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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第5章 祭に駆ける
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犯人は

「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」


 体育祭午前の部が終わり昼休憩となっている時間帯に、事件の真相がわかったと告げた桐花は関係者を集めていた。


 関係者は白組の多田団長、モニュメント制作の責任者である岡本先輩とその助手の保坂先輩。


「犯人がわかったって本当か?」


 保坂先輩が桐花に詰め寄る。


「どこのどいつだ? 早く教えろ!」


 犯人をとっちめてやる。という気概が見え見えだった。


「まあ、落ち着いてください。全部きっちり説明しますから」


 桐花は冷静に諭す。


「まずはっきりさせないといけないのは犯行時刻です。一体いつ白組のモニュメントに塗料がかけられたのか? ここがわからないと犯人を絞り込むことができませんから」


 容疑者はこの学園の生徒1000人以上。その中から犯人を特定するためには犯行時刻を明確にする必要がある。


「犯行時刻の特定には有力な証言がありました。まず、犯行が発覚したのは当日の応援合戦の打ち合わせが終わった直後、午後7時以降。多田団長が発見しました」


 その直後に多田団長は岡本先輩と保坂先輩に連絡を入れて、倉庫に呼び出している。


「そして多田団長は打ち合わせが始まる直前、午後5時前に倉庫に入ってるんです。これは倉庫近くでトレーニングをしているスキー部が証言してくれました」

「え?」

「多田団長が?」


 初耳だったのだろう。驚いたようにモニュメント制作者の二人は多田団長を見る。


「……本当だ。打ち合わせの前にモニュメントを確認したかったんだ」

「じゃあ、犯行時刻は打ち合わせが行われていた午後5時から午後7時の間ってことか?」


 保坂先輩の言葉を桐花は首を横に振って否定する。


「違うんです。我々も当初は犯行時刻は午後5時から7時の間だと思っていたんですが、ここに来てさらに有力な証言を多田団長から得ることができました」


 そう、その証言は多田団長がひた隠しにしていた秘密。


「午後5時前に倉庫に入った時点で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり、犯行が行われたのは午後5時以降ではなく、5時以前ということになります」

「はあ!?」


 保坂先輩が驚愕のあまり絶叫を上げる。


「なんだそれ!? 一体何をーー」

「その前に、教えてくれ」


 保坂先輩の言葉を遮り、多田団長が桐花に質問する。


「桐花と言ったな? なんで俺がそのことを隠しているとわかった? なぜその秘密に気づいた?」


 そこは俺も疑問だった。


 桐花の口ぶりだと、多田団長が午後5時前に倉庫に入った時点で犯行が行われていたことを確信しているようだった。


「ああ、そんな大した話じゃありませんよ」

 

 しかし桐花はなんてこともないように答える。


「これもスキー部の証言なんですけどね。あの日、事件があったその日に多田団長がこの倉庫に立ち入った人物がいないか聞いてきた。そう言ってたんですよ。これ、おかしいですよね?」

「……別におかしくないでござるよね? 自チームのモニュメントが被害に合っていれば、犯人を探すためにも倉庫に入った人物について聞くのは自然なことでは?」


 進藤の言葉に桐花はかぶりを振って答えた。


「いえ、おかしいんですよ。だってスキー部の活動は午後5時半まで。応援合戦の打ち合わせが終わって多田団長が倉庫に入った午後7時には解散して、すでにその場にいないはずなんです。つまり、()()()()()()()()スキー部に対して多田団長がそんな質問をできるのは午後5時以前しかないんですよ」

 

 そこまで話して一息つく。


 俺も桐花が言わんとしていることがわかった。


「犯行時刻が午後5時以降だと仮定した時、まだ犯行が行われていないであろう午後5時以前に『倉庫に誰が出入りしたのか?』なんて質問をスキー部にするのはおかしい。そう言ってるんだな?」

「その通りです吉岡さん。だから私は犯行が行われたのは午後5時前ではないか? 多田団長が打ち合わせ前に倉庫を訪れた時点で行われたのではないか? そう思ったんです」


 その確証を得るために多田団長の証言が必要だったというわけか。


「ここで当然新たな疑問が生まれます。なぜ多田団長が汚されたモニュメントを発見した午後5時前の時点で騒ぎにならなかったのか?」

「そ、そうだ! おかしいだろ!? なんでそこから2時間も放置してたんだよ!」


 保坂先輩が叫ぶように疑問を口にする。


 多田団長が塗料で汚れたモニュメントのことを二人に知らせたのは、打ち合わせが終わった後の午後7時。


 自チームのモニュメントが何者かに荒らされていたともなれば打ち合わせどころではないはずだ。にもかかわらず多田団長は沈黙していた。


「またまたスキー部の証言なんですが。実はあの日の放課後から午後5時までに倉庫に入った人物は多田団長以外に3人いるんです」

 

 そう言って指を3本立ててアピールする。


「まず最初に、赤組のモニュメント制作の責任者である福原さん。そしてその次が岡本さんです」

「は? 岡本?」

「あ、ああ。確かにあの日打ち合わせ前にモニュメントを見に行った」


 本当か? という視線を送る保坂先輩に対しておずおずと岡本先輩は頷いた。


「そして次に赤組の中野団長。そして、最後が多田団長という具合です。この4人、偶然にも完全にバラバラのタイミングで、すれ違うことすらなく倉庫に出入りしたそうです」


 全員が打ち合わせ前に自チームのモニュメントを確認しようとしたのだろう。そう考えれば不思議ではない。


「ここで重要となってくるのは出入りした順番です。そしてその順番こそが、多田団長がモニュメントが被害を受けていたことを黙っていた理由になります」


 順番。


 モニュメントの被害を発見したのは最後に出入りした多田団長だ。となれば、犯行を行ったのは当然それ以前に倉庫に出入りした人物。


 そこまで考えて、ハッとする。犯人が誰なのか明らかだった。


「ちょ、ちょっと待つでござる! その順番で考えると、犯人は……」


 進藤はその先の言葉を言おうとして飲み込んだ。この場にいる全員、犯人がとんでもない人物だと気付いてしまったから。


 順当に考えて、犯人は多田団長が倉庫に入る直前に倉庫を出入りした人物に違いないのだから。


「その通りだ」


 誰も言葉を発しない中、口を開いたのは多田団長だった。


 苦渋に満ちた表情で犯人の名前を口にする。


「この事件の犯人は、赤組団長の中野だ」



 


 

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