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私、崩壊  作者: 清水幸
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9 石橋千夏の遺言(その2)

 桜子は月一で元義実家に面会のために通うつもりだったが、離婚後すぐに元夫が不倫相手と再婚して、しかも元義母が泣いて土下座したのは演技だったと笑い話にしているとあとから知って行くのをやめた。子どもはかわいかったが、元夫はともかく無理やり自分から夫と子どもを奪った後妻と元義母に会いたくないという気持ちが上回った。

 それから五年。律儀な元夫は毎月必ず翔の写真を桜子あてに送ってくる。桜子も送られた写真はアルバムに貼って大切に保管している。

 何度か尋ねたこともある。

 「翔君に会いに行かないの?」

 「あの女が死んだらね」

 聞かれるたびに桜子はそう笑っていたが、桜子の怒りが空を飛んで県境を越えたのだろうか。私が光夜と不妊検査を受けた日の夜、元夫の後妻が亡くなったと元夫から電話で報告があった。ただ亡くなったのは一週間前でもう通夜も葬儀も終わっているという。

 桜子は驚きながらも不機嫌な口調を崩さなかった。

 「だから何? 私にあの女の葬式に出てほしかったとでも言うの?」

 「いや、これから君の口座に一千万振り込むからその連絡をしたかったんだ」

 「何の話?」

 「君は僕の家に来たくないようだから、明日翔を連れて君の家に説明しに行かせてほしい」

 桜子は翔に会えるならと了承した。


 振り込んでもいいと桜子が了承したわけではないのに、振り込むと電話があった翌日に一千万円が振り込まれた。同日、進はさっそく翔を連れてわが家を訪問した。さっそく〈説明〉が始まった。翔にはその間別室でテレビゲームをやってもらっている。

 「不倫夫さん、お久しぶりです。不倫妻さん亡くなったんですって? 因果応報ってあるんですね。じゃあ次はあなたですね」

 椿姫がさっそく突っかかっていったが、因果応報があるなら椿姫自身が真っ先に死んでなければいけないんじゃないだろうか。

 「妻の遺言を収めた動画を見てやってください」

 今さらなんでそんな辛気臭いものを見なければならないのか? どうせ桜子から進と翔を奪ったことの言い訳ばかりに決まってるのにと思いながら、あまりに必死に進にお願いされたから、スマホの動画をテレビで再生してみんなで見た。手足を拘束されてベッドに横たわる、私たち姉妹よりわずかに若そうな、だけど土気色の顔をしてひどく不健康そうに見える女が画面に映し出されて、私たちは言葉を失った。

 「藤川桜子さん、はじめまして。石橋千夏と言います。旧姓は高木でした。手足が勝手に動いて危険なので全身を拘束されています。桜子さんがこの動画を目にする頃は私はもう拘束具から永遠に自由になっていることでしょう」

 彼女の言うとおり手足に限らず体のあちこちが不随意運動を起こしていて、それは口元も例外ではなく話するのも大変そうだった。

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