6 ワンチャンください(その4)
「おれの彼女ですか? あっはははは!」
流星が突然壊れたように笑い出した。
「おれ全然モテなくて大学生になって初めて彼女ができて、もううれしくてうれしくてできれば結婚したいって思うほど夢中になって、死ぬほどバイトして金を稼いで、ほしいものなんでも買ってあげたし一食一万近くするレストランのコース料理も毎週のようにおごったし精一杯尽くしていたんですけどね。彼女浮気してたんですよ。ショックでしたよ。何がショックって、おれにとって一生をともにしたいと願ったたった一人の女が、別の男にとってはただのセフレの一人にすぎなかったって知って。おれあきらめきれなくて、おまえがあいつと別れるならおれは過去の浮気には目をつぶるからやり直そうって泣きながら訴えたんです。そうしたら彼女なんて言ったと思います? あなたの恋人でいるより彼のセフレでいたいって。おれより悲惨な振られ方した男っているんですかねえ! おかげで体重が十キロ減りましたよ。一つだけいいことあったとすれば、もう女はいいやって思って、それから公務員試験の勉強に必死に打ち込んだらダメ元で受けた県庁に受かったことですかね。そのことだけはあの女に感謝してます」
流星は感極まって泣き出した。山口主任がオロオロしながら慰めている。ショックだろうなと思う。私と光夜の関係でいえば、
〈勘違いするな。おまえは恋人じゃなくてただのATM兼性処理係。おとなしく金出して股を開いてればそれでいいんだ〉
などと言われるようなものか。私を殺すのに刃物はいらない。愛してると言ったのは嘘だったとたった一言光夜に告げられただけで、次の瞬間私は生ける屍と化すことだろう。
「あんな目に遭ったけど、主幹に会えておれは立ち直れました。〈私たちは県民のために仕事している〉主幹の今日の言葉、痺れました。真顔でこのセリフ言ってサマになる人ほかにいますか? 一生この人の部下でいたいと改めて思いましたもん」
私のおかげで失恋の痛みから立ち直れた? それは買いかぶりだし、定年までこの男が部下でいるのは正直勘弁してほしいかな。だいたい母子寡婦福祉資金貸付金は本来君の業務。新採職員でトラブル処理は未経験だろうから代わってやってあげただけだ。私のやることにいちいち感心しなくていいから、早く仕事を覚えてほしい。
トイレに行こうと席を立つと、顔色がよくないですよと山口主任に声をかけられた。
「ちょっと二日酔いでね」
「え? 主幹、まだ一滴も飲んでないじゃないですか」
昨夜コンビニで一人淋しく缶酎ハイを六本も空けたことは黙っていよう。しかもそのあと午前二時過ぎまでずっと光夜と行為していて寝不足なのもアラフォーの身にはこたえた。




