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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
相談部の日常 その1
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秋野家の未来

 秋野(かえで)


 俺たち相談部の設立のために名前を貸してくれた女子生徒の一人だ。


 実家が何やら道場をやっているらしく、その手伝いで多忙であるらしいのだが、時折相談部の部室に遊びに来ている。


 彼女と知り合ってから日はまだ浅い。しかし俺と桐花にとって、秋野との関係は決して浅いものではないはずだ。


 基本的に幽霊部員であるが、彼女も大事な相談部の一員なのだから。


 だが、俺が彼女について知っていることは少ない。


 俺個人と秋野の交流が少ないわけではない。秋野が遊びに来た時は、それなりに親交を育んでいる……はずだ。


 秋野が秘密主義であるというわけでもない。彼女はむしろ口が軽く、おしゃべりなくらいだ。


 ではなぜ、彼女のことをあまり知らないのか?


 それはーー


「そうそう弟なんだけど、進学先をこの晴嵐学園に決めたそうだ。彼女さんも一緒らしい。はあ、(みのる)ももう受験か。月日が経つのは本当に早い。ついこの間までお姉ちゃん、お姉ちゃんと私の後をついてきていたはずなのに、気がつけば姉さん呼びに変わっているしな。無論、姉さんと呼ばれるのもこれはこれでいいものだが。あ、受験については心配していないぞ。弟はあれで成績優秀でな、合格自体はほぼ間違いないだろう。心配なのはやはり恋愛許可証の方だな。彼女さんと正々堂々この学園で交際するためにも、絶対に許可証を手に入れると、意気込んで勉強をしているよ」


 この女、びっくりするくらい弟の話しかしないのである。


 口を開けば弟、弟。


 おそらくこちらから彼女に対して、何かしら質問をすれば気さくに答えてくれるのだろうが、そんな隙もないぐらい弟についての語りが止まらない。


 桐花は桐花で秋野の弟とその彼女さんの進展は気になるのか、毎回秋野の話を楽しんでいる。しかし俺からすれば、流石にもういいって感じだ。いい加減腹一杯になってきた。


 部員であるはずの秋野より、一度顔を合わせただけの弟君のことについてどんどん詳しくなっていく現状。弟君の個人情報が、彼の預かり知らぬところでダダ漏れになっていることに後ろめたさを感じている。


 そんな秋野だが、本日は何か俺たちに相談事があるらしく、神妙な面持ちで弟の話を切り上げた。


「で、相談ってなんだよ秋野? まあどうせ弟のことだろうけど」

「同じ相談部の仲間なんだから、どんな相談でもばっちこいです。まあ、十中八九弟さんのことでしょうけど」

「……君たち、私をなんだと思っているんだ」


 秋野は苦笑いを浮かべた。


「全く、人をブラコンみたいに言って」

「ブラコンだろ」

「ブラコンですね」


 俺が秋野について知っている、数少ない事実だ。


「そ、そんなに四六時中弟のことを考えているわけではない! その証拠に相談したいのは弟のことじゃないんだ!」

「じゃあなんだよ?」


 彼女の口から弟以外の話が出るなんて珍しい。一体何を相談したいのだろうか? 


 俺も桐花もやや緊張しながら、秋野の言葉を待つ。



「今日相談したいのは……私と弟の彼女さんとの関係についてだ」

「それ弟のことだよ」



 身構えて損したわ。


「な! ち、違うだろ!? 弟の彼女さんについての相談だ! 弟のことじゃないだろ!?」

「“弟の“彼女さんて、弟をワンクッション挟んでいる時点で弟案件だろうがよ」

「私でもフォローできません。秋野さんは紛うことなきブラコンです」


 俺たちの言葉に、秋野はなぜか妙なショックを受けている。

 

 話が進まないのでこちらから切り出した。


「で、なんだ? 弟君の彼女と秋野の関係ってか?」

「そうだ。今私は、彼女さんである、(たいら)さんと私の関係は一体なんだろうと悩んでいるんだ」

「……悩むも何も。そのまま、弟の彼女、彼氏の姉って関係でしょう」

「違う! い、いや違わないんだが、本当にそんな関係でいいのかという話だ!」


 いまいち秋野が何を言いたいのかわからない。俺も桐花も互いに顔を見合わせて首を傾げる。


 秋野はさらに詳しい説明を始めた。


「最近、弟は平さんを家によく連れてくるようなったんだ」

「あー、前も言ってたな。確かテスト勉強の時も秋野の家でやったんだっけ?」

「そうだ」


 弟君の交際が順調に続いているようで何よりだ。しかし、家族がいる家に自分の彼女をよく連れてくるとは、なかなか度胸がある。


「そういうこともあって、私も平さんと顔を合わせ、挨拶をする機会が増えた。『あ、お姉さん。お邪魔します』『おお平さん。いらっしゃい』こんな感じでな」

「へえ」

「これでいいと思っているのか!?」

「何が?」


 秋野は急に興奮しだした。


「あまりによそよそしくないか! こんな形式ばった挨拶、あまりに他人行儀すぎやしないか!?」

「いや別に普通だろ。何を望んでいるんだよ?」

「もっとこう……あるだろう! お互いの近況を話したりするべきではないのか? 弟との交際は順調かとか。最近弟とどこにデート行ったのかとか。弟とどこまで進んだのかとか!」

「お互いの近況って言ってる割には、彼女さんが一方的に質問攻めに合ってるだけじゃねえか」


 いやだなあ、自分の交際状況を根掘り葉掘り彼女に聞いてくる姉ちゃんって。


「つまり秋野さんは、彼女さんともっと仲良くなりたいと?」

「そうだ! その通りだ桐花さん! 秋野家の未来のためにも、私は将来義理の妹となる平さんと良好な関係を築くべきなのだ!!」

「前も言ったかもしれねえけど、気が早すぎんだよあんたは」


 将来の義理の妹って、そこまで期待されると彼女さんもプレッシャーだろうな。


「第一、別にそこまで仲良くする必要があるか? 仮に義理の妹になるにしても、適度な距離感ってのがあるだろ」

「わかってないな吉岡くん。平さんには将来秋野家に住んでもらう予定なんだぞ? 一緒家に住むんだから仲良くするに越したことはないだろう」

「……もうあんたの中ではそこまで決まってるのか」


 恐ろしい。弟くんだけではなく、彼女さんの将来まで秋野の中で決定してしまっている。

 

 第一、その将来設計だと秋野もずっと実家住まいの予定になる。結婚した時とかどうするのだろう? 婿でも取るつもりか?


「さ、流石に今から将来の同居計画まで考えるのは早いんじゃないですかね?」


 あの桐花ですら引き攣った表情で秋野をたしなめている。


「しかしだな、古今東西、嫁姑(よめしゅうとめ)問題は円満な家庭を築く上で必ず立ち塞がる壁だぞ?」

「だからっ! 彼女さんはまだ嫁じゃねえんだよ!」

「……そもそも、秋野さんは(しゅうとめ)じゃなくて、小姑(こじゅうと)です」


 そんな問題を考えるの、まだ10年は早い。


「まあいい。で、彼女さんと仲良くなりたいんだな?」


 理由は正直どうかと思うが、仲良くなる分には問題ないだろう。


「ていうか別に難しく考える必要はないだろ? 普通に仲良くなればいいじゃねえか」


 短い付き合いながらも、秋野という女子生徒は気さくで話しやすい性格であると知っている。彼女である平さんも性格は悪くなさそうだし、仲良くなるのは難しくないはずだ。


 しかし秋野は身を縮こませ、もじもじしながら言った。


「な、仲良くしようとしても、そのきっかけがわからない」

「はあっ?」

「何を話せばいいのかわからない。だって、共通の話題がないじゃないか」

「あるだろっ!」


 何を言ってるんだこの女は?


「それこそ弟のことを話せよ! 俺たちにこれまで散々してきたみたいによ!」

「……普通に考えて、秋野さんと平さんが最も盛り上がる話題でしょうね」


 二人ともお互い弟くんのことが好きすぎるからな。共通の話題として、これ以上のものはないだろう。


「しかしだな。嫌じゃないか? 弟のことばかり話してくる姉なんて?」

「秋野さん、今更すぎます」

「あ、姉としての威厳が……」

「そんなもん最初っからねえから安心しろ」


 秋野と初めて会った時は、その凛とした佇まいと雰囲気から、もっとかっこいい性格をしているのかと思っていた……ただの勘違いだと気づくまでそう時間はかからなかったが。


「というわけで、秋野さんと平さんが仲良くする方法は、弟さんのことを話す。これでいいですね?」

「ああ。次会った時にでも実践してみろ。一発だから」

「そんな短絡的な……本当にうまくいくのか?」


 秋野は腑に落ちない表情を浮かべたままだったが、俺たちの話し合いはそれで終わった。




 そして1週間後、再び部室を訪れた秋野は俺たちのアドバイスを実践した結果を話した。


「超仲良くなれたよ」

「だろうな」

「でしょうね」

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