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私、崩壊  作者: 清水幸
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8 私は浮気相手だった(その1)


 破滅への足音が聞こえた気がした。毎晩光夜と会い何時間もお互いを求め合った。若い光夜は私のしつこい要求を一度も拒まなかった。行為中、光夜だけでなく私も愛してると繰り返し叫んだ。妊活がセックスの目的だったはずなのに、私は積極的に快楽に溺れた。光夜との別れがいつ来ても後悔しないように妊活に励み、同時に38年間知らなかった快楽を貪った。

 五月下旬、私は生理になった。光夜は泣きじゃくる私をひたすら抱きしめてくれた。

 「光夜君、あんなに頑張ってくれたのに。間違いなく私の卵子が年老いてるせいだね」

 「チャンスはまだ35回あります。今日は気晴らしに外に出ませんか? パーッと食べて飲んで嫌なことは忘れましょう」

 一年で12ヶ月。三年間だから単純計算で排卵日は36回。今日最初の一ヶ月目が徒労に終わった。

 「今日は私におごらせて。光夜君、何か食べたいものある?」

 「焼き肉かな」

 「神戸牛のおいしいお店知ってるよ」

 「僕はそういう高級店より食べ放題のお店でいいです」

 「遠慮しなくていいのに」

 「こう見えて僕は体育会系なんですよ。質より量です」

 実際、焼肉店での光夜の食べっぷりには驚かされた。よくこれで太らずにいられるなと感心した。食べ放題の焼肉店は家族連ればかりで、カップルは私たち以外いないようだ。

 「光夜君、大学を卒業してからもスポーツを続けてるの?」

 「僕にはもうスポーツと小百合さんしか残ってないですからね」

 光夜の浅はかな振る舞いのせいで大学時代の知り合い全員から絶交されたことを言っているのだろう。

 「ご家族だっているでしょ」

 「当時の恋人とは結婚する約束もしていて、僕の家族にも紹介してありました。彼女は僕に別れを告げたあと僕の家に行って、僕が恋人である自分だけでなく親友も裏切り傷つけたと家族の前で洗いざらい報告しました。彼女に土下座して慰謝料を払うと言ったうちの親に、彼女はお金で私の気持ちが癒やされることはない、それよりこれ以上被害者を出さないために彼にしっかり謹慎させてくださいと泣きながら訴えたそうです。それ以来、僕は家族からの信用も失いました。姉なんて、あんたに新たな恋人ができるたびにあんたのしたことを全部ぶちまけてやる、自分だけ幸せになれると思うなよ、と言いながら毎日のように僕を殴ってきます。家では針のムシロ状態なので小百合さんに同棲を提案されたときは本当にうれしかったです。でもそれを家族に話したら、三年間おまえが問題を起こさずおとなしくしていれば元婚約者と復縁させる話になっていた。そのための謹慎だったのに、まだ謹慎期間の半分も過ぎてないのにもうほかに女を作って同棲したい? どうしようもないやつだ。その女と別れないなら、もうおまえには親兄弟はないものと思えと宣告されました。復縁の話があるなら教えてほしかったと言ったら、復縁ありきと先に教えてあったら謹慎にならないだろうと言われました。それは確かにそうなんですけどね……」

 私の同棲の提案を彼は真剣に考えてくれてたわけか。それはうれしい。でもそんなことより――

 「君の家族にとって私は浮気相手というポジションなんだね」

 「すいません」

 謝ってほしくなかった。僕の本命はあなただと私を安心させてほしかった。

 「それでどうなの? 君の元婚約者が今でも君を待ってることが分かったけど、君自身は元サヤに戻りたいの?」

 「小百合さんと出会ってなかったらよりを戻していたと思います。でも僕の運命はもう変わってしまったんです」

 それは家族と絶縁する覚悟で私との交際を継続するということ? うれしいけど私のせいで光夜が家族に絶縁されるのは正直心苦しい。そもそも謹慎が終われば復縁するという話は本当なのだろうか? 私と別れたくて都合のいい話をでっち上げただけじゃないのか――

 疑えばきりがない。頭の中がぐちゃぐちゃになって、私は疲れ果ててしまった。私はすっかり食欲がなくなったけど、光夜は相変わらず肉を焼きまくっている。ストレスからやけ食いしてるというわけでもなさそうだ。全部光夜側の問題なのに、なんで私ばかり心がもやもやしてるのだろう? あれだけ夢中だった光夜に対する想いが少し冷めつつあることを自覚して、私は呆然となった。


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