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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第4章 なぜ勉強をして来なかったんだろう?
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エピローグ これからも

「はい吉岡くん。これ追試の結果ね」


 放課後、部室を訪れた清水先生は、先日行われた追試の答案用紙を俺に手渡した。


「英語も国語も合格。おめでとう吉岡くん」

「あざっす」


 教室で渡すと他のクラスメイトに追試を受けていたことと合否がバレてしまう。その辺りを配慮して、先生はわざわざ部室まで持ってきてくれたようだ。


「当然です。この私がみっちり勉強を教えたんですから……って、点数ギリギリじゃないですか!」


 まあもっとも、部室で渡されると一番バレたくない奴にバレることになるわけだが。


「まあまあ。合格は合格だから」

「そうだそうだ!」

「調子乗らないでください、この赤点」


 辛辣な言葉を桐花に投げられる。


「まあでも、次のテストではもうちょっと頑張ってくれると先生嬉しいかな」

「うっ、次のテスト」


 先生の言葉に顔をしかめてしまう。


「いや、ほら。次のテストまでまだ時間あるし」

「期末テスト7月頭だからもう1ヶ月切ってるわよ?」

「え、まじ? ……いやいや、今回のテストで高校5教科のテストがどんな感じかわかったからーー」

「期末は5教科に加えて保健体育とか家庭科なんかも加わりますよ。そもそも4月から7月まで教わったこと全部が範囲ですから中間テストとはレベルが違います」

「…………俺もう高校辞めるわ」


 無理だ。未来が見えない。


「馬鹿なこと言ってないで、今からでもちゃんと勉強してください」


 そんな俺の絶望を桐花は切って捨てた。


「安心してください吉岡さん。期末テストまで私がきっちりと勉強を見てあげますよ。赤点なんて一つも取らせませんから」

「おお、桐花……」

 

 自信満々に胸を張る桐花。いつもだったら鬱陶しく感じるそのドヤ顔が頼もしかった。


「吉岡さんの小学生レベルの残念な脳みそでも、この私にかかれば一般的な中学生レベルまでは引き上げられますから」

「……お前ほんといつも一言余計だよな」


 それさえなけりゃ俺も素直に感謝できるのに。


「あっ、あとね。相談部の申請、学園側は正式に受理したから。これで晴れて相談部設立ね」

「本当ですか!」


 歓喜の声を上げる桐花。


「これで私の野望が、学園中の恋愛話を全て集める私の野望が一歩前進しました!!」

「せめて教師の前でくらい取り繕え」


 一応、生徒達の悩みを聞いて解決するという建前で作られた部活だろうが。


「おめでとう。よかったわね、何事もなく部活動が認められて」


 何事もなく。


 先生のその言葉に、俺と桐花は顔を見合わせてお互い苦笑いを浮かべた。


 先生は知る由もないのだが、ここに至るまで紆余曲折あって、相談部は設立前に消滅寸前だったのだ。




 風紀委員の藤枝に対して、桐花がこれからは風紀委員には従わないと啖呵を切ったあのあとのこと。


 藤枝は少しの間無言で考え込んで、やがて俺たちに対してこう言った。


『わかりました。風紀委員には私の方からあなた達に関わらず静観する様に進言しておきます』


 それは実質、風紀委員は俺たちの部活から手を引くという宣言だった。


『どうせ好き勝手やられるなら、部活動という形で管理したほうがまだましね』


 その言葉を聞いた桐花が、藤枝に見えない位置で拳を握りガッツポーズをしていた。部活が潰されようがどうでも良いと口では言っていたが、本心としては相談部の存続を望んでいたのだろう。


 もう用はないと言わんばかりに、足早に部室から去ろうとする藤枝を俺は呼び止めた。


『なあ、あんたにとって岸本は自分の信念を曲げるほど大切な存在なのか?』


 ちょっとした意地悪のつもりだった。


 友人を守るためとはいえ、俺たちを利用して桐花を悩ませた藤枝に対する意趣返し。


 そんな俺の質問に、藤枝は振り返ることなく答えた。


『信念を曲げたつもりはないわ』


 一切迷いのない言葉だった。


『私は彼女が友人だから助けたんじゃない』

『じゃあ、何で助けたんだ?』


 そこで藤枝は振り返り、俺をまっすぐ見据えてこう言った。


『ゆかりは、努力できる人間だからよ』


 そんな短い答えと共に、風紀委員の藤枝は去って行った。


 



「努力できる人間か」


 あの日のことを思い出していると、そんな言葉が不意に口からこぼれた。


「何ですか急に?」


 桐花は変なものを見る目を俺に向けてくる。


「いや、俺も真面目に勉強すっかなと思って」


 そんな俺の言葉がよっぽど意外だったのか、桐花は目を大きく見開いた。


「どうしたんですか吉岡さん。熱でもありますか? 吉岡さんが真面目に勉強しようだなんて、どういう風の吹き回しですか?」

「お前なぁ。せっかく出したやる気を削ぐようなこと言うのやめろよ」


 ちょっとやる気を出してみてこの反応はないだろう。


「ふふふ良いことじゃない。吉岡くんがせっかく頑張ろうって気持ちになったんだから、桐花さん応援してあげないと」


 清水先生が桐花を優しく嗜める。


「わからないところがあればいつでも聞いて。先生がちゃんと教えてあげるから」


 ……本当、良い先生だ。何で結婚できないんだろう?


「桐花さんも、さっきも言ってた通り吉岡くんの勉強見てあげてね?」

「当然です!」


 先生に依頼された桐花は胸を張り、俺の方を向いて笑みを見せた。



「だって吉岡さんは、これからもずっと私の助手なんですから」

「……まあ、よろしく頼むわ」

これにて第4章終了です。

今回の章、更新が半年以上も遅れてしまい申し訳ありませんでした。

次章もいつ更新となるかわかりませんが、できる限り早く更新するよう努めますので、今後ともこの作品をよろしくお願いします。

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