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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第5章 祭に駆ける
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エピローグ 後の祭り

「実を言いますとね、多田団長と中野団長のお二人のことは以前から目をつけてたんですよ」


 体育祭が終わって数日。


 日焼けをしてほんのり黒くなった桐花は部室でそんなことを言い出した。


「というか、一部では超有名だったみたいですよ。あの二人の微妙な距離感、友達以上恋人未満の関係については」


 聞けば小学生以来の幼馴染らしい。そして多田団長の必死のアピールと、それに全く気づかないながらも明らかに意識している中野団長という関係性は、彼らのことをよく知る人たちを随分とヤキモキさせてきたそうだ。


「ってことは、多田団長が中野団長を庇おうとしてたのって」

「はい。私たちに言った体育祭を守ろうとしたというのが3割、中野団長のことを守ろうとしたのが7割くらいじゃないですかね」

「……案外わかりやすい人なんだな」


 そのせいで事件がややこしくなったのは否めないが。


「赤組と白組の対立をなんとかしようと考えた時、この二人の関係性を利用することを真っ先に考えましたね」

「利用て、他に言い方あんだろ」

「いや、流石に罪悪感はありましたよ? 私は男女が恋人同士になるまでの、ほんのり甘酸っぱい関係も重視する人間ですから。そこに横槍入れるような真似は普段絶対にしないのですが」

「罪悪感を持ったのは多田団長の恋心を利用したことに対してじゃなくて、二人の関係を無理やり進めたことに対してかよ」


 やっぱりこの女ずれてやがる。


「でもまあ、あの二人10年はあんなのやってたらしいですからね。次のステップに進むには良い機会だったんじゃないですか?」

「それであの告白劇か」


 悔しいが効果抜群だった。


 体育祭の団長なんてものは人望のある人物にしかできない。つまりこの学園でトップクラスの人気者二人の生の恋愛模様を見せつけられたのだ。そんなの盛り上がらないわけがない。


「多田団長は陸上で全国行った人だし、当然恋愛許可証も持ってるからそこも抜かりなし。お前は本当に……油断も隙もねえやつだな」

「褒め方もうちょっとなんとかなりません?」


 桐花は口を尖らせた。


「いやー、我ながら上手くいきました。本当はあんな大勢の目の前で告白して、勝負に勝ったら付き合ってくれというシチュエーションはベタ過ぎてどうかとも思ったのですが」

「嘘つけよ。ああいうベタなの大好き! って顔してたじゃねえか」


 体育祭が終わった後のこいつの顔ときたら。大好物ばかり並べた欲張りフルコースセットをたいらげた後のように満足気だった。


「……あんなベタなやり方で上手くいくとはな」


 冷静に考えれば茶番もいいところだっただろうに。


「当然です! 前にも言いましたが思春期の男女はみんな恋愛を望んでいるんですよ! いわゆる恋愛欲というやつですね!」

「聞いたことねえよそんな言葉」

「まして体育祭は巨大な(エネルギー)のぶつかり合う場。その熱に当てられた生徒たちは熱狂し、さらなる熱を生む! それこそまさしくーー」

「体育祭マジックだろ。わかったわかった」


 とんだ戯言だと思っていたが、実際にそれを見せられてしまえば否定することもできない。


 そんなやり取りを続けていると、今回の依頼主である進藤が慌ただしく部室へとやってきた。


「お二人とも、やったでござる! 今回の体育祭、アンケートの結果は上々でござる!!」

「あー、ホームルームで書かされたやつか。お前ら実行委員が集めてたのか」

「まだ集計の途中ですが、ほとんどの回答で今年の体育祭は盛り上がったと!」


 どうやら、懸念していた体育祭が終わった後の後腐れもなさそうだ。


「それも全てお二人のおかげ! さすがは恋愛探偵と学園一の不良!!」

「……エロ魔人をやめろとは言ったが、そっちを許容したわけじゃねえからな?」


 本気で感謝してくれているだけにやりづらい。


「あ、そうだ。アンケートにさ、MVPを決める項目があっただろ?」


 今回の体育祭で最も活躍したと思う選手を投票によって決める企画だ。


「それにさ、俺入ってなかった?」


 少し期待しながら聞く。


 流石にMVPに選ばれているとは思わない。 大抵こういうのは体育祭で活躍したクラスの人気者か、当然この体育祭の立役者である両陣営の団長が選ばれるものだ。


 しかしなんだかんだ俺も、点数が大きい『腕相撲』で勝利に貢献した人間だ。少しぐらい票が集まっているのではないだろうか?


 そんなこと思いながらワクワクしているが、進藤の表情は固く、気まずそうだった。


「えっと、吉岡氏への投票ですが」

「うんうん」

「……なかったでござる」

「へ? い、いやいや! せめて1票くらいはーー」

「1票も入ってなかったでござる!」

「1票も!?」


 ショックのあまり声が裏返った。


「なんで!? 俺頑張ったじゃん! 3年の団長相手に勝ったじゃん俺!?」

「あ、アンケートには今年の体育祭で良くなかった点、改善してほしい点を書く欄があるのでござるが。そ、そこに吉岡氏のことが書いてあったでござる」

「な、なんて書いてあったんだ?」


 嫌な予感がしながらも恐る恐る聞く。


「そ、その。『競技の代役をあらかじめ決めておかないと、今後の体育祭で同じような目立ちたがり屋が出てくる』とか、『100%勝てる勝負を無駄に接戦にした金髪がうざかった』など、剛力氏への期待が大きすぎて、吉岡氏が代役として出てきたことそのものに納得していない生徒が大多数のようで」

「チクショウが!!」


 机に拳を叩きつける。


「別にさあ! 体育祭を成功に導いた影の功労者です。なんて言いふらすつもりはねえし、実際俺がやったことなんて大したことねえけどよ、それなりの頑張りにはそれなりのリターンってもんがあるだろうがよ!」

「リ、リターンでござるか?」

「具体的には女子からの称賛の声が欲しい! キャーキャー言われたい……!」

「……やっぱりエロ魔人ではござらぬか」


 いいだろ。多少の役得くらいあっても。 


「まあそう嘆かないでください。吉岡さん」


 そう言って、俯いた俺の肩に桐花が手を置いた。

 

「吉岡さんが頑張ったことも、その理由も、ちゃんとわかってる人間がここにいるじゃないですか」

「桐花……」

「私がちゃんと吉岡さんのことを褒めてあげますよ。他の人の投票なんて気にしないでください」

 

 いつになく優しいセリフに涙が出そうだった。



「まあ、私は多田団長に入れましたが」

「せめてお前は俺に入れろや!!」

 

これにて第5章終了です。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

そして、またしても更新が遅くなり申し訳ありません。

次回は1話完結の短編集を10話ほど掲載する予定です。なので次の更新は比較的早くなると思います。

ですので次回もまた読んでくださるという方は、ぜひブックマーク登録や感想、いいねや下の星マークを押しての評価ををよろしくお願いします。

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