第5章プロローグ 決戦前
更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
第5章スタートです。
第5章終了まで毎日更新したいと思います。
「……暑いな」
6月半ばの日差しは強い。梅雨入りもまだだというのに、夏を感じさせるような日照りだ。
太陽がジリジリと体操服から出た手足、そして俺の自慢の金髪を灼く。俺はほぼ無意識にその金髪を撫でる。
頭を短く刈り上げてからおよそ1ヶ月半。最初の頃は短くなった頭髪が心許なかった。それに加えてじょりじょりとした感触が妙に気持ちよいせいで頭を撫でることが癖になってしまった。
流石に今はその感触はない。すでに坊主頭とは言えないくらいには髪が伸びた。
「早いなあ」
もうこんなに伸びたのか。時間が経つのは早い、髪を切ってから……いや、高校に入学してからあっという間だ。
気がつけば高校生活で初のビッグイベント、晴嵐学園体育祭が開催されている。
太陽に負けないような熱気が赤組と白組に分かれた生徒たちから放たれている。
両陣営からは応援の声や相手チームへのヤジ。体育祭中ずっと流れているマーチのBGMが霞むくらいの声量だ。
本来であればこの熱気は歓迎されるべきものだろう。高校生活における青春の一幕、体育祭とは勝っても負けてもいい思い出で終われるのが相場だと俺は思っている。
だが、今回の体育祭は違う。
赤組、白組、双方から放たれる熱の質とでもいうべきだろうか? それが明らかに俺が想定していたものと違う。
具体的に言えば、明らかに殺気を含んでいる。
お互いに向ける敵意がまるで可視化されているかのようだ。
先ほどは相手チームへのヤジなどと言ったが、それはかなりマイルドな表現だ。もっと汚い、お互いを罵り合うような言葉が飛び交っている。
通常の体育祭では起こり得ない両陣営の対立。いつ乱闘になってもおかしくないような一触即発の空気が広大なグラウンドを支配している。
体育祭が開催される随分前からその兆候はあった。赤組と白組は体育祭の準備期間中ずっと険悪な雰囲気であり、水面下では小競り合いが起きていたと聞く。
だがそれはあくまで小競り合いのレベル。ド派手に衝突するようなことがあれば、体育祭そのものが中止になる可能性があるとみんなわかっていたからこそ抑えられていたのだ。
抑えられることで溜まりに溜まったフラストレーション。それをぶつけるのに体育祭は絶好の大義名分だった。
正直に言えば舐めていた。
赤組、白組両陣営の対立の経緯の詳細を知っていたのだが、ここまで剣呑な体育祭になるとは思っていなかった。
高校生が内側に抱えている熱。そのタガが外れた時、どういったことが起きるのか全く想像できていなかった。
「やっぱ、やるしかねえよな」
この体育祭、どちらか勝っても負けても遺恨が残る。そうならないようになんとかするのが今回の依頼だ。
そのために、俺はなんとしてでもやらなくてはならないことがある。
ここまであっという間の高校生活だったが、桐花という女に出会ってからその内容はとんでもなく濃密なものだった。
そんな濃密な高校生活の中でも、ここまで緊張することは初めてだ。
「怖えなあ」
情けないことに体が震えそうだ。
この体育祭、無事に終わらせられるかどうかは俺にかかっている。
もし俺が失敗したら……あんまり想像したくないな。最悪の場合袋叩きにされるかもしれない。
まあ、袋叩きは大袈裟だとしても、ただでさえ低い俺の評判は今度こそ地に落ちるだろう。
だけどやるしかないのだ。
晴嵐学園体育祭午前の部、最終競技『腕相撲』
俺は覚悟を決めて、決戦の地へ向かった。
本日もう1話更新します。




