1 3人と47人と0人(その2)
朝。打ち合わせ開始直前のやや張りつめた空気を破るように、
「おはようございます!」
元気よく執務室に飛び込んできた男。見なくても分かる。新規採用職員の三井流星主事。大学を出たばかりの22歳。童顔だから十代と言っても通用しそうだ。
元気がいいのはいいが、今朝も三分遅刻。まだ働きだして一カ月。遅刻はもう七回目。とんだ問題児が入ってきたものだ。
広い執務室はこども家庭課を含む四つの課の共有。流星はよりによってこども家庭課の職員で、しかも母子係だから私の直属の部下だ。
まっすぐに私の方に駆け寄ってくる。中学から大学まで全力でバスケに打ち込んでいたと言うだけあって身長は185センチもあるそうだ。しかも筋肉質。そんなガタイで突進してこられると正直少し恐怖を感じる。でも私は彼の上司。どんなときでも毅然とした姿勢を見せなければならない。
「藤川主幹、遅れてすいませんでした」
「言い訳しなくなったところは進歩だと思うけど、三井君、確か昨日も遅刻してたよね」
「面目ないです」
「君以上に君の指導担当である私の面目がないんだけどね」
「主幹は悪くないです!」
突然大声で叫びだして、目の前にいる私はもちろん執務室にいる約五十人の職員全員が呆気にとられている。
「安心してください。おれが悪いだけなのに主幹を悪く言うやつがいたら、全力でぶっ飛ばしてやりますよ」
話をすればするほど安心からほど遠い気持ちになる。誰だ? 去年この男を面接して適性のなさを見抜けなかった面接官は?
ただ適性はないが、若いだけあって体力があるから何時間残業しても平気。だから今のところ彼の仕事に遅れは出ていない。でも本来新規採用職員の彼にはほかの職員と比べて少なめの業務しか割り当てられてないのだから、早く仕事を覚えて定時に帰れるようになってほしいものだ。残業が減れば睡眠時間が足りなくて朝起きられずに遅刻するということもなくなるだろう。