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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第5章 祭に駆ける
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祭の前

本日2話目です。

「そう言えば吉岡さん。今度の体育祭赤組、白組どっちですか?」


 桐花が唐突にそんな話題を切り出したのは、相談部が無事に結成されて数日もしないとある日の放課後だった。


「俺のクラスは確か赤組だったはずだ」

「あ、そうなんですか。私のとこは白組なので敵同士ですね」


 体育祭が行われるのは今週の土曜日。体育祭に向けての準備が最終段階に入り、学校全体が祭りの前夜のような空気になってきたため、俺たちに間でもこの話題が上がるのは自然なことだった。


「何か競技に出ます?」

「いんや、綱引きとかの全体競技しか出ねえよ」


 なんか……気がついたら出る競技クラスのみんな決まってたんだよな。競技を決める話し合いがあったんだけど、何か出たい競技があるか? なんて一言も聞かれなかった。いまだに俺が怖いのかクラスのみんなはよそよそしい。


「お前は?」

「私も似たような感じですね」

「じゃあ、お互い体育祭は暇そうだな」


 俺たち2人とも体育祭ではしゃぐようなキャラじゃないしな。


 そんなことを考えていたのだが、桐花はチッチッチと人差し指を左右に振りながら否定してきた。


「何を言ってるんですか。体育祭なんてビッグイベント、恋愛においても重要なこのイベントを私がただ指を咥えて見ているわけないじゃないですか」

「はあ? 体育祭に恋愛要素なんてねえだろ」

「甘いですよ吉岡さん。普段話したこともない男子が活躍して意識し始めたり、いつも冷めた態度の女子が必死にクラスメイトを応援する姿を見てそのギャップにときめいたり、勝利という目標を一緒に目指すことで芽生える恋心! まさに体育祭マジック!!」

「体育祭マジック」


 また適当なこと言ってら。


「そんなうまいこと行くかね?」

「わかっていませんね吉岡さん。体育祭なんかのイベントは10代の青少年が抱える巨大な(エネルギー)がぶつかり合う場なんですよ? その熱に当てられた結果、恋に落ちやすくなる現象こそが体育祭マジックなんですよ」


 やれやれ、と大袈裟に首を振られた。


「流した汗も涙も全て、胸に芽生えた小さな恋のタネを育む糧となる……ふーっ! 今から楽しみで楽しみでしかたありませんね!」

「体育祭をそんな楽しみ方するのは、日本中探してもお前くらいのもんだろうよ」


 なんやかんやでこいつも体育祭を心待ちにしているようだ。


「ちなみに吉岡さん、運動は得意ですか?」


 桐花がニヤニヤしながら訪ねてくる。


「まあ、得意っちゃ得意だよ。体育で苦労したことはねえな。流石に部活やってる本職にはかなわねえけど」


 特に球技系。あれは単純な運動神経と身体能力だけじゃ技術あるやつについていけないからな。


「あらー、それじゃあ体育祭で全体競技しか出ないのは残念ですね。個人種目で活躍すればクラスの女子からキャーキャー言われたかもしれないのに」

「まさか俺に体育祭マジック期待しているのか? ねーよ」


 いまだにクラスの女子は俺と目を合わせようとしない。


 それに個人種目とは言ってもそんなに出たい競技は特にーー


「あー、でも腕相撲は出てみたかったかな?」

「それって確か、赤組と白組から3人ずつ代表を出す競技でしたっけ?」

「そーそー。体育祭の目玉の一つらしいな」


 代表者3名が己のチームの威信をかけて戦う。全校生徒に見守られながら行う腕相撲は大層盛り上がるそうだ。


「赤組全体から力自慢3人選ぶやつだから選ばれるわけもなかったけど。あ、タケルも同じ赤組だけど選ばれたってよ」


 俺の友人である柔道部エースの剛力(タケル)。腕力だけならこの学園でもトップクラスだ、選ばれない理由がない。


「そんなのに出たいって、自信はあったんですか?」

「結構強い方だと思うぞ。中学ん時は何回かタケルとやって勝ったこともあるし」


 さすがに高校の柔道部でしごかれてメキメキとビルドアップしている今のタケルに勝てるとは思わない。あいつ、会う度にデカくなってる気がするんだよな。


「……赤点取るくらい頭悪いくせに、運動と腕力に自信はあるって。昭和の漫画みたいなチンピラですね」

「うるせえな。赤点ネタまだこすんのかよ」


 中間テストが終わってしばらく経つのに、時々思い出したかのようにこいつは俺が赤点取ったことをなじってきやがる。この分だと、次のテストでまた赤点を取りでもしたら高校3年間ネタにされそうだ。


「というか、高校の体育祭って1学期の中間テスト終わってからなんだな。俺の中学は2学期始まってからだったんだけどな」

「それは学校によるんじゃないですかね? まあ私の中学でも大体9月ごろにやってたから新鮮な気はしますけど」

「だよなあ。6月中旬って梅雨入りギリギリじゃねえか。雨とか大丈夫なのか?」

「天気予報は晴れ一つでしたけどね。というか、晴嵐学園の体育祭って雨降ったことないらしいですよ」

「まじか」


 そんな話を聞くと、何やら不思議な力がこの学園に味方しているような気になってしまう。


「まあ、地域特有の気候やらなんやらが作用して、この時期は降りにくいってだけだとは思いますが」

「ふーん。まあ別にいけどよ」


 別にこの体育祭に思い入れがあるわけではない。


 なんなら雨が降ってお流れという形になっても特に支障はないだろう。この体育祭のために今まで力を入れてきたであろう生徒たちには申し訳ないが。


「特に問題なく開催できそうだな。ならこっちはこっちでのんびりやらせてもらうよ」


 ーーなんて、この時はそんな呑気なことを言ったものの、俺たちの知らないところですでに問題は起きていた。


 そしてその問題に対処すべく、他人事のように思っていた体育祭に深く関わることになるなんて、この時はまだ想像もしてなかった。

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