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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第5章 祭に駆ける
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祭の中に

「いや無理無理無理」

「吉岡氏ぃ!」


 赤組の団長と制作責任者の先輩の話を聞いて確信した。


 赤組と白組の冷戦を止めるなんて不可能に近い。それどころか下手につつけば大爆発しそうだ。


「容疑者が多すぎて犯人の特定が困難だとか、正確な犯行時刻がわからないだとか、そんなこと全然大した問題じゃない」


 仮にそれで犯人がわかったところでだ。


「犯人のやらかしの影響がデカすぎて手に負えないレベルになってる」


 最初の事件はきっかけに過ぎないのだ。


 以前桐花は言っていた。体育祭は10代の青少年が抱える(エネルギー)がぶつかる場だと。


 多分それは正しくて、今までこの学園の体育祭が盛り上がってきた理由は、その熱が正しい形でぶつかってきたからこその結果なんだと思う。


 だけど今年の体育祭は違う。犯人が蒔いた火種のせいでよくない燃え方をしている。


 体育祭にかける熱は本来、情熱とか仲間意識とか勝利に向かって一致団結する強い意志とか、そういった(プラス)の感情で生まれるのが正しいはずなんだ。


 しかし今は真逆、怒りとか恨みとか敵チームに対する強い憎しみとか、そういた(マイナス)の感情で熱が生まれてきている。

 

 そして生まれた負の熱(マイナスのエネルギー)が体育祭前にも関わらずぶつかっているのだ。


 そのぶつかり方はまだ静かだが、確かな影響を学園全体に及ぼしている。


「モニュメント作成に直接関わりのないスキー部も、進藤の言葉を信じるなら漫研も険悪な雰囲気になってるんだろ?」


 ぶつかった負の熱に()()()()()のだろう。そこからまた負の熱が生まれて、ぶつかり、当てられる生徒が出てくる。いわば負のスパイラルだ。


 学園全体の空気がすでにそうなっている。こんなの一体どうやって解決すればいいと言うのだ。


「お前あれだぞ? 犯人がわかったとして、もしこの犯人が白組だったら最悪だぞ? 白組が自分のチームのモニュメントを勝手に汚して、そのとばっちりで赤組が白組の奴らにモニュメントを台無しにされたって、こんなの100%白組が悪者になるぞ?」


 仮に赤組が犯人だったとしても、お互いに謝って解決。なんてことにはならないだろう。どうやっても遺恨は残る。


「なあどうすんだよ桐花? このまま犯人探しを続けるのか?」


 体育祭まであと数日だというのに犯人の目星がついていない。そもそも犯人を見つけたところで解決の目処がたたない。ならばいっそ犯人を探すのではなく、この冷戦を終わらせる方法を考えた方がいいのではないか?


 そう思って問いかけたのだが、桐花は俺の声が聞こえていないようで口元に手を当てて何か考え込んでいる。


「……一つだけ、確かめたいことがあります」

「何を?」

「お二人とも、先に部室練に戻って外で待っていてもらえますか? あ、外って部室の外ではなく、建物の外っていう意味ですからね」

「は?」

「すぐ私も向かいますから!」


 そう言って桐花は俺の返事も待たずにどこかに走り去って行った。


「なんというか、自由な方でござるな」

「……まあな」


 ひとまず俺と進藤2人で桐花の言った通り部室練へと向かうことにした。



「……こねえ」


 桐花の指示に従い部室練の外で待機しておよそ20分ほどたった。


 その間進藤と2人きりだが、共通の話題なんて今回の事件ぐらいしかなく、とうに話す内容なんて尽きてしまいかなり気まずい空気になっている。


 進藤も気まずさを感じていたのだろう、必死に話題を絞り出そうと口を開いた。


「それにしても……あれですな」

「……あれってなんだよ?」


 進藤はわずかに躊躇いながらも口に出す。


「吉岡氏、噂とは全く違う人物でしたな」

「いやだから、俺別に女好きじゃねえって」

「違うでござる。学園一の不良の方でござるよ」

「ああ、そっちね」


 エロ魔人ではない方の異名か。


「正直お二人に相談しに行くのは怖かったでござる。それこそ清水の舞台から飛び降りるような気分でござった。身包みを剥がされるのを覚悟してたでござる」

「そんな、山賊じゃねえんだからよ」


 まあ気持ちはわかる。俺も桐花もこの学園では悪名高い生徒だ。


 特に俺なんて見た目から敬遠されるような人間だと自覚している。


「よくもまあ、そんな相談部に依頼しようなんて思ったな?」


 漫研で俺たちのことを聞いていたとしても、普通かなり躊躇うだろう。


「すべては体育祭成功のためでござる」

「体育祭か……」


 正直に言えば不思議だった。なぜこいつはこんなにも体育祭にこだわるのだろうか?


 お世辞にも進藤は運動が得意そうには見えない。見た目はヒョロく、実際に漫研という文科系の部活に所属している。


 そんな彼が入学してすぐ体育祭実行委員に所属したと聞いて驚いたものだ。もちろん、これは俺の偏見でしかないのだが。


 そんなことを思っていたのを悟られたのか、進藤は俺を見て苦笑いを浮かべた。


「言いたいことはわかるでござる。なんでこんな奴が体育祭実行委員なんてやっているのか不思議なのでござろう?」

「あ、いや。俺は……」

「いいでござる、いいでござる。我ながら柄ではないと自覚しているゆえ」


 対して気に障った様子もなく言ってのける。


「確かに自分は運動が苦手で、体育会系とは決して言えないような性格をしているでござる。体育祭で活躍して、女子からキャーキャー言われるような役回りは到底望めないでござるよ」


 でもーー。そう続ける。


「でも、体育祭は楽しみたいのでござる。競技そのものを楽しむことはできなくとも、裏方として体育祭を盛り上げていきたいのでござるよ」

「だから、実行委員に?」

「うむ」


 そう大仰に頷く。


「自分、どんな形であれ、祭りの中ではしゃぎ回りたいのでござるよ」


 そう言い切る進藤を直視することができなかった。


 俺なんかとは大違いだ。


 体育祭を楽しむということを諦めず、自分にできることを必死に探して実行しようとしている。そんな進藤が眩しく思えた。


「進藤、お前……」

「なんでござる?」

「お前。キャラ作ってるだろ?」

「な!?」


 進藤の顔が驚愕に染まる。


「な、何を言うでござる! キャラ作りなど拙者ーー」

「ほらほら、お前今まで一人称で拙者なんて使ってなかっただろうが」

「せ、拙者は常に拙者でござるよ!」

「嘘つけ。ちょいちょい口調がブレるから気になってたんだよな。ていうか、いねえよ。ござる口調の奴なんかこの現代日本に」

「な、何を言うか!」


 慌てふためく進藤。


 ついやってしまった。


 進藤を羨む気持ちを悟られたくなくて、いつも桐花にやる調子で茶化して誤魔化した。


 そんなことをやっていると、ようやく桐花がやってきた。


「お待たせしました!」

「遅えよ」


 小走りで駆け寄ってくる桐花の手には何かぶら下がっていた。


「なんだそれ?」

「バケツです」

「バケツ?」


 よくよく見れば金属製の、持ち手がついたシンプルなバケツだった。


「いやー、すみません。これを探すのに手間取っちゃいまして」

「バケツなんか持ってきて何するつもりだよ?」


 相変わらずこいつの行動は突拍子もなく、謎だ。


「そこに壁がありますよね?」


 そう言って桐花が指差した先には、部室練の壁が。窓もなく、至ってフラットな壁がある。


「で、あそこに柔道部の水道がありますよね?」


 さらに指差した先には、柔道部の本拠地である道場の玄関横にある蛇口のついた水道が。


「……何させるつもりだ?」


 こいつが何をしたいのかさっぱりわからない。……いや、こいつのことだからきっと何か意味のあることをーー


「あの水道でバケツに水を入れて、この壁に向かってぶっかけてください」

「……は?」

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