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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第5章 祭に駆ける
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体育祭実行委員

「そ、相談部のお二人にお願いがあって来たでござる」


 そんな妙な喋り方の依頼人が来たのは、俺たちが体育祭について話し合っていたすぐ後のことだった。


 男にしては長い髪の持ち主であるヒョロリとした体躯の男子生徒。


「お前、確か進藤だよな?」


 俺はその男の名前を知っていた。


 というか、クラスメイトだった。


「そ、そうでござる! 自分、進藤(まなぶ)と申す!」


 妙な口調は別にしても、進藤の言葉は明らかに緊張したものだった。俺と進藤は同じクラスメイトではあるが言葉を交わしたことはない。仲が良いとか悪いとかそれ以前に俺はクラスでは怖がられ、浮いた存在だからだ。

 

 進藤は俺から必死に視線を逸らし、大して暑くもないのに妙に汗をかいている。明らかに俺にビビってる。


「それで進藤さん。お願いとはなんでしょうか?」


 見かねた桐花が進藤に続きを説明するように促す。


「えっと、桐花氏」

「桐花氏!?」

「お主、現在晴嵐学園で起きている問題についてはご存知か?」


 問題?


 俺と桐花はお互いに顔を見合わせる。なんのことだかさっぱりだった。


「問題ってなんのことです?」

「ああ、やっぱり知らなかったようですな。お二人とも1年生であるため無理もないでござるが」


 いまいち話が見えてこない。


「実は自分、何を隠そう今週開催される体育祭の実行委員を勤めておりましてな」

「へえ体育祭実行委員。委員会って確か立候補制だったけか?」

「そうでござる。自分が入学してすぐに実行委員の門戸を叩き、体育祭の成功を目指して粉骨砕身努力して来たでござる」


進藤はそう言うとやや誇らしげに胸を張る。


「実行委員は多忙でござった。当日の日程調整、競技の準備、出場者のリスト作成などなど。高校に入学してから今日この日まであっという間でした。ですが努力の甲斐もあり、無事に体育祭を開催できるというところまで来たでござる」

「そりゃあ……ご苦労さんです」


 俺の知らないところで体育祭に向けて準備を進めていた実行員の進藤には、素直に頭が下がる思いだった。

 

 だが、やっぱり話が見えない。


「しかし! しかしでござる! 体育祭の開催まで後少しとなったところでとんでもないことが起きてしまったのでござる!」

「……それが、さっき言ってた晴嵐学園で起きている問題ですか?」

「うむ!」


 桐花の質問に対して進藤は大仰に頷き、その問題について話し始めた。


「赤組、白組がそれぞれ作成しているモニュメントについてはご存知か?」


 それは知っている。それぞれのチームの象徴になるような祭りの山車(だし)みたいなものだ。以前クラスで体育祭の説明があった時に、去年の体育祭の動画を見せられた。その時は各チームが作成された巨大なモニュメントの前で応援合戦を行なっていた。


「このモニュメント、3年生を中心に志願者を集めて早い段階では春休みから準備を進めていたのでござるが……」

「ござるが?」

「完成間近となった先日の中間テストあけ、白組のモニュメントに塗料がぶちまけられていたのでござる!!」


 進藤は悲壮感を漂わせた表情で、ことの重大性を強調するかのように大声を上げた。


「えっと、それが晴嵐学園で起きている問題ですか?」


 しかし、桐花にはその重大性がいまいち伝わっていなかった。かくいう俺もそんなに大袈裟なものかと懐疑的だ。


「塗料をかけられたことで、白組のモニュメントの完成が体育祭に間に合わないとか?」

「いえ、制作班の迅速な修復のおかげですでに元通りになっているでござる」

「じゃあ問題ねえじゃねえか」


 俺の言葉に対して進藤は『やれやれ』と言わんばかりに首を振る。


「わかってないでござるな吉岡氏」

「吉岡氏!?」

「この事件のせいで晴嵐学園は今赤組と白組に分かれて冷戦状態なのですぞ」

「冷戦?」


 頭に疑問符を浮かべる俺に対して、さらに説明を続ける。


「体育祭の赤組、白組の色分け、あれはどういう風に決められているか知っているでござるか?」

「いや……クジとかか?」

「いえもっと単純に、1年1組は奇数だから赤組、1年2組は偶数だから白組といった分け方でござる」


 適当だな。いや、まあそんなもんか。


「先ほど冷戦と言ったでござるが、正直言って1年生はほとんど関わってないでござる。体育祭も始まってもない今、自分が赤組、もしくは白組であるという意識は希薄でしょうからな」

「だから俺たちが晴嵐学園の問題に気づいてないのも無理はないって?」

「そうでござる。しかし、2年から上の学年はそうではござらん」


 なぜか?


 その疑問に対して進藤は大袈裟に見える手振りを交えながら答えた。


「文理選択でござる。2年生になるとこの学園では文系と理系にクラスが分かれるようになっているのでござる」

「……チーム分けが固定されると言うことですか?」

「その通り」

「えーっと、何が?」


 桐花は理解できたようだが、俺にはさっぱりだった。


「吉岡さん、一度文理選択をしたらクラスが変わらないんですよ。2年1組だった生徒は3年生になっても1組のまま。つまりですね、2年生になった段階で全ての生徒は赤組か白組に分けられて固定されてしまうということです」

「そうでござる。そのせいで2年生から上は自分のチームに対しての帰属意識が強いわけですな。とりわけ3年生はその意識と体育祭にかける情熱が強い。2年連続の勝利、前回の雪辱を晴らす、さまざまな思いが交差する体育祭は毎年、それはもうすごい盛り上がりになるわけでござる」


 ようやく話が俺にも見えてきた。


「なるほど、つまり自分のチームのモニュメントを荒らされた白組の2年3年がキレていると」

「うむ」

「犯人は?」

「それが全く。しかし、白組の皆様は赤組の誰かではないかと考えているでござる。モニュメントの出来具合は審査され、それが体育祭での点数になるわけでござるから」

「まあ、そうだよな」


 白組の誰かが自分のチームのモニュメントを荒らすとは考えがたい。


「……そして犯人がわからないまま手をこまねいているうちに、更なる悲劇が起きたのでござる」


 まだなんかあんのか?


「白組のモニュメントに塗料がかけられてから数日後、今度は赤組のモニュメントが塗料で荒らされたのでござる」

「はあ! またか?」

「犯人はすぐに捕まったのでござるが、なんとそれが白組の3年生男子数人だったのでござる!」

「つまり、報復を行なったと?」

「そう証言してるでござる」


 すげえ過激派だ。体育祭にかける熱量が俺たち1年とは段違いだ。


「当然赤組は激怒したでござる。その3年生たちに謝罪をさせろと要求したのでござるが、3年生たちは謝罪を拒否。先に白組のモニュメントを荒らした人物が謝るのが先だと主張してきたのでござる」

「だけど犯人は……」

「ええその通り、どこの誰かもわかってない状況でござる、そもそも犯人が本当に赤組かどうかも定かではないでござるからな」


 しかし、そうなるとーー


「泥沼だな」

「おっしゃる通りでござる。例年この時期になると赤組白組間の対立でピリつくようでござるが、どちらかといえばそれは良きライバル関係のような、好敵手と書いて友と呼ぶような良い空気感だったのでござる。しかしこのような事件が起きた今年はどこか険悪な空気になっているでござる」


 だから冷戦か。


 説明を終えた進藤は俺たちに深々と頭を下げた。


「相談部のお二人には、白組のモニュメントを荒らした犯人を見つけ出して事態の収集を図ってほしいでござる!」

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