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私、崩壊  作者: 清水幸
19/84

6 ワンチャンください(その1)


 行為したのが初めてだったのだから、行為したあと男に職場まで車で送ってもらうのも生まれて初めてだった。私は助手席に座っていた。少し顔を右に向ければ恋人の凛々しい横顔が見れる。そんなささいなことがこの上なく幸せだった。

 「仕事が終わる頃に連絡して下さい。迎えに行きますから」

 そう言ってもらえて正直ホッとした。光夜のかつての交際相手の中にはワンナイトだけ関係した女も何人かいたらしい。今夜も誘ってもらえたということは私はワンナイト枠の女ではなかったということだ。

 かつて光夜はC美を〈一度寝ただけなのに彼女づらしてくる迷惑な女〉としてぞんざいに扱った。光夜にそんな扱いされて、C美も苦しかったはずだ。光夜の親友と交際を始めたりと理解に苦しむ行動の多かった彼女だけど、つまり当たり前の判断ができなくなるくらい光夜に夢中だったわけだ。

 光夜は分かってないようだけど、彼女の奇行の責任の一端は明らかに光夜にある。彼女が狂った責任を果たせと指摘して、光夜が彼女とよりを戻しても困るから黙っていた。C美には悪いが私だって自分の幸せが大事だ。

 「今夜、私の係の歓迎会があるんだ。二次会以降は断るから、一次会だけ出てもいいかな?」

 「出るななんて言いませんよ。係の飲み会に係長がいなかったらサマにならないですもんね」

 「ありがとう。終わる時間が分かったら連絡するね」

 今日は金曜日。会えるのが遅い時間なら明日ずっと一緒にいればいい――

 と考えたところで、県庁勤めの私は土日休みだけど光夜は違うかもしれないと思い至った。

 「ところで、光夜君、土日は仕事休めるの?」

 「土日は休日ですけど基本的に出勤します」

 「じゃあ、平日に振り替えて休むの?」

 「無理ですね。ちなみに四月に就職したばかりですけど、最初の四月は一日も休みが取れませんでした」

 公務員なんてやってるとブラック企業なんて都市伝説かというくらい自分と無関係な存在でしかないけど、とうとう私のテリトリーにもそれが姿を現したわけだ。

 「ごめん。休みがまったく取れないなんて信じられない。その休日勤務した分はちゃんと割増賃金が支払われてるの?」

 「割増賃金?」

 「私たちの場合、休日勤務は時給換算で少なくとも2500円以上はもらえるよ」

 「僕らが休日に働いた分は時給に直したら500円くらいですね」

 「500円!? 最低賃金の半分じゃない! 法令に違反してるよ!」

 「職場の先輩はこれでもマシになったって言ってました。一昔前は休日はどれだけ働いてもタダ働きだったそうです」

 「どれだけブラックなの! 光夜君、転職は考えてないの?」

 「やりがいはあるんですよ。できれば定年まで勤め上げたいと思ってます」

 まだ若いのに洗脳されて立派な社畜にされてしまっている。本人がやりがいがあると言ってる以上、詳しく仕事の内容を問い詰めて無理に転職させようとすれば反発されるだけだろう。かわいそうに。私が君を魂の牢獄から絶対に救い出してあげる!

 と心の中で誓ったところで県庁の正面に着いていた。ちゅっとキスを交わして車を降りたら、目の前を歩いていた三井流星と目が合った。

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