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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第1章 GORILLA ドロップス
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異常なしの異常

「盗まれたものが……ない?」


 それはあまりにも不可解な話だった。閉めたはずの部屋の鍵が開いていたらまず物盗りの線を疑う。にも関わらずその形跡がないだって?


「本当に何も盗られたものはなかったのか? なんか見落としてたりとか」

「絶っ体ない! 部費で買ったパソコンも、ちょっと背伸びした高価な機材も、漫研に代々受け継がれてきた漫画の数々も何一つ盗られてなかった!」


 聞けば、漫研の部員総出で部屋を確認したらしい。結果、無くなったものが無いことは間違いそうだ。


「ね? 面白い話だと思いませんか、吉岡さん」


 意味がわからず頭を悩ませている俺に向かって、桐花は何が楽しいのかニヤニヤしながら声をかけてくる。


「鍵の開いた部室。しかしそこにはなんの異常も見受けられなかった。ですが、誰かが部室の鍵を開けたことは確実です。…………誰が? なんのために? 気になりませんか?」

「そりゃあ…………気になるけどよ」


 ここまで話を聞いたら答えが知りたくなるのが人間の(さが)だ。それをわかっていて俺を巻き込みそんなことを聞いてくるこの女は、本当に底意地が悪い。


「では、事件解決に向けて捜査を始めましょうか。協力お願いしますよ、ワトソンくん?」

「…………おう」



「さて、まずは状況を整理しましょう」


 桐花はどこかウキウキとした様子で室内を見渡す。


「事件の発生は昨日の昼休み、ここ漫研の部室での出来事です。部員である宮間さんと部長さんが鍵を閉めて部室を離れ、忘れ物をした宮間さんが戻ってくると部室の鍵が開いていた…………宮間さん。部室を離れてから戻ってくるまでどれくらいかかりましたか?」

「えっと、予鈴がなって一度職員室まで行って、せいぜい2、3分ってとこかな? うん、本鈴がまだ鳴ってなかったから間違いないと思う」

「普段職員室で管理している鍵はいくつあります?」

「私が持ってたこれ一つだけだよ」

「ん? 確か宮間さんが部室に来た時、部長さんがすでにいてお昼ご飯食べていたっておっしゃいませんでしたっけ? 鍵はどうしたんです?」


 桐花が顔を向けると、部長さんは抑揚のない声でなんでもないように答えた。


「職員室で管理している鍵は宮間ちゃんが持ってた物一つだけだけど、鍵自体は二つあるの。私はそのうちの一つを任されていて、わざわざ職員室に借りに行かなくても自由に出入りできるの。まあ、部長の特権てやつね。その代わり放課後はできる限り早く来て鍵を開けなきゃいけないのだけど」

「…………なんでこんなとこで昼飯を?」


 ここは教室からも食堂からも離れた場所。職員室を経由する必要がないとはいえ、ここにくるまで結構手間だろうに。

 

「ちょっと今描いてる漫画を進めようと思ってね。お昼食べてから作業しようと思ったんだけど、途中で宮間ちゃんが来ちゃったから」

「なるほど」


 漫画を描きたいのに宮間のお喋りに付き合わされてそれどころじゃない部長さん。容易に想像できる。


「つまり、鍵を持った部長さんは教室に戻ってて、もう一つの鍵は宮間の手元にあったと。……じゃあ、誰が鍵を開けられるんだよ」


 鍵を持った2人は職員室まで一緒に行動していることをお互いが証明している。


 二つしかない鍵の所在が明らかになっているこの状況。鍵を用いて部室を開けられる人間なんていない。


「部長さん。鍵落としてたりしないっすよね?」

「まさか。だったら流石に言うわよ」


 だよなあ。


「それじゃあピッキングでもされたか?」

「それはないです。鍵穴を調べましたが、ピッキングした時に生じる傷がありませんでした。綺麗なもんでしたよ」


 冗談半分、半ば本気で言ったが、桐花に即座に否定される。何でそんな知識を持ち合わせているのかはあえて聞かなかった。

 

「…………なあ宮間、やっぱり鍵閉め忘れてないか?」


 正直これが一番可能性が高そうだ。


「ありえないって! 鍵の閉め忘れで何回も先輩に怒られたから絶対に忘れないようにしてたもん!!」

「前科持ちじゃねえかよ」


 しかも何回もって。これで真相は宮間のうっかり説が高まった。


「じゃあ、あれだ。鍵を誰かが勝手に複製したとか」

「そ、それは……」


 見たところ鍵はオーソドックスなアナログキー。俺にその辺の知識はないが、鍵屋なり何なりを使って複製することは簡単にできそうだ。


「確かにその可能性はあります。ですが吉岡さん、なんでそんな手間のかかることをわざわざしたんでしょうか? だって部室から盗まれたものはないんですよ」

「まあ、確かに……」


 そこが問題だ。鍵を開けた犯人がいたとして、そいつは一体何がしたかったのだろうか?


 俺は少し考え、自分の推理を披露する。


「盗まれた物はないって言ったな?」

「うん。間違いない」

「実は気づいていないだけで盗まれていたとしたら?」

「ど、どう言うこと?」


 そう。盗む対象が()であるとは限らないのだ。


「ここは漫研だろ? ってことは部員たちの描いた漫画が財産として残ってるはずだ。犯人は盗作目的でそれを盗んだんだよ。デジタルならPCからデータをコピーして。アナログなら原稿を写真に撮ってな!!」

「た、確かに!!」


 自信満々で披露した推理に宮間が同調してくれた。これは決まったんじゃないか?


「…………吉岡くん」


 すると、部長さんが近づき一冊の冊子を渡してきた。


「これ、うちで発行してる機関紙なんだけど。読んで」

「?」


 疑問に思いながら薄い冊子をペラペラとめくる。


「………………」


 それは恐ろしいほどつまらなかった。


「それを読んで、盗作する価値があると思う?」

「…………ごめんなさい」


 気まずすぎて部長さんの顔が見れない。


「あー、じゃあ、あれだ。物を盗んだんじゃなくて、逆に物を置いてったんだよ。盗聴器とか、盗撮用のカメラとか」

「ありえませんね」


 半ばやけっぱちになった俺の言葉は、桐花に切って捨てられた。


「センサーを使って部屋を調べ回りましたが、それらしい物は一つも見つかりませんでした」

「…………なんだよセンサーって。なんでそんなもん持ってんだよ?」


 もうこいつに一般的な女子高生の常識を当てはめるのはやめたほうがいいかもしれない。


「じゃあ、なんだ? 物を盗られた形勢はありません。盗作を心配する必要はありません。盗聴、盗撮の痕跡はありえません。ってことか?」


 言葉にすれば言葉にするほど意味がわからない。明らかに異常なことが起きているのに、その異常がわからない。


「なんだ、この事件?」

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