距離よりもずいぶん遠くに感じる。結局、私たちは体だけ何度も何度もつながって、心は一度もつながっていなかった。すべてが錯覚だった。私はまた元通りの一人ぼっちになった。




