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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第6章 手作りケーキは突然に
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途切れた日記

「期末テストの打ち上げに手作りケーキでお祝いですか。ずいぶん仲が良いですね」

「だな。部室でパーティって楽しそうだな」


 どの部活もこんな雰囲気なのだろうか? あいにく俺は部活動をした経験がないからわからない。


 相談部? こんな特殊なもん参考になるか。


「でも打ち上げは2年だけなんだな? 1年と3年とは仲良くないのか?」

「仲が良くないってことはないんじゃ……いや、このノートの記録だけじゃわかりませんね」


 何やら複雑な人間関係がありそうだな。そんな考えを泉先輩が否定してきた。


「単純に部員全員分のケーキを作るのがしんどかったんちゃうかな? 2年生だけで越前さん、乙姫さん、グッピーさん、弓彦さん、レオニダスさんの5人。これに1年生と3年生を合わせたら結構な人数になるやろ。ケーキって意外と作るの大変やし、材料費もかかるしね」

「特別仲の良かった2年生に絞った。言い方は悪いですがこんなところですかね」

「なるほど」


 なんにせよ登場人物がこれ以上増えなくて良かった。こんな珍妙な名前の連中覚えるのが大変だ。


「続きを読みましょうか。乙姫さんのケーキがどうなったか気になります」

「そうだな」


 そう言って俺と桐花は再びノートを開いた。


***

「さあ! レオニダスの分もケーキを食べちゃおう!」

 

 友人の不在を心から嬉しそうに笑うグッピーに呆れていたその時だった。


「ごめーん! お・ま・た・せぇー!」


 おどけた口調と共に扉が乱暴に開かれる。


 みんな驚いて入口を見ると、何やらカッコつけたポーズをしたレオニダスがいた。


「え、レオニダスなんで?」

 

 驚いた様子で乙姫が問いかける。


「いやさー、友達と遊びに行く予定だったんだけどドタキャンくらってさ。で、今日なんか集まるって言ってたの思い出したから来ちゃった」


 なんてタイミングのいいやつだ。もう少し遅かったら僕たちがケーキを食べているところを指を咥えて眺めるだけになっていただろう。


「えー、なんで来ちゃったのー!」


 グッピーが不満そうにブーたれる。


「なんだよグッピー。俺が来ちゃ悪いのかよ?」

「悪いよ! せっかくレオニダスの分のケーキも食べられるところだったのに!」

「ケーキ?」


 事情を知らないレオニダスに乙姫がケーキを作って来てくれたことを説明する。


「手作りケーキ? 俺の分あるよね?」

「えっと……一応あるよ。ホールのケーキだから切る時一人分がちっちゃくなっちゃうけど」


 つまり1/4サイズのケーキが1/5サイズになると。


「なら食べる。絶対食べまーす!」

「もー最悪! レオニダス来なければよかったのに!」

「なんだとっ!」


 そう言ってグッピーとレオニダスが言い争いを始める。と言っても険悪な雰囲気はない。いつものじゃれあいだ。


「待って、ケーキってショートケーキだったりする?」


 言い争っている二人を尻目に、弓彦がそんな質問をしてきた。


「そうだけど?」

「あーごめん。僕生クリームだめなんだ。乙姫には悪いけど今回はパスで」


 なんともったいない。せっかくの乙姫手作りケーキなのに。


「え、弓彦いらないの? じゃあ私弓彦の分もらう」

「待てよ。俺も欲しいって。じゃんけんしようぜ!」

「なんでよ! レオニダスここはレディーに譲りなさいよ!」

「何がレディーだ!」


 そうやってまたしても言い争いが始まってしまった。


 結局、仲良くみんなの分を大きく切り分けるという形で決着がついた。


「じゃあ私、ケーキ準備するから」

「あれ、どこにあるの? 教室?」

「まさか。流石に教室に置いたままだと怖いよ。朝イチで来てこの部屋に置かせてもらったんだ」

「そうだよね。何か手伝う?」

「あー、じゃあお皿とフォーク準備してくれる? 私ケーキ取ってくるから」

「あいあい」


 そんなやりとりを挟み、みんなでケーキを食べる準備を始めた。


「あーあ。なんでレオニダス来ちゃうかな」


 カチャカチャとお皿を準備しながらグッピーが愚痴る。


「まだ言うのか? 弓彦の分が食えるからいいじゃねえか」

「レオニダスが来なかったら、弓彦の分もレオニダスの分も食べれたのに!」

「……どれだけ食べるつもりなの?」


 流石の僕もツッコミを入れる。


「はい、お待たせ」


 そうこうしているうちに乙姫が帰ってきた。手には白い箱が提げられていた。


「おーすごい! お店のやつじゃん!」

「大袈裟だよ。箱は100円ショップで売ってたやつだし」


 グッピーの言う通り、乙姫の持って来たケーキの箱はケーキ屋さんでしか見たことがないものだった。


 取手のついた白い紙製の箱。


 蓋には可愛らしいハートのシールで封がされて、中のケーキがしっかりと守られているようだ。


「おー。もうこれだけで美味そうだな!」


 レオニダスが嬉々としてそんな事を言うが、中のケーキは全く見えていない。


「早く開けよ! 開けよ!」

「わ、わかったよ」


 グッピーに急かされた乙姫が封を切って箱を開ける。


 みんなの期待が最高潮に高まる中、ついに乙姫のケーキがお披露目された。




「…………え?」


 


 そう呟いたのは一体誰だったのだろう?


 いや、もしかすればその場の全員の口から漏れた音なのかもしれない。


 満を持して披露された乙姫の手作りケーキ。

 

 そのケーキが箱の中でぐちゃぐちゃになっていたのだ。


「な、なんで?」


 グッピーの疑問に答える者はいなかった。


 意味がわからなかった。全員唖然として崩れたケーキを見つめていた。


 普通の崩れ方ではなかった。

 

 例えば、ケーキを箱ごと誤って地面に落としたとしてもここまでぐちゃぐちゃにはならないだろう。


 生クリームが箱の天井や壁面に飛び散って、今なお滴っている。


 イチゴが潰れてその果汁がクリームと混ざり、おそらく元は純白だったケーキをピンク色に染め上げている。


 間違いなく、誰かが悪意を持って乙姫のケーキを台無しにしたのだという事を感じ取れた。


「…………」


 その場にいた全員が無言だった。


 僕も混乱していた。


 なぜこんなことに?


 なんの目的でこんなことを?


 混乱した頭の片隅でただ一つだけ確信していたことがあった。


 犯人は間違いなく、この場にいる文芸部の2年生だということだ。

***



「これが文芸部で起きた事件か」


 読み終えた俺は軽くため息をついた。


「楽しそうな雰囲気だったのに、急展開ですね」

「まったくだ。誰がなんの目的でこんな事をしたんだ?」


 みんなが楽しみにしていた女子部員の手作りケーキをめちゃくちゃにするなんて。


 イタズラにしては度が過ぎている。


「これを書いた越前さんは、文芸部の2年生が犯人だと確信していたようでしたね」

「そりゃあ、文芸部で起きた事件だしな」


 嫌だなー。仲の良い部活仲間を疑わなくちゃいけないなんてよ。


「本当にそうなんでしょうか?」


 桐花がポツリと呟く。


「へ?」

「……いえ。これだけじゃ情報が足りません。続きを読みましょう」

「まあ、そうだな」


 俺たちはノートの続きを読み始めた。


 日記は、日付が翌日のものに変わっていた。


***

7月23日

 最悪だ。


 裏切られた気分だ。


 自分が惨めで仕方がない。

 

 いや、こんな気持ちになったのも全て自身の愚かさのせいだろう。


 誰が悪いわけじゃない。


 強いていうならば悪いのは自惚れていた僕自身だ。

 

 まさかこんなことになるなんて。いっそのこと何も知らないバカのままでいたかった。

***


「…………」


 俺も桐花も絶句した。


 日記はこれまで違い、怒りをぶつけるような荒々しい筆跡で書き殴られていた。


 そこから先続きはなく、日記は7月23日を最後に途切れていた。


「何があったんだ?」


 意味がわからない。

 

 俺と桐花はこの日記を持ってきた泉先輩に目を配る。


 すると先輩は俺たちの心情を知ってから知らずか、のほほんとした雰囲気でこう答えた。


「な。不思議やろ? 一体あの日、文芸部で何が起きたんやろね」


 


 

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