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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第1章 GORILLA ドロップス
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鍵の空いた漫研

 それでは宮間さん。改めて何が起きたか話してくれますか?


 桐花に促され、今回起きたと言われる事件の当事者である宮間がおずおずと話し始めた。


 俺に対する警戒心はまだ残っているようだが、びびって口を閉ざすなんてことにはなっていない。先程の俺と桐花のやり取りーー桐花が俺を挑発しまくったにも関わらず、表面的には従順なポーズを見せたことが良かったらしい。


 内心では複雑であったがこれ以上文句は言うまい。黙って宮間の話を聞くことにする。


 事件が起きたのは昨日の昼休み、ここ漫研の部室でのことであったそうだ。


「昨日友達と昼食を取った後に気づいたんだけどね…………あ、友達ってのは同じクラスのさっちゃんとよっちんのことなんだけど。ほら、ここの学食ってたまに変なメニュー出すでしょ? さっちゃんが割とチャレンジャーでさ、向こう見ずって言うのかな? この前『鬼辛赤ラーメン』って超辛いラーメンでで痛い目見たのに懲りずに昨日も『苦さ100倍、地獄のゴーヤチャンプルー』なんてゲテモノに手を出したせいでめちゃくちゃ時間かかってさ、昼休み半分くらい無駄に過ごしちゃったんだよね。さっちゃんも諦めればいいのに、変なところで意地になっちゃって真っ青な顔しながら食べ続けるもんだからさ。すごかったよあの顔色、人間ってあんな色になることできるんだね。私も一口もらったけどもう苦い苦いって、まるでピーマンの苦いとこだけ煮詰めて濃縮したみたいなーー」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 長い長い。思わずストップをかける。


「な、何どうしたの?」

「その『苦さ100倍、地獄のゴーヤチャンプルー』って今回の事件と関係あるのか?」

「え、ううん」

「そのさっちゃんとよっちゃんてのは? 事件の被害者だったりするのか?」

「全然そんなことないけど」


 一切悪びれる素振りもなく言ってのけた。いや、本当に悪気はないのだろう。おそらくこれが宮間の素、とんでもなくおしゃべりな女子生徒なのだ。


「…………頼むから要点絞って話してくれ。必要ない情報が多すぎる」

「う、うん。わかったよ」


 不承不承といった様子で頷かれるが、こんな関係ない話長々と聞いてられるか。


「えーと、それでね。昼食を食べた後に次の数学の宿題を漫研に忘れたことに気づいてね。普段から宿題は部室でやってるんだよね、家とかよりも捗るし、わかんないとこは先輩に教えてもらえるしね。それで最初はめんどくさいから忘れたことにしようと思ったんだけどほら、数学の先生ってあの陰険な中村でしょ? 授業中にずっとネチネチ言われるのも嫌で一回職員室に行って部室の鍵借りてから漫研に行ったんだけどすでに開いてたんだよね。あれ? おかしいな? って思いながら部室に入ったんだけど、中には部長がいてお昼食べてたんだ。ああ良かった、閉め忘れとかじゃなかったってホッとしたよ」

「…………続けてくれ」


 まだ微妙に話が長い気がするが、不必要な情報はそれほどではない。


「部室に入ってしばらく部長とおしゃべりしてたんだけど、授業開始5分前の予鈴がなったから教室に戻ろうとして、あっでも職員室に鍵を返さなきゃって思って部室に鍵をかけた後、部長と一緒に職員室に行ったんだよね。途中まで道が一緒だから」

「ほう」

「でも、部長と別れた後、職員室の扉を開ける寸前で肝心の宿題のことを忘れてたことに気づいて、慌てて部室まで戻ったんだ。もう焦ったよ、授業始まるギリギリだったし、廊下あんなに走ったこと今までなかったかも。それで鍵を開けて中に入ろうとしたんだ、でも…………」

「でも?」

「鍵がね、開いてたんだよ」


 なんとも不思議そうな顔で宮間は首を傾げた。


「閉め忘れてたんじゃねえの?」


 そんなことよくあることだ。だが、彼女は首を振って否定する。


「そんなわけない! 部室には結構高価な物いっぱいあるんだよ! 万が一盗まれたりしたら大変だから普段から戸締まりは徹底するよう言われてるし、あの時もそうしたもん! 部長もあの時見てましたよね?」


 そう言って部長に視線を送る。念押しするように、ね! と迫る宮間にやや引き気味になりながらも、部長はゆっくりと頷いた。


「…………ええ。私もちゃんと確認したわ」


 単純な閉め忘れではないらしい。


「もう私、慌てて部長の教室まで報告に行ったんだ!」

「…………びっくりしたわよ。授業中急に飛び込んできたんだもの」

「そのまま部長連れて部室に戻って中を調べたの。ほら、もしかしたら泥棒に何か盗まれたかと思って」

「…………授業やってる時間の話だよな?」

「いやもうそんなこと言ってらんないっしょ! 漫研の危機なんだから!!」


 まあ、それもそうか。この学園は授業への出席は緩いところがあるから、そんな事情があるなら咎められることもないのかもしれない。


「それで、2人して部室から盗まれたものがないか色々探し回ってる時にーー」

「偶然、私が通りかかった。と言うわけです」


 桐花がなぜか誇らしげに胸を張る。


「……お前こそ授業中に何やってんだよ?」


 桐花が部活に入っているという噂は聞いたことがない。部活動をやっていない人間が部室練にいたこと自体が謎だし、授業中にたまたま通りかかるってどんな状況だ。


「細かいことはいいじゃないですか。それよりもこの事件気になりませんか?」

「つっても、泥棒騒ぎなら警察の仕事だろ? お前の出る幕がねえよ普通」


 そうじゃなくてもあとは学園の判断に任せるしかないだろう。


 そう思ったのだが、この事件はそんな簡単なものではないようだった。


「泥棒騒ぎ? ああ、違うんですよ」


 そう言って桐花はニヤリと笑う。まるでとても面白いものを見つけたように。


「この事件の一番の謎はですね、盗まれたものが何もないことなんですよ」

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