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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第4章 なぜ勉強をして来なかったんだろう?
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北上中学出身

 調査を開始して2日目の放課後。俺と桐花は相談部の部室で向かい合いながら座っている。


 重要な話がある。そう言った桐花の真剣な眼差しに緊張感を持ちながら、彼女が一体何の話をするのだろうかと待っていた。


「で、昨日私がいない間あの女と何を話してたんですか?」

「……今後の方針とかじゃねえのかよ」


 緊張していた体から力が一気に抜ける。


 差し迫った危機が目の前にあるのに随分と余裕だな。


「重要な話ですよ! あの女にうちの大事な部員が懐柔されている可能性があるんですから!」

「懐柔って」


 少しどきりとする。昨日の藤枝の話に感心させられたのは確かだった。


「吉岡さん女好きですしね」

「お前の中の俺ってそんなイメージなの?」


 心外だ。俺はもっと硬派な男だろうが!


「話つってもなあ……」


 俺は桐花に、昨日藤枝が語っていた風紀委員が無許可で交際を行っている男女を明らかにするシステムについて、そして藤枝という女子生徒が恋愛が好きであること、風紀委員であることに誇りを持っていることなどを話した。


 仏頂面で話を聞いていた桐花は、段々とその表情に不機嫌さを増していった。


「あの女が恋愛好きぃ? はっ、ちゃんちゃらおかしいですね! かぁー、ぺっっ!」

「この女、ガラ悪っ」

「恋愛好きを自称するならもっと恋人達の可能性を信じるべきです! 何が未熟な人は恋愛をするべきではないですか! 未熟な2人が恋愛を通じて成長していくのが醍醐味でしょうに!!」


 案の定、藤枝の考え方は桐花には受け入れられないものだったらしい。


「なあ、考えたんだが。岸本の恋人を藤枝に報告しても最悪なことにはならないんじゃないか?」

「どういうことです?」

「昨日藤枝が言ってたんだが、無断で恋愛している男女が発覚してもすぐに停学にならないんだと。最初は別れるように通達が来て、少なくとも2回までは見逃されるって言ってた。だったら今は大人しく別れて、どっちかが許可証を取るか、長くても高校を卒業するまで待てばいいんじゃないか?」


 そうすれば少なくとも岸本とその恋人は停学になることはない。成績や進路に響くことはなくなる。


 何より、俺たちの部活が存続できるのだ。


 しかし、俺の提案に桐花は首を横に振った。


「ダメです。そうなった場合、本当に2人が別れているかどうか風紀委員にとっては監視の対象になるはずです。お互いまた摘発されるのを恐れて学校で会話することすら難しくなるでしょう。そんなことになれば2人の心は離れて元に戻らなくなる可能性があります」

「……なるほど」

「何より高校生活は3年間しかないんですよ。その3年間を我慢すればいいだなんて、簡単に言えるわけないじゃないですか」


 桐花の語る言葉は、岸本とその恋人を引き裂く側からのものだった。そのことにこいつは気づいているのだろうか?


「なあ、桐花……」


 それがわかっていて、本当にまだ続けるつもりなのか?


 そうやって問いただすことができなかった。桐花はまだ迷っている。答えることはできないだろう。


「……昨日、情報収集に行くって言ってたが、成果はあったか?」


 質問を変える。


 まだ答えを出すことができないのなら、別のことに時間を使うべきだ。


「恋人候補の1人ある山本さんについて調べてきました」

「確か、岸本と同じ中学のやつだよな?」

「はい。中学時代はかなり仲が良く付き合っていると噂になるほどでしたが、高校に入学してからはクラスが離れたのもあって2人が一緒にいる頻度はかなり減ったみたいですね」


 その辺りは藤枝の報告書にあった通りか。


「やっぱクラスが離れると会いに行きづらいからか? まして2人は異性だからな」

「もしくは付き合っていることを周囲に悟られないようにするための偽装、って線もありますね。どっちにしろ決定的な情報はありませんでした。山本さんが帰宅部ということもあって情報が手に入りづらいんですよね」


 今までであれば同じ部活の友人だったりに話を聞くことができたが、山本の場合はそうもいかないと。


「というわけで、岸本さんと山本さんの2人の情報を持っている可能性のある人物をお呼びしています」

「いんのか? そんな都合のいい存在が?」

「いますよ。お二人の出身中学どこだったか覚えてますか?」

「確か、北上中学って……あ」


 北上中学。


 そうだ、つい最近ある人物からその中学に通っている弟について相談を受けたばかりだ。


 弟が北上中学の生徒ということは、姉であるその人物も当然北上中学出身。


秋野楓(あきのかえで)さん。そろそろ来るころじゃないですかね?」


 桐花がそういうと、タイミングよく扉からノックの音が聞こえてきた。




「やあ、お邪魔するよ」


 爽やかな挨拶と共に訪れた相談部の部員の一人である秋野。


 そんな彼女に、桐花は自分が座っていた席をすすめて俺の隣のへと移動した。


 俺たちと対面する形になった秋野は席に着くや否や、深々と頭を下げてきた。


「弟の件はお世話になりました。本当にありがとう」

「いやいや、もういいって。何回目だこのやりとり」

「そうですよ。頭上げてください」


 弟くんの一件を解決した後、秋野は会うたびに俺たちに礼を言ってくる。悪い気はしないのだがどうもやりにくい。


「いや、いくらお礼を言っても言い足りないくらいだ。弟と彼女の睦月さんはあれからうまくやっている様でな。この前なんと、一緒に勉強すると言って我が家にやってきたのだ」

「へえ、彼氏の家で勉強会」

「素晴らしいイベントですね!」


 多分彼女さんの方が持ち前の積極性でやろうって言い出したんだろうな。


「我が家はもう大騒ぎだったぞ。父も母も祖父母も親戚も集まって、危うく宴会になるところだった」

「勉強させてやれよ」


 そうじゃなくても二人きりにさせてあげるべきだろうそこは。


「まあ、この話はまたの機会にするとして。今日はどうしたんだ? 何か聞きたいことがあるって言っていたが」

「えーっとですね……」


 ようやく本題に入れるようになったが、やはり桐花にはためらいがあるのか口ごもっている。


 それをフォローすべく、俺から質問を切り出した。


「秋野って、北上中学出身だよな?」

「ああ。そうだが?」

「同級生に岸本ゆかりっていただろ? ほら今うちの学園の合唱部にいる」

「ああ、岸本さんか。彼女がどうかしたのかい?」


 よかった、岸本のことを知っていた。


「今俺たち岸本のことを調べてんだけどさ。岸本が中学の時誰かと付き合っていたって話聞いたことないか?」


 中学時代の情報が得られると期待しての質問だった。


 しかし、秋野は申し訳なさそうな顔で首を横に振った。


「すまない。岸本さんの名前は良く知っているのだが、3年間同じクラスになったことがないからな。話したこともない」

「あー、まじか……」


 北上中学って、この辺りじゃかなり生徒数の多い中学だったはずだ。そう考えればクラスが別々であることも考えるべきだった。


「山本優さんという方はご存知じゃないですか? 同じく北上中学出身で、岸本さんと仲が良く付き合っているのでは? という噂もあったようですが」

「いや、そういうゴシップには疎くてな。山本さんとやらには申し訳ないのだが彼の方は名前も覚えていない」


 桐花の質問も空振りに終わる。


 俺と桐花はそろってため息をついた。情報を得られなかったのは残念だが、調査が進まなかったことは俺たちにとっては少しホッとする展開だ。


 そんな俺たちの複雑な心境を知らない秋野は、慌てた様子を見せた。


「す、すまない。なんの情報も持ってなくて」

「いえ、秋野さんが謝ることではないですよ」

「ああ。どっちかと言えば秋野と岸本が別クラスだったことを調べなかったこっちが悪い」


 申し訳なさそうに謝ってくる秋野に対してフォローを入れる。


 さて、これで秋野に聞きたいことはなくなってしまったわけだが、かと言ってこのまま帰ってもらうのもなあ。


 そのことがこの場にいる全員わかっているのか、お互い顔を見合わせてどうするべきか探るような視線を向け合う。


 最初に口を開いたのは秋野だった。


「そ、そうだ。今の話で思い出したんだが、二人とも中間テストの結果はどうだった?」


 とりあえず世間話で乗り切ろうとしたのか、秋野は適当な話題を振ってきた。


「私の中学だと成績上位者は掲示板に順位と点数が張り出されてたんだが、この学園ではそういったことしないだろう?」

「あー、確か成績がいい人って恋愛許可証をもらえるから、誰がもらっているのかわからないようにするための処置だったと思います」

「へえ、そういう事情だったのか」


 どっちにしても俺には関係のない話だが。


「いまいち自分の取った点数がいいものなのかどうか判断し辛くてね、よければ順位と点数を教えて欲しいんだが」

「いいですよ。私は確か5教科で合計442点。順位は確か学年25位だったはずです」

「おお! さすが桐花さんだ。私はどうも英語が苦手でね、合計で423点。順位が36位だった」


 英語が苦手でその点数? 嘘つくなよてめえ。


「吉岡くんはどうだった?」

「俺? 俺は確か20位くらいだったかな? …………下から数えて」

「……今、小声で何か言わなかったか?」

「秋野さん聞いてください。この人赤点取ったんですよ。それも2つも」


 責めるような桐花の視線と、信じられないものを見る秋野の視線が痛くて顔を背ける。


「あ、赤点? 赤点のラインって確か40点とかだろう? そんなの授業聞いてれば勉強しなくても取れるだろう?」

「はいはい! 出ましたっ! 授業さえ聞いてれば!! それが言えるのは頭が良くて普段から授業をちゃんと聞いてるいい子ちゃんだけですぅ!」

「……何逆ギレしてるんですか。授業ちゃんと聞いてるなんて当たり前のことじゃないですか」


 どいつもこいつもいい子ちゃんばっかりだな!


「何度も言いますけど、来週の追試絶対通ってくださいよ。そうしないと相談部は……」


 桐花はそこまで言って言葉を切り、恐る恐る秋野を見た。


「うん? 追試に合格しないと何かあるのかい?」


 キョトンとした表情の秋野。


 秋野には俺たちが抱えている事情を話していなかった。


「えっと、そのですね……」


 言い淀む桐花を見て、少し悲しげな表情を秋野は見せた。


「私には話せない内容か?」

「……ごめんなさい」

「いや、いいんだ。桐花さんが抱えている案件ということは、人にあまり話せないようなデリケートな話題なんだろうし仕方がない。でも、私も幽霊部員とはいえ相談部の一員なんだ。何か困ったことがあれば遠慮なく言ってくれ。いつでも力になる」


 心強い言葉だった。


「まあ、今回はなんの力にもなれなかったわけだが。……あ、そうだ。岸本さんのことなら詳しい人がいるじゃないか」


 そう言って秋野は、思い出したかのように手をポンと打った。



「風紀委員の藤枝さんって知ってる? 彼女も北上中学出身で、岸本さんと同じ声楽部だったはずだけど」

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