10 赤鬼と一角獣(その1)
不妊検査の結果に特にサプライズはなかった。光夜の精子は年齢相応に数が多く元気で、私の卵子は年齢相応に数が少なくなっていた。年齢要素以外に双方に妊娠しづらい理由はなかった。私はホッとした。どちらかが不妊症なら人工授精や体外受精に移行することになるが、そうすると今までの頻度で光夜と会い、会うたびに繰り返し行為しなければならないという根拠もなくなるから。
光夜と出会って約一ヶ月。ほぼ毎晩会って行為した。それまで38年間未経験だったくせに、光夜の若さに甘え、膣内射精させた回数は間違いなく百回を超えていた。私は光夜しか知らないが、光夜は女の体の扱いに慣れていて、どうすれば女が喜ぶかよく分かっていた。私は行為がもたらす快楽に溺れ、光夜もうぶだった私が性の喜びに狂う姿を見て満足そうだった。38年も肌のふれあいを知らなかった私はどれだけ人生を損してたんだろうと後悔することもあるが、そういうときは大好きな光夜に初めてを捧げられてよかったと思うようにしている。
光夜の家族が私を浮気相手扱いしていることは知っていたが、光夜自身の気持ちを疑ったことはなかった。六月中旬、私の誕生日を三日後に控えたあの日までは――
その日、私は同僚が運転する公用車に同乗して出先機関に日帰り出張に出ていた。夕方、県庁に戻る途中、見慣れた車が前から向かってくるのが見えた。毎晩助手席に乗せてもらっている光夜の車と車種も車体の色も同じだった。珍しい車でもないからそんなこともあるよねと思って、ひょいと運転席に目をやると、運転していたのは光夜だった。黒いジャージ姿。同じ車はたくさんあっても、ジャージ姿で車を運転する男はめったにいない。あれは確かに光夜だった。
問題は助手席に私ではない女を乗せていたことだ。あと一時間もすれば私が座るであろう場所に、今は別の女が座っている。嫉妬でも憎悪でもない。ひたすらショックだった。
もしかして今までもそうだったのだろうか? 光夜の車の助手席に座る女は自分だけと思い込んでいたけど、私が座る前後の時間に違う女たちが座り、私と同じようにホテルに連れ込んでいたのだろうか? 実は私はそんな不特定多数の女の一人にすぎなかったのかもしれない。
元婚約者が光夜と復縁したがっているのは知っている。でもさっき助手席に座っていた女はその人ではない。だってさっき光夜の隣に座っていた女は、どこかの高校の制服にしか見えないブレザーを着ていたから。ブレザーの下はブラウスに赤いリボン。どう見ても女子高生。彼女が18歳になっていなければ淫行だ。
警察に通報してやろうかと一瞬思って、そんな自分がなおさら惨めになって涙が出てきた。同僚に気づかれたくなくて両手で顔を覆ったけど、ううっと嗚咽の声が漏れて私の心の修羅場はあっという間に白日のもとにさらされてしまった。




