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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第4章 なぜ勉強をして来なかったんだろう?
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特定

 秋野が去った後、俺たちは彼女からもたらされた情報について整理を行っていた。


「岸本と藤枝が同じ中学の、同じ部活所属だった?」


 それは、全く予想だにしていなかった情報だった。


「ってことは、何か? あいつ友達を処罰しようとしてんのか?」


 いくら「鉄の女」とはいえ、それはあまりにも冷酷すぎやしないか?


 信じられない思いで呟いたセリフに、桐花は冷静に返す。


「同じ部活だったからと言って仲が良かったとは限りませんよ」

「だとしてもだ。元はといえ同じ部活仲間だぞ?」


 昨日話し合ったことで、多少なりとも藤枝と言う女子生徒のことを理解したつもりになっていたが、今回の件でまたしても彼女のことがわからなくなってきた。


「藤枝はなんでこの事俺たちに教えなかったんだ?」

「……必要ないと判断したのかもしれません。岸本さんについての情報はもらった報告書に書かれていることが全てで、それ以上の情報を出すことができないからわざわざ言う必要がなかった。と」

「何か知ってりゃ、まあ先に言うか」


 となると、この情報はあまり価値がないな。


 そう思ったのだが、桐花は何やら口に手を当てて考え込んでいた。


「……いや、もしや別の思惑が? あえて情報を私たちに渡さなかった?」


 ブツブツと呟き続けていた桐花だが、しばらくすると首をブンブンと横に振り顔を上げた。


「この件についてはひとまず置いておきましょう。まずは岸本さんの恋人を特定しなくては」

「じゃあ、次はどうすんだ?」


 これまでの調査で得た情報からは、岸本の恋人を特定することができていない。


 正直に言って、誰が恋人であってもおかしくはない状況になっている。


「恋人の候補の一人である、伊沢健司さんについて話を聞きたいと思います」

「ああ、確か図書委員で前に(いつき)にラブレター送ってた可能性のあった」


 結局全く関係のない人物ということで落ち着いたのだが。


「はい。なので今回は樹さんに話を聞きたいと思います。秋野さんとは時間をずらして約束していたので、もうそろそろ来ますね」


 樹が相談部に訪れたのは、桐花がそう言ってから数分もたたない頃合いだった。



 遠慮がちなノックと共に訪れたのは、長身長髪の女子生徒。


 相談部部員であり、図書委員に所属している樹このはだった。


「お、お久しぶりです」


 樹はおずおずと頭を下げて挨拶をしてくる。


「まあ久しぶり、ってほどでもないだろ」

「前にお会いしたのが1、2週間くらい前ですかね?」


 樹も一応この相談部の部員であるが、図書委員の仕事が忙しいため名前を貸してもらっているだけの幽霊部員状態だ。


「そ、そうでしたっけ? 会わない間に中間テストとかありましたし、ずいぶん長いこと会ってないような気がしちゃって」

「……樹、中間テストの話題はやめよう」


 俺が赤点を取ったことに対して、桐花はずいぶんお怒りのようだ。

 

 その話題が出るたびになじられる。


「え? 中間テストがどうかしたんですか?」

「いや、何でもないからーー」

「樹さん。この人赤点取ったんですよ」

「桐花お前さあ! 会うやつ会うやつに俺の赤点のこと言うなよ!! 個人情報だろうがいっ!!」


 いくら俺でも、頭が悪いことがバレるのは恥ずかしいのだ。


「ハハハ! 赤点って、お二人ともそんな冗談を。高校一年生の中間テストで赤点取る人なんているわけないじゃないですか」


 桐花の言葉を冗談だと受け取った樹が無邪気に笑っている。


 悪意のない言葉が俺の胸にグサグサと突き刺さる。


 項垂れる俺を見て、樹の言葉に動揺が混じった。


「え、え? 本当に赤点取ったんですか!? そんな人本当にいるんだ……」


 まるで未知の生物に遭遇した時のような視線を向けてくる樹。下手に責められるよりも辛かった。


「だ、だって。普通テスト勉強してれば赤点なんてーー」

「勉強してなかったんだよぉっ!! 高校一年の中間テストなんて範囲も狭いし楽勝だぜって余裕ぶっこいてたら、案の定このザマだよチックショウ!!」

「ひっ!」

「吉岡さん。樹さんを怖がらせないでください」


 うるせえ! そもそもお前がこの話題を出してきたんだろうが!!


「もういいだろ俺の赤点は! こんな話聞かせるために樹呼び出したんじゃねえだろ!!」


 とっとと本題に入れよ。


「仕方ないですね。……樹さん。樹さんにお聞きしたいことがあって今日来てもらいました」

「は、はあ。なんでしょう?」

「図書委員の伊沢健司さんについてなのですが、伊沢さんに恋人がいるって話を聞いたことありませんか?」


 藤枝の報告書によれば、図書委員の伊沢健司は岸本と同じクラスで入学当初から隣の席という関係。


 入学して初めての環境で隣の席の人物と仲が良くなるのは自然なこと。問題は、それが交際にまで発展しているかどうかだ。


「伊沢くんですか? ごめんなさい、そういう話は聞いたことがありません。サッカー部だし結構人気があるって聞いたことはあるんですけど」


 案の定と言うべきか、樹からは期待した情報は得られなかった。


 そもそも風紀委員が確証を得られていない情報を、たかだか同じ図書委員というだけの樹が持っているわけないのだ。


 結局進展がないことに俺は肩を落としたが、桐花はさらに質問を続けた。


「中間テストの期間、サッカー部が集まって図書室で勉強していたという噂をお聞きしましたが、本当ですか?」

「へ? は、はい。そうですけど」

「……なんだよ。また中間テストの話か?」


 俺のぼやきを無視して桐花は質問を続ける。


「伊沢さんもサッカー部でしたよね? 伊沢さんもいましたか?」

「は、はい。伊沢くん前に愚痴ってたんですけど、テスト期間中の昼休みと放課後はずっと強制的に勉強させられたって。サッカー部の伝統だそうです。その、赤点を取る部員が出ないように……」


 赤点、の部分で樹が俺の方を遠慮がちに見てきた。


「そうですか……樹さんありがとうございました」

「は、はい。あの、お役に立てましたか」

「はい……そうですね。樹さんの情報は私たちが今調べていることにとても役立ちます」


 礼を述べた桐花は、そのまま部室から去る樹を見送り椅子に深く腰掛けた。


「結局、これと言った情報はなかったな」


 捜査が進展していないことを悲しむべきなのか、喜ぶべきなのかよくわからない。


 どうすりゃ良いんだろうな。


 そんなことを誰に聞かせるわけでもなく呟くと、桐花が首を横に振って反応した。


「いえ。今の樹さんからの情報は岸本さんの恋人を特定するのにとても役立つものでした」

「は? 今のが?」

「はい。それも、決定的なほどに」


 そして、天を見上げて深くため息をついた。


「……本当のことを言いますとね。実は割と最初の段階からなんとなく目星はついてたんですよ」


 桐花はまるで懺悔するかのように言葉を絞り出した。


「目星? それって岸本の恋人のことか?」

「ええ」

「それに最初からって、どのくらいのことを言ってんだ?」

「本当に()()()()()ですよ」


 桐花らしくない曖昧な返事だった。


「実を言いますと、今回の調査結構手を抜いてたんですよね。必要のない聞き込みをしたり、無駄にお話を聞いたりして時間を稼いでいました」


 それは、藤枝の脅迫に対しての僅かばかりの抵抗だったのだろう。


「でも、樹さんのお話を聞いて確信を得ました」


 そう言って自嘲気味に笑った。



「岸本さんの恋人が誰なのか、わかりました」

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