10 赤鬼と一角獣(その2)
「主幹! どうされたんですか?」
彼女はそう声をかけてたまたま通りかかったコンビニの駐車場に車を駐めた。
彼女は田所美月主事、私より一回り下の26歳。主な担当業務は特定不妊治療費助成と小児慢性特定疾病医療費助成。入庁してすぐ結婚、妊娠、出産。二歳の子を育児しながらの勤務だから、先日の母子係の歓迎会はやむを得ず欠席した。
泣いてるのがバレたなら隠す必要がない。というか泣きやませる気力が皆無だったから、今さらどうしようもない。
「病院に行きますか?」
「そういうのじゃないの。ちょっとショックを受けただけで……」
「何か嫌なことでも思い出したんですか?」
こう見えて私は氷の女と呼ばれた女。嫌なことを思い出したくらいで人前で泣いたりしない。
「偶然見ちゃって……」
「何を見たんですか?」
心が弱ってなければ話さなかっただろう。もちろん心が弱ってなければ泣いたりしないのだが。とにかくこのとき私は誰かに話を聞いてほしかった。気休めでいいから大丈夫だと言ってほしかった――
「田所さん、ここだけの話にしてくれる?」
「もちろんです。子どもが熱を出して保育園から呼び出されたときとか、主幹にはいつもお世話になりっぱなしだから、こんなときくらい主幹の力にならせてください」
「ありがとう」
田所主事は年は若いが口は固く信用できる人物。思いきって話して見ることにした。
「おつきあいしてる人がいるんだけど、その人が助手席に女子高生を乗せて車を運転してるのを偶然見てしまって……。その人にお姉さんがいるのは知ってるけど、妹がいるとは聞いてなくて……」
「実は主幹が独身で交際中の方がいるという話を歓迎会の場でなさったそうですね。最近聞きました。主幹とおつきあいされている方が年上なら、妹ではなくて娘さんということはありませんか?」
乗りかかった船だ。恥を忍んで全部打ち明けることにした。
「実は彼、あなたより年下だから、それはないかな」
「ええっ!」
本気で驚いている。援助交際の相手みたいに思われたら嫌だなと思ったけど、素直に恋人だと受け取ってくれたようだ。
「見かけたのはその彼氏さんで間違いないんですね」
「うん。顔も服装も……。彼、いつもジャージ姿なんだ。食事するお店に入るときまで。ジャージ姿で車を運転する人って珍しいでしょ」
「ジャージ姿……」
田所主事は少し険しい表情になった。
「その男の顔の分かる写真とかありますか」
「あんまりないけど……」
焼肉店に行ったときあまりに豪快な食べっぷりだったので思わず撮影してしまった動画があって、スマホの画面でそれを見せてあげた。軽薄な男に見えたのだろう。彼女の感想は辛辣だった。
「主幹、どうしてもその男でなければいけませんか。主幹ならいくらでも条件のいいお相手が見つかると思いますけど」
浮気性の男はやめとけという忠告が正論なのは分かる。しかも浮気相手は女子高生。とんでもない地雷だ。地雷なら踏み抜いて炸裂させないように離れて歩かなければならない。分かってはいるけど……




